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インターステラテクノロジズ、フォーメーションフライト技術で衛星通信革命

[更新]2025年12月26日

インターステラテクノロジズ、フォーメーションフライト技術で衛星通信革命 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年12月22日、インターステラテクノロジズ株式会社は、東京科学大学白根研究室、岩手大学本間・村田研究室、マイクロウェーブファクトリー株式会社と共同で、複数衛星を利用したアレーアンテナ構成の地上原理実験に成功したと発表した。

本成果はスマートフォンなどとの直接通信(D2D)を可能にする次世代高速通信衛星の実現において重要な基盤技術である。同社は1万機から10万機の超々小型衛星を整列・協調させ、一つの巨大な高利得アレーアンテナとして機能させるフォーメーションフライト技術を通じた、高速大容量のブロードバンド衛星通信の実現を目指している。

今回の地上原理実験では、衛星間での送受信情報伝送方法や動作タイミング調整方法を総合的に検討し、超々小型衛星に搭載可能な信号処理アナログ集積回路およびアンテナを試作した。複数台の模擬衛星を用いたアレーアンテナにより、スマートフォンで使用される電波の送受信に成功した。

本研究成果は2026年2月15日から19日に米国で開催されるIEEE ISSCCにて発表される。

From: 文献リンク人工衛星事業で、複数衛星を用いて高性能アレーアンテナを構成する地上原理実験に成功しました

【編集部解説】

今回インターステラテクノロジズが成功させた地上原理実験は、衛星通信の未来を大きく変える可能性を秘めた技術的ブレイクスルーです。この実験の本質的な意義を理解するには、いくつかの技術的背景を押さえておく必要があります。

まず「D2D(Direct-to-Device)通信」についてです。これは衛星が地上の携帯電話やIoT機器と直接通信する技術で、現在世界中で注目されています。スペースXとT-Mobileの提携、アップルのiPhone向け衛星緊急通報サービスなど、大手企業が次々と参入していますが、これらは基本的に既存の大型衛星や従来型の衛星コンステレーションを利用したものです。

インターステラテクノロジズのアプローチは根本的に異なります。同社が目指すのは、1万機から10万機という膨大な数の超々小型衛星を編隊飛行させ、それらを「一つの巨大アンテナ」として機能させる技術です。将来的には重量0.1kg未満のフェムトサテライト級への小型軽量化も想定されています。個々の衛星は超々小型ですが、協調して動作することで、従来の大型衛星を超える性能を実現できます。

この技術の核心は「非結線型フェーズドアレイアンテナ」という新しい概念にあります。通常のフェーズドアレイアンテナでは、複数のアンテナ素子が物理的な配線で接続されていますが、宇宙空間で分散した衛星群をケーブルで結ぶことはできません。そこでインターステラテクノロジズは、衛星間を無線で接続しながら、各衛星の信号を高精度に同期させ、あたかも一つの大型アンテナのように動作させる技術を開発しました。

今回の地上実験では、この原理を証明することに成功しています。超々小型衛星に搭載可能な信号処理用のアナログ集積回路とアンテナを試作し、複数台の模擬衛星でスマートフォン用の電波の送受信を実現しました。実験規模は小さいものの、この技術は衛星数を拡大できる設計になっており、将来的に数万機規模への展開が可能です。

この技術がもたらす利点は多岐にわたります。第一に、スマートフォンのような小型デバイスで直接衛星通信ができるようになります。Starlinkのような既存サービスでは専用の地上アンテナが必要ですが、この技術では不要です。第二に、複数の衛星で一つのアンテナを構成するため、一部の衛星が故障しても全体の機能が維持される高い堅牢性があります。第三に、地上の携帯電話網と同じ周波数帯を共用できるため、限られた電波資源を有効活用できます。

IEEE ISSCCは半導体技術における世界最高峰の国際会議であり、ここで発表が採択されたことは、この技術の革新性が国際的に評価された証です。特に「Session 5 Sub-THz and mm-Wave Phased Arrays and Beamformers」というセッションでの発表は、この技術が最先端の半導体技術と密接に関連していることを示しています。

一方で、実用化に向けた課題も存在します。数万機の衛星を高精度に制御する技術、衛星間の時刻同期、電磁石による配置制御など、地上実験から宇宙実証までには多くのハードルがあります。また、これだけ大量の衛星を打ち上げるコストや、スペースデブリ(宇宙ゴミ)問題への対応も必要になります。

それでも、この技術が実現すれば、山間部や離島、災害時など、従来の携帯電話網が届かない場所でも、普段使っているスマートフォンで高速通信ができるようになります。IoT機器の遠隔監視、自動運転車の通信、海上や航空機内での常時接続など、応用範囲は計り知れません。

インターステラテクノロジズは総務省の委託研究を受けて、東京科学大学、岩手大学などの国内研究機関と協力しながら、この「衛星通信3.0」とも呼べる次世代技術の確立を目指しています。今回の成功は、その重要な第一歩となりました。

