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Nordic Global、Viz.ai、IQVIA等が予測する2026年医療AI:AIエージェント時代の到来と臨床医の負担軽減

[更新]2025年12月24日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年12月23日、Healthcare IT Today15名以上の医療IT業界専門家による2026年のヘルスケアAI・自動化予測を発表した。

Nordic Global ConsultingCraig Joseph医師は、医療システムがパイロットプログラムから統制された展開へ移行し、データガバナンスと基盤整備が重要になると指摘した。Caregility CEOのRon Gabouryは、エッジAIとベッドサイド自動化がクラウド型ソリューションに取って代わると予測した。

CliniCompKem Grahamは、完全統合EHRが相互運用性の鍵となり、否認削減とマージン強化を実現すると述べた。FUJIFILM BiotechnologiesのMaria Ebro Andreasenはバイオ医薬品製造での自律プロセスユニット導入を、CorVelのLara Healは労働者災害補償請求管理の変革を予想した。

Viz.aiAndrew Ibrahim医師は自動化により人員配置能力の15%相当が解放されると指摘し、OmnicellのPerry Genovaは自動調剤キャビネットがサイロを打破すると述べた。

IQVIAのRaja Shankarは臨床文書生成が20-50%高速化されると予測し、KeenStackThiru ThangarathinamはAIエージェントによる複数ステップタスクの自律実行を挙げた。

BrightlineNikhil Nadkarni博士はAIの不可視化とタスク排除を強調し、ECG Management ConsultantsAsif Shah Mohammedは統合プラットフォームによる真のイノベーションの到来を予測した。

From: 文献リンクAI and Automation in Healthcare – 2026 Health IT Predictions

【編集部解説】

2026年、医療AIはついに「実験段階」を抜け出し、実運用フェーズへと本格移行します。この転換点を象徴するのが、わずか2年間でAI採用率が3%から22%へと急騰した事実です。特に注目すべきは、米国の医師の66%が2024年にAIツールを使用しており、これは前年の38%から78%増という驚異的な伸びを示しています。

今回の予測記事で繰り返し強調されているのは、AIの成功が「技術そのもの」ではなく「基盤整備」にかかっているという点です。Nordic Global ConsultingのCraig Joseph医師が指摘するように、医療IT責任者の半数以上がインフラとデータガバナンスを最大の障壁として挙げています。つまり、どれほど優れたAIモデルを導入しても、クリーンなデータ、明確なガバナンスルール、構造化されたワークフローがなければ、その価値は発揮されないのです。

2026年の最も革新的なトレンドは「AIエージェント」の台頭です。KeenStackのThiru Thangarathinam氏が予測するように、AIはもはや単に質問に答えるだけでなく、患者訪問後に自律的にカルテを作成し、紹介状を起草し、保険の事前承認書類を提出するといった複数ステップのタスクを実行するようになります。これは「自動化」から「自律化」への質的な飛躍を意味します。

医療現場で最も切実なのは、臨床医の燃え尽き症候群の問題です。米国医師の45.2%が2023年時点で燃え尽き症候群の症状を報告しており、その主因は過剰な文書業務にあります。実際、臨床医の35%が患者ケアよりも書類作業により多くの時間を費やしているという統計があります。Viz.aiのAndrew Ibrahim医師が言及する「15%の人員配置能力の解放」は、単なる効率化ではなく、医療従事者の尊厳と医療の質そのものを守る取り組みなのです。

アンビエント文書化ツール(ambient clinical documentation)は、すでに多くの医療システムで何らかの採用活動が行われており、2026年には標準装備となる見込みです。これらのツールは診察中の会話を自動的に記録・構造化し、医師がキーボードではなく患者に向き合えるようにします。

しかし、技術的な可能性と同じくらい重要なのが「信頼」の構築です。Protegrityのlwona Rajca氏が強調するように、センシティブな医療情報を暗号化や匿名化によって保護しながら、クラウド環境、医療機器、AIシステム間で自由に移動させる仕組みが不可欠です。TEFCA(Trusted Exchange Framework and Common Agreement)のような相互運用性標準が、この信頼基盤を支えることになります。

専門薬局の領域でも大きな変化が起きています。OmnicellのNish Parekh氏が指摘するように、GLP-1(糖尿病・肥満治療薬)や標的型がん治療薬といった複雑で高額な治療法の台頭により、AIと自動化が専門薬局の効率的な運営、複雑な投薬管理、パーソナライズされた患者ケアの提供において不可欠な存在となっています。

注目すべきは、AIの用途が「臨床」から「運営全体」へ拡大している点です。2024年の医療AI投資の約60%が管理業務の自動化に向けられており、請求処理、スケジューリング、収益サイクル管理などの領域で大きな効果を上げています。これは、AIが医療の「見えない部分」を支える縁の下の力持ちとして機能し始めたことを意味します。

RevSpringのNicole Rogas氏が提唱する「自動化された共感(automated empathy)」という概念も興味深いものです。経済状況が厳しくなり、患者がすべての接点をより厳しく精査する中、成功する組織は単に自動化するだけでなく、人が思いやり、明確さ、または人間の介入を必要とするタイミングを感知できるシステムを構築する組織だというのです。

ECG Management ConsultantsのAsif Shah Mohammed氏の指摘は核心を突いています。2026年、AIと自動化は医療業界に「不都合な真実」を突きつけるでしょう。つまり、これまでの多くの「イノベーション」が表面的なものであり、真の変革をもたらしていなかったという事実です。分断されたツールと断片化されたシステムの時代は終わり、真のイノベーションは統合プラットフォームによってもたらされます

