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MAG DRIVE、磁気抵抗ゼロのペダル充電システムでEバイク革命へ|CES 2026で発表

[更新]2025年12月30日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

電動モビリティの普及を阻む最大の障壁は、充電インフラの整備と航続距離の制約でした。バッテリー容量を増やせば重量とコストが増し、充電ステーションを増やせばインフラ投資が膨らむ。この構造的なジレンマに対して、熊本発のスタートアップが全く異なる解を示そうとしています。

ハロースペースが2026年1月のCES 2026で発表する「MAG DRIVE」は、ペダルを漕ぐだけで100Wから250Wを発電しながら、従来の回生ブレーキが抱えていた磁気抵抗をゼロに抑えることに成功しました。外部充電の頻度を削減するこのアプローチは、充電インフラが整わない新興国市場や、高頻度利用が求められるバイクシェアリング、ラストワンマイル配送といった用途で、電動モビリティの運用を根本から変える可能性を秘めています。

豊田通商グループとの4年にわたる共同開発、そしてインド市場への展開を見据えたXEROとの提携。日本の技術力とアジアの製造力が結びついた今回の発表は、モビリティの未来に新たな選択肢をもたらす一歩となるでしょう。


熊本拠点のクリーンテックスタートアップであるハロースペース株式会社は、2026年1月にラスベガスで開催される世界最大のテクノロジー見本市CES 2026において、ペダル充電システム「MAG DRIVE(マグドライブ)」を発表する。

MAG DRIVEは特許取得済みの半超電導回生駆動システムで、ペダルをこぐだけでバッテリーを充電しながら、充電時に発生する磁気抵抗をゼロに抑えることに成功した。

通常のペダリング速度で100Wから250Wの電力を出力し、デュアルバッテリーを搭載することで2〜3時間の走行で満充電が可能である。

ハロースペースは豊田通商ネクスティエレクトロニクスグループと共同開発を進めており、2025年12月にはインドのEVメーカーXEROとスマートEバイクの共同開発に関する覚書を締結した。

最初の製品は2026年に提供開始予定で、バイクシェアリングサービス、デリバリー用EV、フィットネスバイクなどへの展開を想定している。

From: 文献リンク磁気抵抗ゼロでペダル充電!電動モビリティ革命システム「MAG DRIVE」CES2026で発表

【編集部解説】

電動モビリティの運用において、充電インフラの整備とバッテリーの航続距離は常に最大の課題となってきました。今回、熊本発のスタートアップであるハロースペースが発表するMAG DRIVEは、この根本的な問題に対して独創的なアプローチで挑戦しています。

MAG DRIVEの最大の革新性は「磁気抵抗ゼロ」という点にあります。従来の回生ブレーキシステムは、ダイレクトドライブモーターを使用してブレーキ時の運動エネルギーを電気に変換しますが、この際に磁気抵抗が発生し、ペダリング時に重さを感じるという問題がありました。また、回生効率も5〜10%程度と低く、バッテリー充電時の発熱も課題でした。MAG DRIVEはこの磁気抵抗をゼロに抑えることで、ペダルをこぐ際の違和感なく、通常のペダリング速度で100Wから250Wという実用的な電力を発電できる点が画期的です。

「半超電導回生駆動システム」という表現も興味深い点です。一般的な超電導技術は極低温環境(液体ヘリウムで4.2K、液体窒素で77K)が必要ですが、MAG DRIVEは「半超電導」という独自の技術を採用することで、おそらくより実用的な温度帯での運用を可能にしているものと推察されます。

デュアルバッテリーシステムも実用性を高める重要な要素です。2つのバッテリーが独立した回路で充電と放電を自動的に切り替えることで、2〜3時間の走行で満充電が可能になります。これにより、バイクシェアリングサービスやデリバリー用途では、外部充電の頻度を大幅に削減できる可能性があります。

ハロースペースは2018年の設立以来、着実に実績を積み重ねてきました。2021年から豊田通商ネクスティエレクトロニクスグループとMAG DRIVEの共同開発を開始し、CES 2022でコンセプトを発表、2025年には大阪万博でデモンストレーションを実施しています。そして2025年12月に締結したインドのEVメーカーXEROとの覚書は、この技術の商業化が現実味を帯びてきたことを示しています。

インド市場は電動モビリティの急成長地域であり、政府のFAME-IIスキームなど積極的な政策支援が行われていました。XEROは2022年設立の新興EVメーカーで、持続可能な輸送ソリューションの提供を掲げています。ハロースペースがMAG DRIVEシステムを供給し、XEROが製造・商業供給を担当するという役割分担は、日本の技術とインドの製造力を組み合わせた戦略的なパートナーシップと言えます。

