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ロシアがISS退役後に独自ステーション建設へ──既存モジュール再利用という異例の選択

[更新]2025年12月29日

ロシアがISS退役後に独自ステーション建設へ──既存モジュール再利用という異例の選択 - innovaTopia - (イノベトピア)

ロシア科学アカデミー生物医学問題研究所所長のオレグ・オルロフは12月18日、モスクワのロシア・トゥデイ国際マルチメディア・プレスセンターで、新しいロシア軌道ステーション(ROS)がISSのロシア軌道セグメントのモジュール(ザーリャ、ズヴェズダ、ポイスク、ラスヴェット、ナウカ、プリチャル)を使用すると発表した。

ロスコスモスの科学技術評議会はこの提案を承認した。2030年のISS退役後、ロシアはモジュールを分離してROSの中核とする。ROSは傾斜角51.6度を想定しており、バイコヌールへの依存から脱却する方針だ。以前の計画では2027年に科学・エネルギーモジュールの初回打ち上げ、2030年までに3つの追加モジュールを打ち上げる予定だった。ザーリャとユニティのモジュールは27年、ズヴェズダは25年経過している。

From: 文献リンクRussia’s Plans for a Space Station Includes “Recycling” its ISS Modules

【編集部解説】

ロシアの宇宙ステーション計画が大きく方針転換したことが明らかになりました。当初は完全に新しいモジュールで構成される予定だったロシア軌道ステーション(ROS)ですが、財政的な制約から既存のISSモジュールを再利用する計画に変更されています。

この決定は、2022年のウクライナ侵攻以降の国際的な制裁と経済的困難を反映したものです。新規モジュールの開発・打ち上げには莫大なコストがかかりますが、既存のモジュールを再利用すれば初期投資を大幅に削減できます。ロスコスモスは当初2027年に科学・エネルギーモジュールを打ち上げ、2030年までに複数のモジュールで構成される新ステーションを完成させる野心的な計画を持っていました。

しかし、この「リサイクル」戦略には深刻な技術的リスクが伴います。ザーリャモジュールは1998年の打ち上げから27年が経過し、ISSは当初15年の設計寿命を大幅に超えて運用されてきました。オルロフ氏自身が2022年に指摘したように、モジュール内部では微生物汚染が進行しており、分析サンプルの65%で規制基準を超える微生物が検出されています。

構造的な問題も深刻です。極端な温度変動と宇宙放射線により材料疲労が進み、空気漏れが継続的に発生しています。宇宙飛行士の作業時間の多くが修理・メンテナンスに費やされているのが現状です。

興味深いのは、軌道傾斜角の選択です。51.6度の軌道設定は、カザフスタンのバイコヌールへの依存を抑え、国内拠点、とりわけボストーチヌイの活用を促す狙いがあると考えられます。これは技術的選択であると同時に、地政学的な独立性を重視した戦略的判断といえるでしょう。

インドとの協力可能性も示唆されていますが、老朽化したモジュールがそこまで持ちこたえられるかは疑問が残ります。宇宙開発における国際協力の枠組みが再編される中で、ロシアがどこまで独自路線を維持できるのか、技術的・経済的な現実が試される局面を迎えています。

【用語解説】

ロシア軌道ステーション(ROS / Russian Orbital Station)
ロシアが2030年のISS退役後に建設を計画している独自の宇宙ステーション。当初は完全に新規モジュールで構成される予定だったが、財政的制約により既存のISSロシアセグメントを再利用する計画に変更された。

ロシア軌道セグメント(Russian Orbital Segment)
国際宇宙ステーション(ISS)のうち、ロシアが運用を担当する部分。ザーリャ、ズヴェズダ、ポイスク、ラスヴェット、ナウカ、プリチャルなどのモジュールで構成される。

ザーリャ(Zarya)
1998年に打ち上げられたISSの最初のモジュール。ロシア語で「夜明け」を意味する。燃料貯蔵、推進システム、通信機能を提供する機能貨物ブロック(FGB)として機能している。

ズヴェズダ(Zvezda)
2000年に打ち上げられたロシアセグメントのサービスモジュール。ロシア語で「星」を意味する。居住空間、生命維持システム、メインエンジンシステムを提供し、ソユーズやプログレス宇宙船のドッキングポートも備える。

軌道傾斜角
人工衛星や宇宙ステーションの軌道面が赤道面となす角度。ISSは51.6度の軌道傾斜角で運用されており、これにより多くの国から打ち上げとアクセスが可能となっている。

ロスコスモス(Roscosmos)
ロシア連邦宇宙局。ロシアの宇宙開発を統括する政府機関で、有人宇宙飛行、衛星打ち上げ、宇宙探査などを担当している。

【参考リンク】

NASA – International Space Station(外部)
NASAによる国際宇宙ステーションの公式ページ。ISSの歴史、現在の運用状況、将来計画などの情報を提供。

RussianSpaceWeb.com(外部)
ロシアの宇宙開発に関する詳細な情報を提供する専門サイト。ISSロシアセグメントの技術的詳細も掲載。

【参考記事】

Russia’s plans for a space station include ‘recycling’ its ISS modules(外部)
Phys.orgによる報道。ロシアのISSモジュール再利用計画について詳細に解説している。

Russia reverses course, will use existing modules to build new space station(外部)
Ars Technicaの報道。計画変更の背景と技術的課題について分析している。

Russia’s Next Space Station Could Reuse Its ISS Parts—Leaks and All(外部)
Gizmodoによる記事。老朽化したモジュールの空気漏れ問題など技術的リスクに焦点を当てている。

Russia’s Bold Plan to Recycle ISS Modules for New Space Station, Will It Work?(外部)
Daily Galaxyの分析記事。計画の実現可能性について専門家の見解を紹介している。

Russia Wants To Recycle Its Crumbling Half Of The ISS For New Space Station(外部)
Jalopnikの報道。ロシアの経済状況と宇宙開発計画の関係性について考察している。

【編集部後記】

宇宙開発は人類の夢を体現する分野ですが、このニュースは厳しい現実も突きつけています。理想的には新しいモジュールで構成されるはずだったステーションが、財政的制約により老朽化した部品の再利用へと舵を切らざるを得ない状況です。

みなさんは、技術的リスクを承知の上で既存資産を活用する選択と、計画を延期してでも新規開発を待つ選択、どちらが宇宙開発の持続可能性につながると思われますか。また、国際協力が途絶えた今、各国が独自に宇宙ステーションを運用する未来は、人類にとってどのような意味を持つのでしょうか。この事例から、私たちは宇宙開発の未来について何を学べるのか、ぜひ一緒に考えてみたいと思います。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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