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獣医療AI「Vets Ask AI」が11万件達成、匿名化Q&Aライブラリで業界全体の診療スキル向上へ

獣医療AI「Vets Ask AI」が11万件達成、匿名化Q&Aライブラリで業界全体の診療スキル向上へ - innovaTopia - (イノベトピア)

獣医療の現場で、AIが「使える道具」として定着し始めている。11万件の質問が示すのは、専門家の経験と直感を、膨大なデータと論理で補完する新しい働き方の萌芽だ。


A’alda Y株式会社は、獣医療従事者向けAIサービス「Vets Ask AI」において、2025年12月24日時点で登録ユーザー数が1,777人を突破し、累計質問検索回数が10万件を超えたと発表した。2025年9月のリリースから約3か月での達成となる。2025年12月26日現在の累計質問検索回数は110,000回に達している。

これに伴い、全国のユーザーから寄せられた臨床的な質問とAIの回答を匿名化された状態で閲覧・活用できる新機能「Vets Ask AIライブラリ」をリリースした。ライブラリは獣医師・動物看護師が実際に投げかけた質問とAI回答を閲覧できるストリーム型ナレッジ共有機能である。2025年11月にはインフォームドノート機能がリリースされており、2026年早々には「Reasoning Mode」機能などの新機能を続々とリリースする予定としている。

From: 文献リンク獣医療従事者向けAI「Vets Ask AI」、累計質問数11万件を突破し、新機能「Vets Ask AIライブラリ」を公開

 - innovaTopia - (イノベトピア)
A’alda Y株式会社 PRTIMESより引用

【編集部解説】

獣医療の現場にAIがもたらす変革は、単なる診療支援ツールの登場という表面的な話にとどまりません。今回リリースされた「Vets Ask AIライブラリ」は、11万件という膨大な対話データを匿名化して共有することで、獣医療業界全体の知識基盤を底上げする試みです。

このサービスの核心は、2,800万件以上の医学論文や国際ガイドラインを学習したAIが、日本獣医師国家試験、国際模試で高い正答率を達成している点にあります。40名以上の獣医師が監修に関わり、東南アジア最大の医師向けAI企業であるDocquity Holdingsとの提携によって、医療分野で培われたAI技術が獣医療に応用されています。

獣医療AI市場は世界的に急成長しており、2032年まで年率18.4%で拡大すると予測されています。北米が37.8%のシェアを占め、IDEXX LaboratoriesやZoetisといった大手企業も画像診断や血液分析にAIを投入しています。海外ではTails AI、Radimal、Vetspire AIなど、SOAP note作成の自動化や放射線画像の即座の解析を行うツールが既に実用化されています。

今回の「ライブラリ」機能が画期的なのは、プロンプトエンジニアリングの学習機会を提供している点です。他のユーザーがどのように質問を構成しているかを見ることで、AIから最適な回答を引き出すスキルが自然に身につきます。これは「AIをどう使いこなすか」という、これからの時代に不可欠なリテラシーの習得を促進します。

一方で、獣医療AIには課題も存在します。最大の懸念は「AIハルシネーション」と呼ばれる現象です。AIが存在しない論文を引用したり、誤った情報を自信満々に提示したりする問題が指摘されています。Vets Ask AIは出典を明示することでこの問題に対処していますが、最終判断は必ず人間が行う必要があります。

データプライバシーも重要な論点です。匿名化されているとはいえ、臨床データがシステムに蓄積されることへの懸念は払拭できません。また、AIに依存しすぎることで獣医師の診断能力が低下するリスクや、誤診の責任所在が曖昧になる可能性も指摘されています。

それでも、人手不足と過重労働に悩む獣医療現場にとって、AIは診療の質を維持しながら効率を高める強力な武器となります。特に若手獣医師にとっては、経験豊富な先輩の知見に即座にアクセスできる学習ツールとして機能します。インフォームドノート機能による飼い主への説明資料の自動生成は、コミュニケーションの質を高めながら時間を節約します。

2026年早々にリリース予定の「Reasoning Mode」は、質問背景を推敲して一歩踏み込んだ説明を行う機能です。これは単なる情報検索を超え、複数の観点から問題を分析する「思考プロセス」をAIが提示する試みであり、診断精度のさらなる向上が期待されます。

