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富士通、NVIDIA協業で「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」発表。AIエージェント連携で調達業務50%削減

[更新]2025年12月28日

富士通、NVIDIA協業で「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」発表。AIエージェント連携で調達業務50%削減 - innovaTopia - (イノベトピア)

エンタープライズAIの最大の課題は、複数のAIを安全に連携させることだった。富士通がNVIDIAとの協業で発表した「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」は、セキュアなマルチエージェント技術により購買業務の工数を半減させ、この難題に一つの解答を示している。


富士通は2025年12月24日、NVIDIAとの協業における最初の成果として「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」を開発したと発表した。本技術は、NVIDIAのソフトウェアスタックと富士通の技術を統合し、Physical AIやAIエージェントをシームレスに連携させる。コア機能として、機密性の高い業務ワークフローをセキュアに自動化できるマルチAIエージェントフレームワークを公開し、富士通の大規模言語モデル「Takane」をベースとした「Fujitsu Kozuchi AI Agent」を搭載した。

購買部門の調達業務向けに、帳票理解・購買規約解析・適合チェックに特化した3種類のAIエージェントを開発し、富士通の購買部門での実証実験において発注確認業務工数が約50%削減された。またNVIDIA NIMマイクロサービスへの対応により推論速度が50%向上する見込みで、一日当たり数百件におよぶ社内規約適合チェック業務の高速化を実現する。富士通は2025年度中にAIが自律的に学習・進化するAIエージェント技術へと進化させ、Physical AI領域へ順次拡張する予定である。

From: 文献リンクPhysical AIやAIエージェントをシームレスに連携させる「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」を開発

【編集部解説】

富士通とNVIDIAの協業が具体的な成果として結実しました。今回発表された「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」は、エンタープライズAIが直面している重要な課題に正面から取り組んでいます。

AIエージェントの活用が進む一方で、企業の現場では深刻な壁が存在します。複数のAIエージェントを連携させる際、機密情報の漏洩リスクや、異なるベンダーのシステム間での互換性、そして業務ワークフローの保守性という3つの課題です。富士通は今回、これらを同時に解決するアプローチを提示しました。

核心となるのは「セキュアエージェントゲートウェイ」という技術です。これは異なるベンダーが開発したAIエージェント同士を、企業の機密情報を保護しながら安全につなぐ仕組みです。従来のAI導入では、単一の巨大なAIモデルですべてを処理しようとするか、複数のAIを使う場合でもセキュリティ対策が後付けになりがちでした。富士通のアプローチは、最初からセキュリティを設計の中核に組み込んでいる点で特徴的です。

調達業務での実証実験では、帳票理解、購買規約解析、適合チェックという3つの特化型AIエージェントを開発し、発注確認業務の工数を約50%削減しました。さらにNVIDIA NIMマイクロサービスへの対応により、推論速度も50%向上する見込みです。NIMは、AIモデルをコンテナ化して標準APIで提供することで、バージョン管理やアップデートを容易にする技術であり、エンタープライズAIの運用における保守性の課題を解決します。

この技術がもたらす変化は、バックオフィス業務の効率化にとどまりません。富士通が「Physical AI」という言葉に込めた意味は、AIエージェントが物理的なロボットと連携し、現実世界で直接作用する未来です。2025年度中には、顧客環境でAIが自律的に学習・進化するエージェント技術へと進化させ、その後、工場や倉庫におけるロボット制御へと順次拡張する計画です。

Physical AIは2025年の製造業における重要トレンドとなっています。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは2024年に「次のAIの波はPhysical AI」と述べており、米国では2025年に1兆2000億ドルの製造能力増強投資が発表されています。富士通の今回の発表は、この大きな潮流における日本企業の具体的な一手といえるでしょう。

潜在的な課題も存在します。富士通自身の環境で50%の工数削減を達成できたとしても、異なるセキュリティ要件を持つ数千社の企業環境でスケールできるかは別問題です。レガシーシステムとの統合、複雑なコンプライアンス要件への対応、そして実際の製造現場における機密情報の取り扱いなど、実用化に向けたハードルは依然として高いといえます。

それでも、今回の発表が示す方向性は明確です。AIエージェントは単独で動くのではなく、セキュアに連携しながら、やがて物理世界のロボットとも統合されていく。その過程で、企業の業務ワークフローは根本から再設計される可能性があります。

【用語解説】

Physical AI(フィジカルAI)
AIエージェントが物理的なロボットを介して現実世界に直接作用する技術領域。従来の画面上で完結するAIとは異なり、センサーやアクチュエーターを通じて物理環境を認識し、判断し、行動する能力を持つ。製造業、物流、医療などでの応用が進んでいる。

AIエージェント
特定のタスクを自律的に実行するAIシステム。人間の指示に基づいて判断を下し、複数のステップを経て目標を達成する。単一のタスクを処理する従来のAIとは異なり、状況に応じて複数の機能を組み合わせて動作する。

