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NASA、2026年初頭にISS宇宙遊泳を8ヶ月ぶり実施— 2030年軌道離脱に向けた太陽電池アレイ準備作業

[更新]2025年12月30日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

NASAは2026年1月に国際宇宙ステーションで2回の宇宙遊泳を実施する。

NASA宇宙飛行士による船外活動は8ヶ月ぶりとなる。1回目は1月8日に予定され、Mike FinckeとZena Cardmanが参加し、ロールアウト型太陽電池アレイ設置に向けた2A電力チャンネルの準備を行う。

この太陽電池アレイは2030年頃に予定されるISSの軌道離脱支援を含む追加電力を供給する。Cardmanにとって初の宇宙遊泳となり、Finckeは10回目でNASA宇宙飛行士の最多記録に並ぶ。

2回目は1月15日に実施され、高解像度カメラの交換、航法補助装置の設置、アンモニアサービサージャンパーの再配置などを行う。

これらは宇宙ステーションの278回目と279回目の船外活動となり、NASA+オンラインチャンネルでライブ配信される。

From: 文献リンクNASA to kick off 2026 with key work at the ISS … and you can watch

【編集部解説】

NASAが2026年初頭に実施する2回の宇宙遊泳は、複数の重要な意味を持つミッションです。まず注目すべきは、NASA宇宙飛行士による船外活動が8ヶ月ぶりとなる点です。2025年5月以降、NASAの宇宙飛行士は安全上の理由から宇宙遊泳を見合わせてきました。この間、ロシアの宇宙飛行士が10月に船外活動を実施していましたが、米国側の宇宙遊泳が長期間中断されていたことは、国際宇宙ステーションの運用において異例の状況でした。

1月8日に予定されている最初の宇宙遊泳では、Mike FinckeとZena Cardmanが2A電力チャンネルの準備作業を行います。この作業は、ISSロールアウト型太陽電池アレイ(iROSA)と呼ばれる新世代の太陽電池パネルを設置するための重要なステップです。iROSAは従来のパネルと比べて半分のサイズでありながら、同等の発電能力を持つ画期的な技術です。測定テープのように巻き取られた状態で打ち上げられ、宇宙空間で自動展開される仕組みになっています。

ISSの既存の太陽電池パネルは、最も古いもので2000年に設置され、設計寿命15年を大きく超えて稼働し続けています。長年の運用により発電効率は徐々に低下しており、現在のISSの8対の太陽電池パネルは合計で約160kWの電力を生成していますが、これは当初の能力の約3分の2程度です。

今回準備が進められる最後のiROSAペアは、7番目と8番目のユニットにあたり、P4トラスの2A電力チャンネルとS6トラスの3B電力チャンネルに設置される予定です。すでに6対のiROSAが2021年から2023年にかけて段階的に設置されており、全8対の設置が完了すれば、ISSの総発電能力は約215kWまで向上し、30%以上の増強が実現します。この追加電力は、科学実験の拡大や将来の商業モジュール受け入れに不可欠ですが、それ以上に重要なのは、2030年頃に計画されているISSの制御された軌道離脱を安全に実施するための電力確保です。

ISSの軌道離脱は、宇宙開発史上最も複雑な再突入ミッションとなります。NASAは2024年6月、SpaceXに最大8億4,300万ドルで専用の軌道離脱機(USDV)の開発を委託しました。このUSDVは、約2年半かけてISSの高度を段階的に下げ、最終的に南太平洋の無人海域「ポイント・ネモ」へ制御落下させる役割を担います。フットボール場ほどの大きさを持つISSを安全に処分するには、姿勢制御や推進システムに十分な電力供給が必要不可欠です。

個人的な記録の観点からも、この宇宙遊泳は歴史的な意味を持ちます。Cardmanにとっては初めての船外活動となり、一方のFinckeにとっては10回目の宇宙遊泳となります。これにより、Finckeは10回の宇宙遊泳を達成したNASA宇宙飛行士として、Michael Lopez-Alegría、Peggy Whitson、Bob Behnken、Chris Cassidyに並ぶことになります。Finckeはこれまで9回の宇宙遊泳で合計48時間37分の船外活動時間を記録しており、そのうち6回はロシアのオーランスーツを着用したという珍しい経歴の持ち主です。

