2026年を目前に控え、ヒューマノイドロボット市場で中国企業の量産体制が整いつつある。
イーロン・マスクはテスラの評価額を数十兆ドルに押し上げる中核としてヒューマノイドロボットを位置づけているが、テスラはまだ旗艦機Optimusを販売していない。
その代わり、中国企業が2026年にロボットの量産を開始する見込みだ。
コンサルティング会社Horvathのパートナーは、中国が現在、ヒューマノイドロボットの初期商業化で米国をリードしていると述べた。
中国は過去数年間、ロボティクスを技術戦略の重要な焦点とし、習近平国家主席らが10月に発表した第15次5カ年計画では「身体知能」が言及された。
中国にとってヒューマノイドロボットは、出生率低下と高齢化による労働力課題への対処と技術覇権の追求の両方を意味する。RBC Capital Marketsは2050年までにヒューマノイドの世界市場が9兆ドルに達し、中国がその60%以上を占めると予測した。
Unitree、UBTech Robotics、Xpengなどの中国企業が量産を進めている。中国には150社以上のヒューマノイドロボット企業があり、深いサプライチェーンによりコスト優位性を持つ。
一方、米国は垂直統合に賭けており、商務長官Howard Lutnickがロボティクス企業CEOと会合を持ち、来年大統領令の発令を検討している。11月、中国の国家発展改革委員会は類似製品が増加しバブル形成のリスクがあると警告した。
From: 
Elon Musk wants robots everywhere. China is making that a reality
【編集部解説】
2026年を目前に控えた今、ヒューマノイドロボット市場は歴史的な転換点を迎えています。イーロン・マスクが華々しく掲げたテスラOptimus構想に反して、実際に大量生産を開始するのは中国企業という、米中技術覇権競争の構図を象徴する展開となっています。
中国政府は10月に発表した第15次5カ年計画で「身体知能(Embodied AI)」を明記し、国家戦略の中核に据えました。これはロボティクスや自動運転車など、AIを搭載した物理的なハードウェアを指す用語です。中国にとってヒューマノイドロボットは、出生率低下と高齢化という人口問題への解決策であり、同時に米国との技術競争における優位性を確保する手段でもあります。
実際、中国企業の量産体制は着実に進んでいます。UBTech Roboticsの旗艦モデルWalker S2は、世界初となる自律的なバッテリー交換機能を実現しました。このロボットは約3分でバッテリーを自ら交換でき、24時間連続稼働が可能です。高さ176cm、重量73kgのWalker S2は52の自由度を持ち、15kgまでの物体を持ち上げることができます。UBTechは今年500台を出荷し、2026年には5,000台、2027年には10,000台への生産拡大を計画しています。11月25日には香港証券取引所で約4億ドルの資金調達を発表しました。
また、Unitree Roboticsは約70億ドルの評価額でのIPOを準備中です。同社の最新モデルH2は、流麗なダンス動作を披露し、技術の進歩を印象づけました。一方、電気自動車メーカーXpengは11月に第2世代ヒューマノイドロボット「Iron」を発表し、2026年末までに量産を開始する計画です。Ironはその自然な動きから「中に人が入っているのでは」という疑念を招き、CEOが実際にロボットを切り開いて内部機構を公開する事態にまで発展しました。
中国には現在150社以上のヒューマノイドロボット企業が存在します。深いサプライチェーンにより、コスト優位性を持つことが大きな強みです。UBTechは生産コストが毎年20%から30%低下すると予測しており、地方政府からの補助金も業界の成長を後押ししています。
しかし、急成長には警告も伴います。11月、中国の国家発展改革委員会(NDRC)は、類似製品が市場に溢れバブルが形成されるリスクがあると警告しました。多くの企業が参入し、似たような製品を出すことで、真の研究開発が圧迫される懸念があるというのです。これは過去の電気自動車市場や自転車シェアリング市場で見られたブームとバストのサイクルを想起させます。
一方、米国も手をこまねいているわけではありません。Politicoの報道によれば、Howard Lutnick商務長官がロボティクス企業のCEOたちと会合を持ち、2026年にロボティクスに関する大統領令の発令を検討しています。運輸省もロボティクス作業グループの設置を準備中です。米国企業は「垂直統合」戦略を採用し、アクチュエータやAIソフトウェアなどサプライチェーンをより多く自社で管理することで、優れた性能と知的財産の保護を目指しています。
市場規模の予測も注目に値します。RBC Capital Marketsは、2050年までにヒューマノイドロボットの世界市場が9兆ドルに達し、中国がその60%以上を占めると予測しました。家庭用途だけで約2.9兆ドル、全体の約3分の1を占める見込みです。ただし、完全な機能を持つ家庭用ロボットの普及には20年以上かかる可能性があります。