マルチAIエージェントフレームワーク
複数の専門化されたAIエージェントを連携させ、協調動作させるための基盤技術。それぞれのエージェントが得意分野を担当し、相互にデータをやり取りしながら複雑な業務ワークフローを実行する。

セキュアエージェントゲートウェイ
異なるベンダーによって開発されたAIエージェント同士を、企業の機密情報やプライバシー情報を保護しながら安全に接続する技術。データの暗号化、アクセス制御、監査ログなどのセキュリティ機能を提供する。

Fujitsu Composite AI
抽象的なビジネス課題をチャット形式の対話で理解し、最適なAIモデルを活用した具体的なソリューションを自動的に探索・提案する富士通の技術。複数のAIモデルを組み合わせることで、単一のAIでは対応できなかったユースケースにも対応可能にする。

LLM(Large Language Model / 大規模言語モデル)
膨大なテキストデータで訓練された大規模なニューラルネットワークモデル。自然言語の理解と生成が可能で、文章作成、翻訳、要約、質問応答など幅広いタスクに対応できる。

ソブリン領域
各国や地域が自国のデータ主権を重視し、データやAIシステムを自国内で管理・運用する領域。データの国外流出を防ぎ、規制への準拠を確保するための取り組みが含まれる。

帳票理解
紙やPDFなどの帳票に記載された情報を、AIが構造化データとして読み取り、理解する技術。複雑なレイアウトや手書き文字、マルチヘッダ構造などにも対応できる高度な文書解析能力が求められる。

【参考リンク】

NVIDIA Corporation(外部)
GPUおよびAI技術の世界的リーダー。データセンター、ゲーミング、自動運転、ロボティクスなど幅広い分野でAIコンピューティングプラットフォームを提供。

NVIDIA NIM (NIM Microservices)(外部)
AIモデルをコンテナ化し、標準APIで提供するNVIDIAのマイクロサービス。エンタープライズ環境でのAIモデル運用を簡素化する。

Fujitsu Kozuchi(外部)
富士通が提供するAIプラットフォーム。大規模言語モデル「Takane」をはじめ、様々なAI技術を統合し企業向けソリューションを提供。

富士通株式会社(外部)
日本を代表する総合ITベンダー。ハードウェア、ソフトウェア、サービスを提供しデジタルトランスフォーメーションを支援。

NVIDIA AI Enterprise(外部)
NVIDIAが提供するクラウドネイティブなAIソフトウェアプラットフォーム。NIMやNeMoマイクロサービスを含む。

【参考記事】

Fujitsu rolls out Kozuchi Physical AI 1.0 with NVIDIA to power agentic automation(外部)
富士通のKozuchi Physical AI 1.0がセキュアなマルチエージェント連携により、企業のAI導入における課題を解決する可能性を解説。

Fujitsu develops Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0 for seamless integration of physical and agentic AI(外部)
富士通の公式英語版プレスリリース。NVIDIAとの協業の第一弾成果として、Physical AIとエージェントAIをシームレスに統合。

NVIDIA NIM Offers Optimized Inference Microservices for Deploying AI Models at Scale(外部)
NVIDIA NIMがAIモデルのデプロイメントプロセスを簡素化し、標準APIでパッケージ化する仕組みを詳細に解説。

What is physical AI — and how is it changing manufacturing?(外部)
世界経済フォーラムによるPhysical AI解説。Amazonが100万台以上のロボットを運用し、効率が25%向上した事例を紹介。

NVIDIA and US Manufacturing and Robotics Leaders Drive America’s Reindustrialization With Physical AI(外部)
2025年に米国で1兆2000億ドルの製造能力増強投資が発表され、電子機器、医薬品、半導体メーカーが主導していることを報告。

AI goes physical: Navigating the convergence of AI and robotics(外部)
Bank of America Instituteが、ヒューマノイドロボットのコストが2025年の約35,000ドルから今後10年で半減すると予測。

NVIDIA on What Physical AI Means for Robotics – 2025 Keynote(外部)
Automate 2025でのNVIDIA基調講演レポート。FoxconnがメキシコのGPU製造工場をデジタルツイン化した事例を紹介。

Physical AI is the convergence of robotics and intelligence(外部)
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが2024年に「次のAIの波はPhysical AI」と発言したことを報告。

【編集部後記】

AIエージェントが複数連携しながら業務を自動化する未来が、富士通とNVIDIAの協業によって具体的な形を見せ始めました。調達業務での50%の工数削減は、ホワイトカラーの働き方が根本から変わる予兆かもしれません。さらに興味深いのは、このAIエージェント技術がやがて工場のロボットと統合される「Physical AI」へと発展していく点です。

みなさんの職場では、どのような業務がAIエージェントの連携によって効率化できそうでしょうか。また、AIとロボットが高度に協調する現場を想像したとき、どのような可能性や懸念を感じますか。ぜひSNSで教えていただけると嬉しいです。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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