MongoDB ServerにおけるCVE-2025-14847は、Heartbleedにちなんで「MongoBleed」と命名された認証不要の情報漏洩脆弱性である。複数のサポート対象およびレガシーサーバーバージョンに影響し、認証されていないリモート攻撃者が機密データや認証資格情報を窃取できる。
脆弱性はzlibベースのネットワークメッセージ解凍ロジックにおける長さフィールドの不適切な処理に起因し、認証チェックの前に実行される。根本原因はmessage_compressor_zlib.cppにある。Censysによれば約87,000のインスタンスが世界中で公開されており、Wizの調査ではクラウド環境の42%が少なくとも1つの脆弱なインスタンスをホストしている。
2025年12月26日に動作する攻撃コードが公開され、その直後に実際の悪用が確認された。影響を受けるバージョンは8.2.x、8.0.x、7.0.x、6.0.x、5.0.x、4.4.x、4.2.x、4.0.x、3.6.xであり、4.2.x以前には修正版が提供されていない。MongoBleed Detectorツールがリリースされた。
From:
MongoBleed (CVE-2025-14847) Now Exploited in the Wild
【編集部解説】
今回の「MongoBleed」という名称は、2014年に世界を震撼させたOpenSSLの脆弱性「Heartbleed」に由来しています。Heartbleedは、TLS/SSLプロトコルのハートビート機能における長さパラメータの検証不備により、攻撃者が任意のメモリ領域を読み取れる脆弱性でした。MongoBleedも同様に、長さフィールドの不整合によってメモリ内容が漏洩する点で、技術的に極めて類似しています。
この脆弱性の最大の特徴は「認証前に到達可能」という点です。通常、データベースへのアクセスには認証が必要ですが、MongoBleedは圧縮メッセージの解凍処理が認証チェックより前に実行されるため、攻撃者は何の資格情報も持たずに攻撃を仕掛けることができます。
問題の根源となっているのは、MongoDBのネットワーク通信で使用されるzlib圧縮方式です。zlibは高い圧縮率を誇りますが、CPU負荷も高いという特性があります。MongoDBは他にもsnappyやzstdといった圧縮方式をサポートしており、緩和策としてこれらへの切り替えが推奨されています。snappyは高速で低CPU負荷、zstdは圧縮率と速度のバランスが良好という特徴があります。
特に深刻なのは、MongoDB 4.2、4.0、3.6といった旧バージョンに対しては修正版が提供されない点です。これらのバージョンを使用している組織は、バージョンアップグレードかzlib圧縮の無効化という選択を迫られます。
Wizの調査によれば、クラウド環境の42%が影響を受けるという数値は、現代のインフラストラクチャにおけるMongoDBの浸透度を示しています。特にマイクロサービスアーキテクチャやコンテナ環境では、MongoDBが広く採用されており、組織は複数のインスタンスを横断的に確認する必要があります。
2025年12月26日に攻撃コードが公開されてから、わずか数日で実際の悪用が確認されたという事実は、この脆弱性の危険性と攻撃者の迅速な対応を物語っています。MongoBleed Detectorのようなツールが即座にリリースされたことも、セキュリティコミュニティの緊急度の高さを反映しています。
【用語解説】
MongoBleed
MongoDB Serverに発見されたCVE-2025-14847の通称。2014年のHeartbleed脆弱性と技術的に類似していることから命名された。zlibベースのネットワークメッセージ解凍処理において、長さフィールドの検証が不十分なため、認証前に初期化されていないヒープメモリ領域が漏洩する。
Heartbleed
2014年に発見されたOpenSSLの重大な脆弱性(CVE-2014-0160)。TLS/SSLプロトコルのハートビート拡張機能における長さパラメータの検証不備により、攻撃者がサーバーのメモリ内容を読み取れる問題。世界中のWebサーバーに影響を与え、セキュリティ史上最も深刻な脆弱性の一つとされる。
CVE
Common Vulnerabilities and Exposuresの略。公開されているセキュリティ脆弱性に付与される一意の識別番号。非営利組織MITREが管理しており、CVE番号により世界中のセキュリティ専門家が同一の脆弱性について情報共有できる。
zlib
データ圧縮ライブラリの一つ。deflate圧縮アルゴリズムを実装しており、高い圧縮率を誇るが、CPU負荷も高い。MongoDBではネットワーク通信の効率化のために使用される。
ヒープメモリ
プログラムが動的にメモリを確保する領域。スタックメモリと異なり、プログラマが明示的に管理する。初期化されていないヒープメモリには、以前に使用されたデータの断片が残っている可能性があり、漏洩すると機密情報の露出につながる。
snappy/zstd
MongoDBがサポートする代替圧縮方式。snappyはGoogleが開発した高速圧縮ライブラリで、圧縮率よりも速度を重視。zstdはFacebookが開発した圧縮アルゴリズムで、圧縮率と速度のバランスに優れる。いずれもzlibよりCPU負荷が低い。
マイクロサービスアーキテクチャ
アプリケーションを小さな独立したサービスに分割する設計手法。各サービスは独自のデータベースを持つことが多く、MongoDBのような柔軟なデータベースが好まれる。一つの組織が複数のMongoDBインスタンスを運用するケースが増えている。
【参考リンク】
MongoDB公式サイト(外部)
NoSQLデータベースの代表格。柔軟なスキーマ設計とスケーラビリティが特徴で、マイクロサービスアーキテクチャで広く採用される。
Censys(外部)
インターネット上の公開デバイスをスキャンしセキュリティリスクを可視化。MongoBleedの影響範囲の特定に貢献した。
Wiz(外部)
クラウドセキュリティプラットフォーム。クラウド環境の42%が脆弱なMongoDBインスタンスをホストしていることを明らかにした。
【参考記事】
MongoBleed: MongoDB Zlib Vulnerability (CVE-2025-14847) – Aikido(外部)
MongoBleedの技術的詳細を解説。実装の問題点、攻撃の仕組み、緩和策としてのsnappyやzstdへの切り替え方法を網羅的に説明。
New MongoDB Flaw Lets Unauthenticated Attackers Read Sensitive Data – The Hacker News(外部)
MongoBleedが認証前に到達可能である点を強調。rsyncなど他ソフトウェアへの影響の可能性や検出ツールの開発についても触れる。
CVE-2025-14847: MongoDB Memory Leak Alert – Orca Security(外部)
Orca SecurityによるMongoBleedの発見と報告の経緯を説明。ヒープメモリリークのメカニズムとHeartbleedとの類似点を詳細に分析。
【編集部後記】
MongoBleedの報道を目にして、自社のシステムは大丈夫だろうかと不安を感じた方も多いのではないでしょうか。データベースは普段意識することの少ないインフラですが、今回のように認証前に到達可能な脆弱性は、どんなに厳重なアクセス管理をしていても意味をなさない可能性があります。
皆さんの組織では、使用しているMongoDBのバージョンや圧縮方式を把握できているでしょうか。特にマイクロサービス環境では複数のインスタンスが散在しがちです。この機会に、一度棚卸しをしてみることが、将来的な大きなリスク回避につながるかもしれません。セキュリティは誰かに任せきりにできるものではなく、組織全体で意識を共有していくことが大切だと感じています。




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