この競争は単なる産業の話ではありません。ヒューマノイドロボットは、人間のために設計された既存の環境や道具をそのまま使えるという点で、他の形態のロボットにはない優位性を持ちます。工場や物流、農業から、将来的には家庭や高齢者介護まで、幅広い用途が期待されています。
2026年は、ヒューマノイドロボットが概念実証の段階から本格的な商業展開へと移行する「実用化元年」となる可能性が高いです。中国企業の量産開始、米国政府の戦略的関与、そして巨大な市場予測が重なり合うこの瞬間は、数十年後に振り返ったとき、人類とテクノロジーの関係を根本的に変えた転換点として記憶されるかもしれません。
【用語解説】
身体知能(Embodied AI)
AIを物理的なハードウェアに統合した技術の総称。ヒューマノイドロボット、自動運転車、ドローンなどが含まれる。従来のデジタル空間のみで動作するAIとは異なり、現実世界で物理的に行動し、環境と相互作用する能力を持つ。
自由度(Degrees of Freedom)
ロボットの関節が独立して動ける方向の数。人間の体は約244の自由度を持つとされる。Walker S2の52自由度、Xpeng Ironの82自由度といった数値は、ロボットがどれだけ複雑で人間らしい動きができるかを示す指標である。
垂直統合
企業がサプライチェーンの多くの段階を自社で所有・管理する戦略。部品製造からソフトウェア開発、最終組み立てまでを一貫して行うことで、品質管理、コスト削減、知的財産保護などのメリットを得る。
第15次5カ年計画
中国政府が2026年から2030年までの経済・社会発展の方向性を示す計画。2025年10月に中国共産党中央委員会が提案を発表し、2026年3月の全国人民代表大会で正式に承認される見込み。科学技術の自立と強化を重要目標の一つとしている。
【参考リンク】
UBTech Robotics – Walker S2(外部)
UBTech Roboticsの産業用ヒューマノイドロボットWalker S2の公式ページ。自律バッテリー交換機能の詳細を掲載
Unitree Robotics(外部)
四足歩行ロボットとヒューマノイドロボットを開発する中国企業。IPO準備中で評価額は約70億ドルの見込み
Xpeng(外部)
電気自動車とAI技術を手がける中国企業。ヒューマノイドロボットIronを2026年に量産予定
National Development and Reform Commission (NDRC)(外部)
中国の国家発展改革委員会。経済戦略と政策変更を担当する機関でヒューマノイドロボット市場のバブルリスクを警告
【参考記事】
China’s UBTech Robotics eyes US$400 million in Hong Kong share placement(外部)
UBTech Roboticsが2025年11月25日に約4億ドルの資金調達を発表した詳細
UBTECH Humanoid Robot Walker S2 Begins Mass Production and Delivery(外部)
Walker S2の量産開始と2025年500台、2026年5,000台、2027年10,000台の生産計画詳細
Xpeng unveils next-gen Iron humanoid robot at 2025 AI Day(外部)
Xpeng第2世代ヒューマノイドロボットIronの発表と2026年末量産計画の詳細
RBC flags $12 trillion opportunity as humanoid robots advance(外部)
RBC Capital Marketsによる2050年市場9兆ドル予測と中国60%以上占有の分析
China Warns of Bubble Risks in Booming Humanoid Robots Arena(外部)
中国国家発展改革委員会による150社以上の企業と類似製品のバブルリスク警告
White House Eyes “Robotics Executive Order” as Trump Administration Pivots to Hardware(外部)
Howard Lutnick商務長官のロボティクス企業CEO会合と2026年大統領令検討
Next-gen China: Advancing strategic technologies, emerging industries(外部)
中国第15次5カ年計画における身体知能とロボティクスの戦略的位置づけ
Walker S2 Humanoid Robot – Autonomous Battery Swapping(外部)
UBTech Walker S2の技術仕様とバッテリー交換システムの詳細情報
【編集部後記】
ヒューマノイドロボットの実用化が目前に迫る中、私たちは重要な問いに直面しています。この技術は労働力不足を解決する救世主となるのか、それとも雇用を奪う脅威となるのか。中国が量産で先行し、米国が垂直統合で対抗するこの競争の先に、どのような未来が待っているのでしょうか。innovaTopia編集部としては、この技術が人類の進化を促進する力となることを期待しつつも、その影響を冷静に見守る必要があると考えています。みなさんはヒューマノイドロボットが日常に溶け込む社会をどう捉えますか。