CES 2026のジャパン・パビリオンでの発表は、日本のクリーンテック企業が世界最大の舞台で技術力を示す重要な機会となります。2026年の製品化予定という具体的なタイムラインも示されており、従来のコンセプト段階から実用化フェーズへの移行が明確になっています。

電動モビリティの未来を考える上で、MAG DRIVEのような充電頻度を削減する技術は、充電インフラの整備が追いつかない新興国市場において特に大きな意味を持ちます。バイクシェアリングやラストワンマイル配送といった高頻度利用が求められる用途では、運用効率の向上が直接的にビジネスモデルの成立性に影響するためです。また、フィットネスバイクへの応用も興味深く、ペダルを漕ぐことで発電しながらエクササイズができるという新しい価値提案となっています。

今後の注目点は、実際の商用環境での性能検証と、半超電導技術の具体的な仕組みの開示です。磁気抵抗ゼロという理論値が、多様な使用環境下でどの程度実現されるのか、また量産化に向けたコストダウンがどの程度可能なのかが、この技術の普及を左右する鍵となるでしょう。

【用語解説】

半超電導回生駆動システム
超電導技術を応用した発電システムで、電気抵抗をほぼゼロにすることでエネルギーロスを最小限に抑える。完全な超電導には極低温環境が必要だが、半超電導は実用的な温度帯での運用を目指した技術と考えられる。

回生ブレーキ(regenerative braking)
ブレーキ時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してバッテリーに戻す技術。電気自動車やハイブリッド車で広く採用されているが、Eバイクでは磁気抵抗や効率の問題から普及が限定的だった。

磁気抵抗
発電機やモーターにおいて、磁場の中を導体が動く際に生じる抵抗力。回生充電システムでは、この抵抗がペダリング時の重さとして感じられ、ユーザー体験を損なう要因となっていた。

デュアルバッテリーシステム
2つのバッテリーを搭載し、それぞれ独立した回路で充電と放電を自動的に切り替えるシステム。一方のバッテリーが放電中に他方が充電されることで、効率的なエネルギー管理が可能になる。

ダイレクトドライブモーター
ギアを介さずに直接駆動するハブモーター。回生ブレーキには必須だが、重量が重く、バッテリー切れ時にペダリングが重くなるという課題があった。

FAME-IIスキーム
インド政府が推進していた電動モビリティ普及政策。Faster Adoption and Manufacturing of Electric Vehiclesの略で、EV購入補助金や充電インフラ整備に対する支援を行っていた。

【参考リンク】

ハロースペース株式会社(外部)
熊本拠点のクリーンテックスタートアップ。超電導や量子技術を活用した次世代モビリティシステムの開発を手がける。

XERO(Anantshree Vehicle Pvt. Ltd)(外部)
インド発のEVスタートアップ。持続可能な電動輸送ソリューションの提供を目指し、性能と価格を両立した電動二輪車を展開。

CES(Consumer Electronics Show)(外部)
全米民生技術協会が主催する世界最大規模のテクノロジー見本市。毎年1月にラスベガスで開催される。

PR Newswire – MAG DRIVE発表リリース(外部)
ハロースペースによるMAG DRIVEの公式プレスリリース。技術詳細とXEROとの提携について発表している。

【参考記事】

Japan’s Hello Space to Unveil “MAG DRIVE” at CES 2026(外部)
ハロースペースの公式プレスリリース。2021年から豊田通商グループと共同開発を開始し、100W〜250Wの電力出力を実現。

Which Types of E-Bikes Have Regenerative Charging Features?(外部)
Eバイクの回生充電技術の現状を解説。航続距離を5〜10%程度延長できるが磁気抵抗が課題と指摘。

Why Don’t More Bikes Use Regenerative Braking?(外部)
回生ブレーキがEバイクで普及していない理由を分析。追加航続距離はわずか5%程度で費用対効果が低いと説明。

Superconducting Magnetic Energy Storage (SMES)(外部)
超電導磁気エネルギー貯蔵の原理を解説。電気抵抗ゼロで95%以上の高効率を実現するが極低温維持がコスト課題。

XERO Company Profile – Tracxn(外部)
XEROの企業情報。2022年設立のインド・ピタンプール拠点のEVスタートアップで電動スクーター製造を手がける。

【編集部後記】

電動モビリティの世界では、充電の手間をどう減らすかが長年の課題でした。今回のMAG DRIVEは、ペダルを漕ぐという日常的な動作から効率的に発電する点で、これまでの回生ブレーキとは一線を画しています。バイクシェアリングやフードデリバリーなど、私たちの生活に身近なサービスの裏側で、こうした技術革新が静かに進んでいることに注目したいですね。磁気抵抗ゼロという技術が実際にどこまで快適なペダリング体験を実現できるのか、CES 2026での実機デモンストレーションが楽しみです。みなさんは、充電の心配なく使えるEバイクが普及したら、どんな使い方をしてみたいですか。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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