12月26日にNvidiaによるIntel株式の大型取得が完了し、わずか数日で大きな含み益が発生している。
Nvidiaは9月にIntelとの間で約2億1478万株を1株23.28ドルで購入する契約を締結した。米連邦取引委員会(FTC)が独占禁止法上の懸念から精査していたが、12月18日に承認され、12月26日に取引が完了した。
Intelの株価は月曜日に36.68ドルで終値を迎え、Nvidiaの50億ドルの投資額は75億8000万ドルの価値となった。
これによりNvidiaはIntelの約4%の株式を保有することになる。両社は今後、データセンターとPC向けのチップを複数世代にわたって共同開発する。
IntelはNvidiaカスタムのx86 CPUを製造し、Nvidia RTX GPUチップレットを統合したx86システムオンチップも製造する。
両社のチップはGPU1基あたり1.8TB/sの帯域幅を持つNVLinkで接続される。
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Nvidia spends $5B on Intel bailout, instantly gets $2.5B richer
【編集部解説】
今回のNvidiaによるIntel株式取得が完了したタイミングで注目を集めているのは、わずか3か月で生じた大幅な含み益です。9月に決定された1株23.28ドルという価格は、当時のIntelの苦境を反映したものでした。しかし12月26日の取引完了時点でIntel株価は36.68ドルまで上昇しており、Nvidiaの50億ドルの投資は既に75億8000万ドルの価値となっています。
Intelが深刻な財務危機に直面していたことは数字が物語っています。2024年、同社は188億ドルの年間損失を記録しました。これは1986年以来初めての年間赤字です。売上も2021年の790億ドルから2024年には531億ドルへと3年連続で減少し続けています。
こうした状況を受け、米国政府も8月にCHIPS法に基づいて89億ドルを投じてIntelの10%株式を取得しています。つまりNvidiaの50億ドルと合わせて、Intelはこの数か月で外部から約140億ドルの資金を調達したことになります。これは単なる財務支援ではなく、米国の半導体製造能力を国家安全保障上の観点から強化する戦略の一環です。
今回の取引で注目すべきは、Nvidiaが単なる財務投資家にとどまらず、Intelと技術面で深く連携する点です。両社はデータセンターとPC向けのチップを複数世代にわたって共同開発します。具体的には、IntelがNvidia向けにカスタム設計されたx86 CPUを製造し、NvidiaがそれをAIインフラストラクチャプラットフォームに統合します。
さらに注目すべき展開として、IntelはNvidia RTX GPUチップレットを統合したx86システムオンチップ(SoC)を製造します。これは統合CPUとGPUを搭載した新世代のPCを実現するもので、従来のIntelとNvidiaの関係を大きく変える可能性があります。
技術的な要となるのがNVLinkです。この接続技術はGPU1基あたり1.8TB/s(各方向に900GB/s)という帯域幅を実現し、これはPCIe 5.0 x16スロットの約14倍に相当します。この超高速接続により、NvidiaのAIアクセラレータとIntelのx86 CPUエコシステムが緊密に統合されることになります。
この提携には過去の教訓が反映されています。Nvidiaは2020年に英国の半導体設計企業Armを400億ドルで買収しようとしましたが、2021年12月に米連邦取引委員会(FTC)が独占禁止法違反で訴訟を起こしました。FTCは「大手チップメーカーがライバル企業の設計を支配することになる」と主張し、Nvidiaは訴訟提起からわずか2か月後の2022年2月に買収を断念しました。
今回のIntel株式取得も当初FTCの精査を受けましたが、12月18日に承認されています。完全買収ではなく4%の株式取得という形態にしたことで、独占禁止法上の懸念を回避できたと考えられます。
Nvidiaにとって、この取引は2025年にまとめた一連の大型ディールの一端に位置付けられます。NvidiaはAIチップスタートアップGroqの推論向け技術および関連資産の取得と非独占ライセンス契約(総額約200億ドル規模と報じられている)に加え、OpenAIと最大1,000億ドルに達し得る長期的な投資コミットメントと10GW規模のNvidiaシステム導入計画で合意しており、これらをIntel株への50億ドル出資と合わせると、理論上のコミットメント総額は約1,250億ドルに達します。 これらの多くは複数年にわたり段階的に実行される枠組みですが、NvidiaがAIチップだけでなく推論基盤や大規模モデル運用まで含めたAIバリューチェーン全体への関与を一気に深めようとしていることを示す動きと言えるでしょう。