2026年は、医療AIが「できること」を示すフェーズから「信頼されること」を証明するフェーズへと移行する年です。パイロットプログラムの時代は終わり、測定可能な成果、明確なROI、そして臨床医と患者双方からの信頼が求められる時代が始まります。

【用語解説】

アンビエント文書化(Ambient Clinical Documentation)
診察室での医師と患者の会話をAIが自動的に聞き取り、構造化された臨床記録へと変換する技術である。医師はキーボードに向かうことなく患者とのコミュニケーションに集中でき、診察後には自動的に作成されたカルテを確認・承認するだけで済む。

AIエージェント(AI Agent)
単一のタスクを実行するだけでなく、複数ステップにわたる業務を自律的に遂行するAIシステムを指す。例えば患者訪問後に、カルテ作成、紹介状の起草、保険事前承認の申請といった一連の業務を人間の監督下で自動実行する。

TEFCA(Trusted Exchange Framework and Common Agreement)
米国の医療情報交換の信頼フレームワークおよび共通合意である。医療提供者、研究者、ネットワーク間で一貫性のある管理されたデータフローを実施する相互運用性標準を定めている。

データガバナンス(Data Governance)
組織内のデータ資産を適切に管理・保護・活用するための方針、プロセス、基準の体系である。医療AIにおいては、データの品質、セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスを確保する基盤として不可欠となる。

EHR(Electronic Health Record、電子健康記録)
患者の医療情報をデジタル形式で保存・管理するシステムである。診断、治療、投薬、検査結果などの情報を一元管理し、医療提供者間での情報共有を可能にする。

GLP-1(Glucagon-Like Peptide-1)
グルカゴン様ペプチド-1の略で、血糖値を調節するホルモンである。GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病や肥満の治療に使用される高額医薬品であり、専門的な管理を必要とする。

LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)
膨大なテキストデータで訓練された深層学習モデルで、人間のような文章生成や理解が可能である。医療分野ではカルテの要約、文書作成、患者とのコミュニケーション支援などに活用される。

【参考リンク】

Nordic Global Consulting(外部)
医療IT、相互運用性、EHR最適化を専門とするコンサルティング企業で医療機関のデジタル変革を支援

Caregility(外部)
医療機関向けのバーチャルケアプラットフォームを提供する企業で遠隔医療とAI支援ケアソリューション展開

CliniComp(外部)
完全統合型の臨床情報システムを提供する企業でEHRと収益サイクル管理の統合ソリューションを専門

Viz.ai(外部)
脳卒中や心血管疾患の早期発見のためのAIプラットフォームを提供しFDA承認を取得した医療AIツール展開

Omnicell(外部)
医薬品管理と自動化ソリューションを提供し自動調剤キャビネットやロボット薬局システムを病院に提供

IQVIA(外部)
医療データ分析、臨床研究、ライフサイエンスコンサルティングを提供するグローバル企業でAI駆動医療ソリューション展開

KeenStack(外部)
医療業界向けのAI自動化ソリューションを提供し複数ステップのワークフローを自律実行するAIエージェント開発に注力

Brightline(外部)
子供、10代、家族向けのデジタルメンタルヘルスケアプラットフォームを提供しAIを活用したケアの質向上を推進

【参考記事】

2026 healthcare AI trends: Insights from experts(外部)
臨床グレードのAIが日常ワークフローの不可欠なパートナーとなり文書化自動化やケアギャップ特定を実現

Executive predictions for healthcare AI in 2026, Part 1(外部)
2026年はAIがパイロットから説明責任ある統合システムへ移行する転換点で測定可能な成果が求められる年に

2026 Healthcare Predictions: Why the AI “Pilot Era” Is Officially Over(外部)
医療AI採用率が1年で7倍増(3%から22%)し診断やスケジューリングが約束から中核業務へと移行する様子を分析

2025: The State of AI in Healthcare(外部)
医療AI支出が2024年と比べ2025年には約3倍に増加し医療が他産業を抜いて企業AIの最前線に

Physician burnout declined again in 2023(外部)
2023年の医師の燃え尽き症候群が45.2%に減少したものの依然として深刻な水準にあることをAMA調査が報告

Top AI Trends in Healthcare Driving Innovation in 2026(外部)
予測分析とAI患者記録がリアルタイムのリスク予測を可能にし医療チャットボットが年間30億ドル以上節約の見込み

AI in Hospitals: 2025 Adoption Trends & Statistics(外部)
2024年に米国病院の71%が予測AIアプリケーションをEHRと統合して使用し請求自動化が25ポイント増加

【編集部後記】

医療AIの2026年予測を読んで、皆さんはどのように感じられたでしょうか。私たちinnovaTopia編集部は、この変革が「技術の進化」であると同時に「医療の原点回帰」でもあると考えています。

医師が患者ではなくキーボードに向き合う時間が増え、燃え尽き症候群が蔓延する現状は、明らかに持続可能ではありません。AIが文書業務を引き受けることで、医療従事者が本来の使命である「人を癒す」ことに集中できる未来。それは、テクノロジーが人間性を奪うのではなく、むしろ人間性を取り戻す過程なのかもしれません。

皆さんの周りで、医療AIはどのように使われ始めているでしょうか。あるいは、どのように活用されるべきだと思われますか。2026年は、私たち一人ひとりが医療の未来を形作る当事者となる年です。

投稿者アバター
Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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