1週間後の1月15日に予定されている2回目の宇宙遊泳では、まだ発表されていない2名のNASA宇宙飛行士が複数のメンテナンス作業を実施します。主な作業には、カメラポート3の高解像度カメラ交換、Harmonyモジュールへの新しい航法補助装置(平面反射鏡)の設置、そしてS6とS4トラスにあるアンモニアサービサージャンパーの再配置が含まれます。これらは日常的なメンテナンスに見えますが、ISSの長期運用を支える重要な作業です。

今回の2回の宇宙遊泳は、ISS史上278回目と279回目の船外活動となり、Expedition 74クルーによる最初の宇宙遊泳となります。NASAは両方の宇宙遊泳をNASA+オンラインチャンネルでライブ配信する予定で、宇宙ステーションと宇宙飛行士に取り付けられた複数のカメラを通じて、視聴者は作業の様子を詳細に観察できます。

ISSは2030年まで運用される予定ですが、その後は民間の商業宇宙ステーションへと低軌道上の活動が移行していきます。NASAは既にAxiom SpaceやBlue Originなど複数の企業と商業宇宙ステーション開発の契約を結んでおり、ISSの退役後も低軌道での科学研究を継続する計画です。今回の宇宙遊泳は、ISSの最終段階に向けた重要な準備作業であると同時に、30年近くにわたる国際協力の象徴でもある宇宙ステーションを、責任を持って終わらせるための第一歩なのです。

【用語解説】

Expedition 74
国際宇宙ステーションの長期滞在ミッション番号。2025年12月から2026年にかけて実施されているクルーで、今回の宇宙遊泳はこのミッションにおける最初の船外活動となる。

Questエアロック
ISSの米国側モジュールに設置されたエアロック(気密室)。宇宙飛行士が宇宙遊泳のために船外へ出る際の出入口として使用される。2001年に設置された。

船外活動(EVA: Extravehicular Activity)
宇宙飛行士が宇宙船や宇宙ステーションの外に出て作業を行うこと。通常5〜8時間程度続き、高度な訓練と準備が必要とされる。

平面反射鏡(Planar Reflector)
訪問宇宙船がISSに接近する際の航法支援装置。レーザー光を反射することで、宇宙船の位置や姿勢を正確に測定するために使用される。

アンモニアサービサージャンパー
ISSの熱制御システムで使用される柔軟なホースアセンブリ。アンモニアを冷媒として循環させ、宇宙ステーションで発生する熱を宇宙空間へ放出する役割を担う。

トラス(Truss)
ISSの骨格構造。全長約110メートルに及び、太陽電池パネルや放熱器が取り付けられている。S(Starboard/右舷)とP(Port/左舷)の番号で各セグメントが識別される。

【参考リンク】

NASA – NASA to Preview US Spacewalks at Space Station in January(外部)
NASAによる公式発表。2026年1月の宇宙遊泳の詳細と事前ブリーフィング情報

NASA – International Space Station(外部)
国際宇宙ステーションに関するNASAの総合情報サイト。ミッション詳細や最新情報を提供

Redwire(外部)
iROSA(ISSロールアウト型太陽電池アレイ)を開発した宇宙技術企業の公式サイト

【参考記事】

NASA to Preview US Spacewalks at Space Station in January(外部)
NASAが2026年1月8日と15日に予定している宇宙遊泳の公式発表。Mike FinckeとZena Cardmanが2A電力チャンネルの準備作業を実施

Roll Out Solar Array – Wikipedia(外部)
iROSAの技術詳細。7番目と8番目のユニットがP4とS6トラスの2Aと3B電力チャンネルに設置予定と説明

NASA Selects International Space Station US Deorbit Vehicle(外部)
SpaceXが最大8億4,300万ドルで開発する米国軌道離脱機(USDV)。2030年のISS制御落下を実現

【編集部後記】

2026年を迎える国際宇宙ステーションは、いよいよその使命の最終章に入ろうとしています。今回の宇宙遊泳は、30年近く人類の宇宙における拠点として機能してきたISSを、責任を持って終わらせるための重要な準備です。同時に、Fincke飛行士が達成するNASA最多記録タイの10回目の宇宙遊泳は、個人の挑戦と歴史が交差する瞬間でもあります。私たちは今、宇宙開発の大きな転換点を目撃しているのかもしれません。ISSの退役後、低軌道は民間企業主導の時代へと移行していきます。その新たな時代の幕開けを前に、皆さんはこの歴史的な宇宙遊泳をどのように見守りますか。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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