一方Intelにとっては、Lip-Bu Tan CEO体制下での再建の重要な一歩となります。前CEOのPat Gelsingerは2024年12月に解任されており、Intelは経営体制の刷新とともに技術面でも新たな方向性を模索しています。Tanは2025年3月に就任後、約15%の人員削減や組織のフラット化など、大胆な改革を推進しています。
Intel株価は2025年に約80%上昇していますが、それでもパンデミック時のピークと比較すると約50%低い水準にとどまっています。2025年後半に量産開始予定のIntel 18Aプロセスや、2028年に予定される14Aプロセスの成否が、同社の本格的な復活のカギを握っています。
今回の提携は、米国の半導体産業における戦略的再編の象徴といえるでしょう。AI時代において、GPUとCPUの境界が曖昧になりつつある中、かつてのライバル同士が手を組むことで、新たな競争力を生み出そうとしています。
【用語解説】
NVLink
Nvidiaが開発した高速インターコネクト技術。GPU間やGPU-CPU間のデータ転送を高速化する。最新世代では1.8TB/sの帯域幅を実現し、従来のPCIe接続の14倍の速度を誇る。
システムオンチップ(SoC)
複数の機能を1つのチップに統合した集積回路。CPUやGPU、メモリコントローラーなどを単一のチップに搭載することで、省電力化や小型化を実現する。スマートフォンなどで広く使用されている。
CHIPS法(CHIPS and Science Act)
2022年に成立した米国の法律。国内半導体製造を強化するため、約527億ドルの補助金を提供する。国家安全保障と経済競争力の観点から、半導体サプライチェーンの国内回帰を促進する。
チップレット
複数の小さなチップ(チップレット)を組み合わせて1つの半導体製品を構成する設計手法。異なる製造プロセスで作られたチップを組み合わせることができ、開発コストの削減や歩留まりの向上が期待できる。
垂直統合(Vertical Integration)
サプライチェーンの異なる段階にある企業同士の統合。今回の場合、GPU製造企業(Nvidia)とCPU製造企業(Intel)という、異なるレイヤーの企業間の連携を指す。
Intel 18A / 14Aプロセス
Intelが開発中の次世代半導体製造プロセス。18Aは1.8nmレベルの微細化技術で2025年後半に量産開始予定。14Aは2028年を目標としており、さらなる微細化と性能向上を目指している。
【参考リンク】
NVIDIA and Intel Partnership Announcement(外部)
NvidiaとIntelの提携に関する公式発表。両社の協業内容や50億ドルの投資について詳細が記載されている。
FTC Early Termination Notice(外部)
米連邦取引委員会によるNvidiaのIntel投資承認に関する公式通知。独占禁止法審査の結果が確認できる。
Intel 2024 Q4 Financial Results(外部)
Intelの2024年第4四半期および通期決算発表。188億ドルの損失や今後の戦略について詳細に記載されている。
【参考記事】
Nvidia takes $5 billion stake in Intel under September agreement(外部)
CNBCによる報道。Nvidiaの50億ドルのIntel株式取得完了について、背景や意義を解説している。
Nvidia Finalizes $5 Billion Investment in Intel for 4 Percent Stake(外部)
今回の投資の詳細と、Intelの財務状況や両社の協業計画について包括的に報じている記事。
Nvidia completes $5Bn investment in Intel that will result in co-developed AI chips(外部)
NvidiaとIntelの技術協力の具体的な内容と、AI市場における両社の戦略について詳述している。
FTC Sues to Block $40 Billion Semiconductor Chip Merger(外部)
2021年のNvidiaによるArm買収をFTCが阻止した際のプレスリリース。今回の取引との比較において重要な参考資料。
Intel loses $18.8bn(外部)
Electronics WeeklyによるIntelの2024年決算分析。188億ドルの損失の詳細と今後の見通しについて解説。
【編集部後記】
半導体業界の勢力図が大きく変わろうとしています。かつてライバル関係にあったNvidiaとIntelが手を組み、AIとx86の融合という新たな挑戦を始めました。この動きは、私たちが日常的に使うPCやデータセンターのあり方を根本から変える可能性を秘めています。GPUとCPUの境界が曖昧になり、統合されたチップが当たり前になる未来は、すぐそこまで来ているのかもしれません。みなさんは、こうした技術革新が私たちの生活やビジネスにどのような影響を与えると考えますか?innovaTopia編集部では、引き続きこの動向を注視していきます。































