Meta Platformsは12月30日、シンガポール拠点の汎用AIエージェント開発企業Manusを買収した。
Manusは中国で設立後シンガポールに移転し、2025年3月に市場調査やコーディング、データ分析などの複雑タスクを実行できるAIエージェントを立ち上げた。
同社は立ち上げから9ヶ月で年間平均収益1億ドル以上を達成し、収益ランレートは1億2,500万ドルを超えたとしている。
ManusはMonica.Imとも呼ばれる中国スタートアップButterfly Effectの製品として始まり、独立事業体へと成長した。4月には米国ベンチャーキャピタルBenchmark主導のシリーズBで7,500万ドルを調達し、TencentやHongShan Capital Groupの支援を受けている。
Metaは買収によりMeta AIアシスタントを含む製品に高度な自動化を統合し、Manus従業員を自社チームに迎え入れる。Manusはこれまでに147兆を超えるトークンを処理し、8,000万台以上の仮想コンピュータをサポートしてきた。
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Meta acquires intelligent agent firm Manus, capping year of aggressive AI moves
【編集部解説】
MetaによるManus買収は、同社が2025年に展開してきたAI戦略の集大成とも言える動きです。今回の買収は、報道によればMetaの歴史上3番目に大きい規模とされ、買収金額は数十億ドルに達すると見られています。
Manusは2022年に中国・武漢で創業者Xiao HongがButterfly Effectとして設立した企業です。当初はブラウザ拡張機能のAIアシスタント「Monica」を開発し、1,000万人以上のユーザーを獲得しながら収益化に成功していました。その技術基盤の上に構築されたManusは、2025年3月6日に正式リリースされました。
Manusの最大の特徴は、単なるチャットボットではなく「汎用AIエージェント」として機能する点にあります。履歴書のスクリーニング、旅行プランの作成、株式分析、ウェブサイト構築など、複数のステップを要する複雑なタスクを最小限の指示で自律的に実行できます。システムはクラウド上の仮想環境で動作し、ユーザーがデバイスを閉じた後も作業を継続し、完了時に通知を送る仕組みになっています。
技術面では、ManusはAnthropicのClaude 3.5 Sonnet(後に3.7 Sonnetにアップグレード)とAlibabaのQwenモデルのファインチューン版を使用しています。マルチエージェントアーキテクチャを採用し、中央の「エグゼキューター」が専門化されたサブエージェントを調整して多様なワークフローに対応する設計です。
Manusの成長スピードは驚異的でした。リリースからわずか9ヶ月で年間経常収益(ARR)1億ドルを達成し、収益ランレートは1億2,500万ドルを超えたと報告されています。これまでに147兆トークンを処理し、8,000万台以上の仮想コンピュータをサポートしてきました。価格体系は月額39ドルのStarterプランから199ドルのProプランまで設定され、無料枠も提供しています。
資金調達の歴史も注目に値します。2023年2月のシードラウンドで評価額1,400万ドル、同年8月のエンジェルラウンドで5,000万ドル、2024年11月のシリーズAで8,500万ドル、そして2025年4月のシリーズBでは米国ベンチャーキャピタルBenchmark主導で7,500万ドルを調達し、評価額は約5億ドルに達しました。買収直前には20億ドルの評価額で新規資金調達を交渉中だったとされています。
パフォーマンス面では、ManusはGAIA(General AI Assistants)ベンチマークで約86.5%のスコアを達成したと主張しています。これは人間の92%には及ばないものの、GPT-4のプラグイン付き15%、OpenAIのDeep Researchの67.36%を大きく上回る数字です。ただし、一部のユーザーからは事実誤認や実行失敗、システムの不安定性といった問題も報告されています。
Metaにとって、この買収は2025年に進めてきたAI強化戦略の一環です。同社は今年、PlayAI(音声AI)、WaveForms(感情認識音声AI)、Rivos(GPUチップスタートアップ)、Limitless(AIデバイス)と、すでに4件のAI関連買収を実施しており、Manusは5件目となります。
CEOのMark Zuckerbergは「パーソナル・スーパーインテリジェンス」というビジョンを掲げ、AIを中央集権的な自動化ではなく個人のエンパワーメントのツールとして位置づけています。2025年の設備投資は700億~720億ドルに達する見込みで、総費用は1,140億~1,180億ドルと予測されています。6月には143億ドルでScale AIに49%の株式投資を行い、CEOのAlexandr WangをMetaに迎え入れ、Superintelligence Labsという新部門を設立しました。
買収後、ManusはMetaのプラットフォームに統合される予定で、Meta AIアシスタントをはじめとする消費者向け・企業向け製品に高度な自動化機能を提供します。Xiao HongはMetaの副社長に就任し、Manusのサービスは独立して運営を継続するとされています。また、報道によればManusは中国の投資家との関係を断ち、中国国内では運営しない方針を示しています。
