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系統用蓄電池が日本のエネルギー転換を支える─庄原市に新たな蓄電施設が誕生

[更新]2025年12月29日

再エネの余剰と不足を解決する系統用蓄電池─庄原市に次世代エネルギーインフラが誕生 - innovaTopia - (イノベトピア)

太陽光や風力発電が急速に普及する一方で、電力系統には新たな課題が生まれています。晴れた日の昼間には電気が余り、夕方になると一気に不足する。この需給の波をどう平準化するかが、日本のカーボンニュートラル達成に向けた大きな鍵となっています。

その解決策として注目されているのが「系統用蓄電池」です。家庭用蓄電池が一軒の家を守るものだとすれば、系統用蓄電池は地域全体、ひいては国全体の電力の安定供給を支える「見えないインフラ」。2024年から需給調整市場や容量市場といった新しい電力市場が本格運用され、系統用蓄電池を活用したビジネスモデルが次々と形になり始めています。

そんな中、日本蓄電池株式会社が広島県庄原市で新たな一歩を踏み出しました。


日本蓄電池株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:漆原秀一)は、広島県庄原市で開発を進めている「NC庄原市七塚町蓄電所」において、系統用蓄電池の機器搬入を開始したと発表した。

設置開始日は2025年12月2日で、施工会社は東京電設サービス株式会社が担当する。主用途は需給調整市場、JEPX(卸売市場)、容量市場への対応、および再生可能エネルギー出力の平準化である。

同社は系統用蓄電池事業において、事業に適した用地の選定から電力会社との各種調整および必要手続き、最適な蓄電池ソリューションの選定・導入、蓄電所の構築までを一貫して推進している。

From: 文献リンク【日本蓄電池株式会社】広島県庄原市にて系統用蓄電施設「NC庄原市七塚町蓄電所」蓄電池設置開始

【編集部解説】

系統用蓄電池とは、電力系統(送配電網)に直接接続された大規模な蓄電設備のことです。家庭用蓄電池が一軒の家を守るものだとすれば、系統用蓄電池は地域全体の電力安定供給を支えるインフラとして機能します。

今回のニュースで注目すべきは、日本蓄電池株式会社が「需給調整市場・JEPX・容量市場」という3つの電力市場すべてに対応する施設を展開している点です。これらは2024年から本格運用が始まった比較的新しい市場であり、再生可能エネルギーの導入拡大を支える重要な仕組みとなっています。

需給調整市場とは、電力の需要と供給のバランスを瞬時に調整するための市場です。太陽光発電は雲がかかれば発電量が急減し、風力発電は風が止めば発電が止まります。こうした変動を吸収するため、系統用蓄電池は電力を貯めたり放出したりして、電力系統の周波数を安定させる役割を担います。

JEPX(日本卸電力取引所)は、電力を売買する市場です。蓄電池事業者は、電力価格が安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電することで収益を得ることができます。容量市場は、将来の電力供給力を確保するための市場で、2024年から本格運用されています。

ただし、業界には厳しい環境変化も訪れています。2025年10月、資源エネルギー庁は需給調整市場の上限価格を19.51円から7.21円へと半額以下に引き下げる案を提示しました。これまで上限価格での約定を前提に事業計画を組んでいた事業者にとっては大きな打撃となります。

それでも系統用蓄電池への期待は高まっています。東京海上ディーアールの試算によれば、2050年にカーボンニュートラルを達成するには、少なくとも38GWhの系統用蓄電池容量が必要とされています。日本蓄電池株式会社は2026年までに蓄電施設を80拠点まで拡大することを計画しており、全国展開を加速させています。今回の庄原市の施設も、そうした展開の一環として位置づけられます。

再生可能エネルギーの出力制御で失われるはずだった電気を蓄電池に貯めておき、必要な時に使えるようにする。この「見えないインフラ」が、日本のエネルギー転換を支える重要な基盤となりつつあります。

【用語解説】

系統用蓄電池
電力系統(送配電網)に直接接続された大規模な蓄電設備である。家庭用蓄電池が一軒の家を守るものだとすれば、系統用蓄電池は地域全体の電力安定供給を支えるインフラとして機能する。再生可能エネルギーの出力変動を吸収し、電力系統の周波数を安定させる役割を担う。

需給調整市場
電力の需要と供給のバランスを瞬時に調整するための市場である。太陽光発電や風力発電などの変動する再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力系統の周波数を安定させるための「調整力」を取引する仕組みとして2024年から本格運用が始まった。

JEPX(日本卸電力取引所)
Japan Electric Power Exchangeの略称で、日本で唯一の卸電力取引所である。2003年に設立され、電力自由化の流れを受けて電力を売買する市場を提供している。蓄電池事業者は電力価格が安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電することで収益を得ることができる。

容量市場
将来の電力供給力を確保するための市場で、2024年から本格運用されている。発電設備や蓄電設備などに対して、実際の発電量ではなく「いつでも発電できる能力」に対価を支払う仕組みである。

再エネ出力平準化
太陽光発電や風力発電など、天候によって出力が変動する再生可能エネルギーの発電量を、蓄電池を使って平準化することである。発電量が多い時に蓄電し、少ない時に放電することで、電力供給を安定させる。

【参考リンク】

日本蓄電池株式会社(外部)
系統用蓄電池施設の開発・運営を行う企業。2026年までに80拠点まで展開予定で、再生可能エネルギー導入拡大に伴う電力需給の変動に対応し、系統安定化と電力インフラの強化を推進している。

東京電設サービス株式会社(外部)
1979年創立、東京電力グループの一員として電力安定供給を支える。電気設備、再生エネルギーなど社会インフラ設備のコンサルティングから工事施工、点検・診断まで一貫提供。

【参考記事】

系統用蓄電池バブル終了?需給調整市場「上限価格7円台」への変更(外部)
2025年10月に資源エネルギー庁が需給調整市場の上限価格を19.51円から7.21円へ半額以下に引き下げる案を提示。上限価格前提の事業計画を組んでいた事業者に大きな影響。

系統用蓄電池で稼ぐ!卸市場・需給調整・容量市場の戦略的活用法(外部)
需給調整市場、JEPX、容量市場の仕組みと収益モデルを解説。東京海上ディーアールの試算では、2050年カーボンニュートラル達成には最低38GWhの系統用蓄電池容量が必要。

【2025年】系統用蓄電池の仕組みとは?投資から補助金・メーカー(外部)
系統用蓄電池の仕組み、需給調整市場や容量市場など新しい電力市場の概要を解説。2024年からの本格運用開始で、再生可能エネルギー導入拡大を支える重要な仕組みとして位置づけ。

【日本蓄電池株式会社】宇城市豊野町にて系統用蓄電施設(外部)
日本蓄電池株式会社による別の系統用蓄電施設プロジェクトの事例。同社は2026年までに蓄電施設を80拠点まで拡大計画を掲げ、全国規模でのインフラ整備を加速中。

【編集部後記】

晴れた日の昼間、太陽光発電で電気が余る。夕方になると一転、電力が足りなくなる。この極端な波が、再生可能エネルギーが増えるほど激しくなっています。私たちが気づかないうちに、電力系統はこれまでにない大きなストレスを抱えるようになりました。

系統用蓄電池は、その波を静かに吸収し続ける縁の下の力持ちです。決して目立ちませんが、カーボンニュートラルという未来への道を支える重要なピースの一つ。みなさんの地域にも、もしかしたらすでにこうした施設が建設されているかもしれません。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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