SpaceXは2025年12月27日、Falcon 9ロケットによる今年最後の打ち上げを予定している。
イタリア宇宙機関とイタリア国防省のCOSMO-SkyMed Second Generationミッションで、カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から太平洋時間午後6時8分に打ち上げられる。
使用される第1段ブースターは21回目の飛行となる。SpaceXは2025年に165回の打ち上げを達成し、前年の記録を31回上回る年間記録を樹立する。
ミッションの大半はStarlink衛星の配備で、残りは政府や組織向けの衛星配備、国際宇宙ステーションへの乗員・貨物輸送だった。
また開発中のStarshipロケットも5回打ち上げられ、最新のものは10月に実施された。
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SpaceX preps the final rocket launch of its blockbuster year
【編集部解説】
SpaceXが2025年を記録的な年として締めくくろうとしています。12月17日時点で既に年間165回のFalcon 9打ち上げを達成しており、前年の134回を31回上回る新記録を樹立しました。12月27日に予定されているCOSMO-SkyMed Second Generationミッションは166回目、その後12月28日にもう1回Starlinkミッションを実施し、最終的に167回で年を終える見込みです。
この驚異的な打ち上げペースは、単なる数字の積み重ねではありません。SpaceXは世界中の全ての打ち上げ事業者を合わせた数よりも多くの打ち上げを単独で実施しており、文字通り宇宙産業の半分以上を占める存在となっています。当初SpaceXは2025年に170回の打ち上げを目標としていましたが、事業およびマニフェストのニーズに基づき夏に165回に修正しました。
12月27日のミッションで使用される第1段ブースターB1081は21回目の飛行を迎えます。SpaceXの再利用技術の象徴的存在といえるでしょう。同社のブースターB1067は2025年12月時点で32回の飛行記録を持ち、ギネス世界記録を保持しています。このような再利用技術により、SpaceXは打ち上げコストを従来の使い捨てロケットと比較して70〜80%削減し、1キログラムあたり約2,700ドルという破格の価格を実現しています。
今回打ち上げられるCOSMO-SkyMed Second Generation(CSG)は、イタリア宇宙機関とイタリア国防省が運用する第2世代の地球観測衛星コンステレーションの3番目の衛星です。合成開口レーダー(SAR)を搭載し、天候に関係なく昼夜を問わず地表を観測できる能力を持っています。高度619キロメートルの太陽同期軌道で運用され、民生・軍事の両用途に使用されます。
COSMO-SkyMedシステムは、自然災害の監視、農業、海上監視、偵察、地図作成、リスク管理など幅広い用途で活用されています。2022年のトンガ火山噴火や、過去のイタリア地震、日本の台風被害など、世界中の災害対応において重要な役割を果たしてきました。第2世代衛星は、複数の偏波データを同時に取得できる機能が追加され、より迅速な対応と効率的な衛星運用が可能になっています。
SpaceXの2025年の打ち上げの大半(70%以上)はStarlink衛星の配備で占められています。Starlinkは現在9,000基以上の衛星を運用し、世界200カ国以上で900万人以上の加入者にサービスを提供しています。この急速な展開を支えているのが、Falcon 9の高頻度打ち上げと再利用技術です。
注目すべきは、SpaceXが2025年に開発中のStarshipロケットを5回打ち上げたことです。最新のものは10月に実施されました。Starshipは将来的に月や火星への有人・貨物ミッションに使用される予定で、SpaceX COOのグウィン・ショットウェル氏は、最終的にはStarlink衛星の打ち上げをFalcon 9からStarshipに移行し、次の10年間でFalconプログラムを段階的に廃止する計画を示しています。
この記録的な打ち上げペースは、宇宙アクセスコストの劇的な低下と宇宙産業の民主化を象徴しています。新興国やスタートアップ企業が軌道へのアクセスを容易に得られるようになり、衛星通信、地球観測、科学研究のインフラが世界中で加速的に整備されています。
一方で、低軌道の混雑化や宇宙デブリの問題も議論されています。SpaceXはStarlink衛星を運用寿命終了後に確実に軌道離脱させ、ほとんど地上に到達しないよう設計していますが、数千基規模のコンステレーションが軌道に展開される中、持続可能な宇宙利用のための国際的なルール作りの必要性が高まっています。
SpaceXの成功は、中国、インド、ヨーロッパなど他の宇宙開発国にも影響を与えています。中国は2025年に68回の打ち上げを実施し、ロケット第1段の回収技術の開発を進めています。12月3日にはZhuque-3ロケットが、12月23日にはLong March 12Aロケットが第1段の回収を試みました(いずれも着陸には失敗)。インド宇宙研究機関(ISRO)も2029〜30年までに年間50回の打ち上げを目指すと表明しており、宇宙産業全体の競争が激化しています。
2026年に向けて、SpaceXはさらなる打ち上げ増加を計画しており、宇宙産業における同社の支配的地位はますます強固なものとなりそうです。
【用語解説】
Falcon 9