この買収が示すのは、AIエージェント技術が次の競争フロンティアになっているという現実です。OpenAI、Google、Microsoftといった競合各社もAIエージェント開発に注力しており、単なる対話型AIから、複雑なタスクを自律的に実行できるシステムへとパラダイムシフトが起きています。Metaは30億人以上のユーザーを抱えるプラットフォームを持っており、ManusのAIエージェント技術を統合することで、そのスケールメリットを最大限に活用できる立場にあります。
【用語解説】
AIエージェント(AI Agent)
単なる質問応答を超えて、複雑なタスクを自律的に計画・実行できるAIシステム。ツールを使い、多段階の推論を行い、最小限の人間の監督で実世界の問題を解決する能力を持つ。
GAIA(General AI Assistants)ベンチマーク
Meta-FAIR、Meta-GenAI、Hugging Face、AutoGPTチームが共同開発したAIエージェント評価基準。人間にとっては概念的に単純だが、AIには困難な実世界のタスクで性能を測定する。人間の正答率は92%、GPT-4(プラグイン付き)は15%程度。
マルチエージェントアーキテクチャ
単一のAIではなく、複数の専門化されたAIエージェントが協調して動作するシステム設計。中央のコーディネーターが各サブエージェントにタスクを割り当て、並列処理により効率を向上させる。
ARR(Annual Recurring Revenue / 年間経常収益)
サブスクリプションビジネスにおける重要指標で、継続的に得られる年間収益を示す。スタートアップの成長性と持続可能性を評価する際の基準となる。
トークン
AIモデルが処理するテキストやデータの最小単位。通常、1トークンは約0.75語に相当する。147兆トークンという数字は、Manusが処理した膨大なデータ量を示している。
【参考リンク】
Meta Platforms(外部)
FacebookやInstagramを運営するテクノロジー企業で、AI技術への大規模投資を進めている。
Anthropic(外部)
Claude AIモデルを開発する企業。ManusはClaude 3.5/3.7 Sonnetを基盤技術として使用している。
Benchmark(外部)
UberやTwitterへの投資で知られるシリコンバレーの著名ベンチャーキャピタル。Manusのシリーズ Bラウンドを主導した。
Scale AI(外部)
AI学習用データの提供と評価を行う企業。Metaが143億ドルで49%の株式を取得し、CEOがMetaに参画した。
GAIA Leaderboard(外部)
AIエージェントの性能を評価するGAIAベンチマークの公式リーダーボード。各AIシステムの実力を比較できる。
【参考記事】
Meta to Acquire Startup Manus, Adding Agents to Bolster AI Bet(外部)
Bloombergによる買収分析。Manusの年間収益ランレート1億2,500万ドルという具体的な数字や、MetaのAI投資戦略への影響を報道。
Meta Acquires Chinese AI Startup Manus for Billions in Third-Largest Deal(外部)
TechNodeによる詳細記事。買収がMeta史上3番目の規模であること、買収前の20億ドル評価額での資金調達交渉、交渉期間が約10日間だったことなどを報告。
Chinese AI startup Manus reportedly gets funding from Benchmark at $500M valuation(外部)
TechCrunchによるシリーズB資金調達の報道。Benchmarkが主導した7,500万ドルの調達と5億ドルの評価額について詳述。
Manus (AI agent) – Wikipedia(外部)
Manusに関する包括的な情報。開発の経緯、技術アーキテクチャ、料金体系、ベンチマーク性能、規制当局の審査などを網羅。
Meta CEO Mark Zuckerberg defends AI spending: ‘We’re seeing the returns’(外部)
CNBCによるZuckerbergのAI投資擁護発言の報道。2025年の設備投資700億~720億ドルの詳細と、広告ビジネスへのAI効果について解説。
GAIA: The LLM Agent Benchmark Everyone’s Talking About(外部)
Towards Data ScienceによるGAIAベンチマークの詳細解説。評価基準、難易度レベル、各AIシステムの性能比較を提供。
Zuckerberg Unveils ‘Personal Superintelligence’ Vision as Meta Spends Big(外部)
AI Businessによるパーソナル・スーパーインテリジェンス構想の解説。Metaの長期的なAIビジョンと巨額投資の背景を分析。
【編集部後記】
AIエージェントの時代が本格的に到来しつつあることを、この買収は象徴しているように思います。私たちが日常的に使うテクノロジーは、単に質問に答えるだけでなく、複雑なタスクを代わりに実行してくれる存在へと進化しています。ManusのようなAIエージェントが30億人以上が使うプラットフォームに統合されたとき、働き方や情報との向き合い方はどのように変わるのでしょうか。そして、その変化の中で私たちはどんな新しい価値を生み出せるのか。ぜひ一緒に考えていきたいテーマです。