獣医療AIの真価は、獣医師を置き換えることではなく、獣医師が動物と向き合う時間を増やし、より高度な判断に集中できる環境を作ることにあります。11万件という質問数の蓄積は、このビジョンが現場に受け入れられつつある証左と言えるでしょう。

【用語解説】

AIハルシネーション
AIが存在しない情報や誤った内容を、あたかも事実であるかのように生成してしまう現象。例えば、実在しない論文を引用したり、誤った統計データを自信満々に提示したりする。医療分野では特に危険性が高く、AIの回答を鵜呑みにせず、必ず人間が検証する必要がある。

プロンプトエンジニアリング
AIから最適な回答を引き出すために、質問や指示(プロンプト)を効果的に設計する技術。質問の仕方によってAIの回答の質が大きく変わるため、どのような文脈を与え、どのような形式で答えを求めるかが重要となる。獣医療現場では、症状や既往歴を適切に構造化して入力することで、より的確な診断支援を得られる。

SOAP note
医療記録の標準的な記述方式。Subjective(主観的情報)、Objective(客観的情報)、Assessment(評価)、Plan(計画)の頭文字を取ったもの。獣医療でも広く採用されており、診療内容を体系的に記録するために使用される。AI支援ツールによる自動生成が進んでおり、記録作業の時間を最大65%削減できるとされている。

インフォームドノート機能
動物病院での診察内容をもとに、飼い主が自宅でも家族に説明できる資料を自動生成する機能。飼い主の理解度に応じて3段階でレベルを調整でき、印刷やメール、LINEでの共有も可能。獣医師の説明負担を軽減しながら、飼い主の理解を深めることを目的としている。

Reasoning Mode
2026年早々にリリース予定の新機能。質問の背景を推敲し、一歩踏み込んだ説明を行う。2人の獣医師が協力して分析・解明していくようなプロセスをAIが再現し、より精度の高い回答を生成することを目指している。

【参考リンク】

A’alda Japan株式会社(外部)
国内最大規模の動物病院ネットワークを運営。クラウド型電子カルテシステムや獣医療AIサービスを展開。

Vets Ask AI(外部)
2,800万件以上の医学論文を学習した獣医療従事者向けAI。

Docquity Holdings(外部)
東南アジア最大の医師向けAIプラットフォーム企業。40万人以上の医師をネットワーク化。

IDEXX Laboratories(外部)
獣医療診断機器の世界的リーダー。AI搭載の院内検査機器で血液検査や尿検査の自動化を推進。

Zoetis(外部)
動物医薬品の世界最大手。AIによる血液分析プラットフォームで診断の速度と精度を向上させている。

【参考動画】

A’alda公式による「Vets Ask AIライブラリ」の詳細な機能紹介動画。

サービスの概要を短時間で理解できる公式ショート動画。

【参考記事】

2025 Guide to AI Tools for Veterinary Medicine(外部)
獣医療AI総合ガイド。Tails AI、Radimal等複数ツールの機能、特徴、価格を詳解。

Veterinary AI Diagnostic Tools: Documentation Guide 2025(外部)
獣医療AI市場が2032年まで年率18.4%成長と予測。

The Future of Artificial Intelligence in Veterinary Diagnostics(外部)
Zoetis社幹部インタビュー。血液学、尿検査、画像診断におけるAI技術の進展を解説。

ChatGPT in veterinary medicine: a practical guidance(外部)
獣医療従事者3,968人調査。83.8%がAI精通、69.5%が日常使用も36.9%が信頼性に懸念。

Artificial Intelligence in Veterinary Medicine: Applications and Future Potential(外部)
Morris Animal Foundation記事。ペットがん診断、画像診断、予測分析、創薬研究へのAI応用を解説。

【編集部後記】

獣医療の現場で起きているこの変化は、決して獣医師だけの話ではないと感じています。「専門家の経験と直感」を「AIの論理と膨大なデータ」で補完するというアプローチは、あらゆる専門職が直面する課題への一つの回答かもしれません。

みなさんの仕事や専門分野では、AIをどのように活用していますか?それとも、まだ距離を置いていらっしゃるでしょうか。11万件という質問数が示すのは、現場がAIを「使える道具」として受け入れ始めた証です。この流れは、私たちの働き方をどう変えていくのでしょうか。ぜひ、みなさんの考えをお聞かせください。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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