【用語解説】

アレーアンテナ
多数の小型アンテナ素子を平面状に並べて電気的に接続し、受信した微弱な電波を合成して大きな信号として取り出したり、送信電波を合成して強い電波を送出したりできる高性能アンテナの一種。複数のアンテナを協調させることで、単一の大型アンテナと同等以上の性能を実現できる。

非結線型フェーズドアレイアンテナ
従来の物理的な配線で接続されたフェーズドアレイアンテナとは異なり、アンテナ素子間を無線で接続するアレーアンテナ。

D2D(Direct-to-Device)通信
衛星が地上の携帯電話やIoT機器などと、地上基地局を経由せず直接通信する技術。従来は専用の衛星電話が必要だったが、近年の技術進歩により、普通のスマートフォンでも衛星と直接通信できるようになりつつある。SpaceXやAppleなどが積極的に開発を進めている。

超々小型衛星
重量による衛星の分類で、特に小型のもの。ナノサテライト(1~10kg)、ピコサテライト(0.1~1kg)、フェムトサテライト(0.1kg未満)などに分類される。

DAS(分散アンテナシステム)
地上で使用される複数のアンテナを分散配置するシステム。主に屋内外のカバレッジ改善や通信品質向上、容量分散を目的とする。

IEEE ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)
半導体技術における世界最大規模の国際会議。固体回路とシステムオンチップの最先端技術を発表する場として、毎年2月に開催される。半導体業界で最も権威のある学会の一つとされ、ここで発表が採択されることは技術の革新性が国際的に評価された証となる。

総務省委託研究「電波資源拡大の研究開発」
総務省が実施する、電波の有効利用や新たな電波利用技術の研究開発を推進するための委託研究事業。

【参考リンク】

インターステラテクノロジズ株式会社(外部)
北海道大樹町を拠点とするロケット・人工衛星開発企業。小型ロケット「ZERO」と次世代衛星通信サービス「Our Stars」を開発中。

東京科学大学(Institute of Science Tokyo)(外部)
2024年10月に東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して設立。本研究では白根研究室が参画している。

岩手大学(外部)
岩手県盛岡市に本部を置く国立大学。本研究では本間・村田研究室がアンテナ技術や通信システムの研究開発を担当。

マイクロウェーブファクトリー株式会社(外部)
神奈川県を拠点とする高周波・マイクロ波技術の専門企業。衛星通信用高周波デバイスの開発・製造を手がける。

IEEE ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)(外部)
半導体技術における世界最大規模の国際会議。2026年の会議は2月15日から19日に米国サンフランシスコで開催予定。

総務省 電波利用ホームページ(外部)
日本における電波行政を担当する総務省の公式サイト。電波資源拡大の研究開発事業など電波利用に関する情報を提供。

【参考記事】

Preliminary Scale Analysis of Formation Flying for Direct-to-Device Communication Using Ultra-Small Satellites(外部)
インターステラテクノロジズの研究チームによる学術論文。数万機のピコ・フェムトクラス衛星によるD2D通信の可能性を分析。

How Direct-to-Device (D2D) is Shaping Satellite IoT Connectivity(外部)
D2D技術の概要と、Direct-to-CellとDirect-to-Deviceの違い、主要プレイヤーの動向を解説。

The Rise of Satellite Direct-to-Cellular (D2C) and Direct-to-Device (D2D) Connectivity(外部)
SpaceXのStarlinkやAppleのGlobalstar契約など最新市場動向と、D2D技術の仕組み、課題を包括的に解説。

Starlink以上に高性能!?インターステラテクノロジズの「フォーメーションフライト」による高速衛星通信技術とは(外部)
インターステラテクノロジズの技術を日本語で詳しく解説。Starlinkとの比較でフォーメーションフライトの優位性を説明。

インターステラ、超々小型衛星を編隊飛行させて宇宙に通信アンテナ構築する技術を研究(外部)
将来的に0.1kg未満のフェムトサテライト級への小型軽量化を想定していることなど、具体的な技術仕様を紹介。

高精度衛星編隊飛行技術 – JAXA宇宙戦略基金(外部)
日本における高精度衛星編隊飛行技術の研究開発動向を紹介。NASAやESAの先行事例と日本の強みを解説。

What’s Next for Direct-to-Device Satellite Communications?(外部)
D2D衛星通信の2025年以降の展望を専門家が解説。技術的課題、市場化への道筋を詳細に分析している。

【編集部後記】

普段使っているスマートフォンが、そのまま宇宙と直接つながる未来を想像したことはありますか?山奥でも、離島でも、災害時でも、途切れることなく通信できる世界です。

今回の地上実験成功は小さな一歩に見えるかもしれませんが、インターステラテクノロジズが挑む数万機の衛星による巨大アンテナ構築は、人類の暮らしと通信インフラの未来を大きく変える可能性を秘めています。みなさんは、この技術がどんな場面で役立つと思いますか?ぜひ、ご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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