SpaceXが開発した2段式の部分再使用型ロケット。第1段ブースターは打ち上げ後に地上または海上のドローン船に着陸して回収され、再利用される。高さ約70メートル、低軌道へ約22.8トンのペイロードを運搬可能。Block 5バージョンは2018年5月から運用され、99%以上の成功率を誇る。
Starlink
SpaceXが展開する低軌道衛星インターネットコンステレーション。高度約550キロメートルの軌道に数千基の衛星を配置し、世界中に高速インターネットサービスを提供する。2025年時点で9,000基以上の衛星が運用されており、200カ国以上で900万人以上の加入者を獲得している。
Starship
SpaceXが開発中の完全再使用型超大型ロケット。Super Heavyブースターとその上に搭載されるStarship宇宙船で構成される。将来的には月や火星への有人・貨物ミッションに使用される予定で、2025年には5回のサブオービタルテスト飛行を実施した。
合成開口レーダー(SAR)
電波を使って地表を観測するレーダーシステム。光学カメラとは異なり、雲や夜間でも観測が可能。衛星の移動を利用して仮想的に大きなアンテナを作り出すことで、高解像度の画像を取得できる。災害監視、地形測量、軍事偵察など幅広い用途に活用される。
太陽同期軌道(SSO)
地球を周回する軌道の一種で、衛星が常にほぼ同じ地方時に地表の同じ地点を通過するように設計された軌道。地球観測衛星に広く使用され、一貫した照明条件で観測できるため、時系列での変化を追跡しやすい。
ヴァンデンバーグ宇宙軍基地
カリフォルニア州に位置する米国の打ち上げ施設。西海岸に面しているため、南極方向への打ち上げが可能で、極軌道や太陽同期軌道へのミッションに適している。SpaceXは2025年に同基地から46回の打ち上げを実施した。
【参考リンク】
SpaceX(外部)
SpaceX公式サイト。Falcon 9やStarshipの打ち上げスケジュール、ライブ配信、ミッション情報を提供
SpaceX Launches(外部)
SpaceXの打ち上げミッション一覧ページ。過去および予定されている全ミッションの詳細情報を掲載
Italian Space Agency (ASI)(外部)
イタリア宇宙機関の公式サイト。COSMO-SkyMedプログラムを含むイタリアの宇宙開発計画を紹介
e-GEOS COSMO-SkyMed(外部)
COSMO-SkyMedの商用データを提供するe-GEOSのページ。衛星画像データの活用事例を紹介
Starlink(外部)
Starlink衛星インターネットサービスの公式サイト。サービス提供地域や料金プランの情報を掲載
【参考動画】
【参考記事】
List of Falcon 9 and Falcon Heavy launches – Wikipedia(外部)
2025年12月17日時点でSpaceXは165回のFalcon 9打ち上げを実施し年間記録を更新。ブースターB1067は32回飛行の記録を保持。Falcon 9の成功率は99.49%で593回の打ち上げ実績
SpaceX flies Starlink mission using Falcon 9 booster flying for a 30th time – Spaceflight Now(外部)
12月17日、SpaceX副社長が165回達成を発表。当初目標170回から夏に165回に修正。年末までに追加2回で合計167回
Starship success, a private moon landing and more: The top 10 spaceflight stories of 2025 | Space(外部)
SpaceXは2025年に170回の打ち上げを実施。Falcon 9が165回、Starshipが5回。現在9,000基以上の衛星が運用中
SpaceX sets launch record in 2025, Isro charts steady expansion path(外部)
SpaceXは2025年に165回の軌道打ち上げを実施し、167回に達する見込み。打ち上げコストは1キログラムあたり約2,700ドルまで低下
SpaceX launch surge helps set new global launch record in 2024 – SpaceNews(外部)
2024年にSpaceXは134回のFalcon打ち上げを実施し、世界全体の打ち上げ数の半分以上を占めた
List of Falcon 9 first-stage boosters – Wikipedia(外部)
ブースターB1067は2025年12月8日に32回目の飛行を達成しギネス世界記録を保持。第1段ブースターは565回の着陸試行のうち552回成功
COSMO-SkyMed – Wikipedia(外部)
COSMO-SkyMedはイタリアのSAR地球観測衛星システム。第2世代は4基の衛星で構成され、高度619キロメートルの太陽同期軌道で運用
【編集部後記】
SpaceXが年間167回という驚異的な打ち上げペースを達成しようとしている今、私たちは宇宙アクセスの歴史的転換点を目撃しています。わずか10年前、年間100回の打ち上げなど誰も想像していませんでした。この変化は、衛星通信、地球観測、科学研究のあり方を根本から変えつつあります。一方で、低軌道の混雑化や持続可能な宇宙利用といった新たな課題も浮上しています。この急速な変化が、私たちの日常生活や社会にどのような影響をもたらすのか、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。































