株式会社Spakona(本社:東京都渋谷区、代表取締役:河﨑太郎)は、自然科学研究機構核融合科学研究所(所在地:岐阜県土岐市、所長:山田弘司)と共同で、核融合プラズマの安定化を目的としたAI制御技術の実証実験を実施した。
プラズマが不安定化して消失する「放射崩壊」をAIにより予測し制御する技術で、大型ヘリカル装置(LHD)に接続して実験を行った。AIは放射崩壊が発生する200ミリ秒以上前に兆候を検知し制御信号を送り、複数条件下で崩壊抑制を試行した。
AIモデルの構築に約半年、LHDへの実装は約1週間で完了した。日本政府は2025年6月に核融合戦略を改定し、2030年代の発電実証を目指している。
今後詳細な解析を進め、研究成果として発表を予定している。
From:
株式会社Spakona、核融合科学研究所と共同で核融合プラズマの安定化に向けたAI制御技術の実証実験を実施
【編集部解説】
この実証実験の意義を理解するには、まず核融合発電が直面している根本的な課題を知る必要があります。核融合反応を維持するには1億度を超える超高温プラズマを安定的に閉じ込め続けなければなりませんが、このプラズマは極めて不安定な状態です。今回焦点となった「放射崩壊」は、不純物がプラズマ中で放射エネルギーを奪い、プラズマが突然消失してしまう現象を指します。
従来、この現象への対処は人間の熟練オペレーターの経験と勘に大きく依存していました。しかし、将来の商用炉では24時間365日の安定運転が求められるため、人間の判断だけに頼ることはできません。今回の実証実験が画期的なのは、AIが200ミリ秒以上前に崩壊を予測し、自動で制御介入できる仕組みを実際の核融合装置で動かしたという点にあります。
注目すべきは実装スピードです。AIモデルの構築に約半年かかった一方で、大型ヘリカル装置(LHD)への実装はわずか1週間で完了しました。これは核融合科学研究所が長年整備してきたデータベースと制御基盤の成熟度の高さを物語っています。
タイミングも重要な文脈を持ちます。日本政府は2025年6月に核融合戦略を改定し、発電実証の目標時期を「2050年頃」から「2030年代」へと大幅に前倒ししました。この野心的な目標を達成するには、プラズマ制御の自動化・高度化が不可欠であり、今回の実証実験はそのマイルストーンの一つと位置づけられます。
興味深いのは、核融合分野でAI活用が急速に進展している点です。量子科学技術研究開発機構(QST)とNTTも2025年4月にAIを使った高精度プラズマ予測技術を発表しており、複数の研究機関が異なるアプローチで同じ課題に取り組んでいます。これは健全な競争環境を生み出し、技術革新を加速させる効果が期待できるでしょう。
ポジティブな側面として、この技術は核融合炉の安全性向上にも寄与します。AIによる予測的制御が実現すれば、プラズマの突然の消失による装置へのダメージを回避でき、設備の長寿命化とメンテナンスコスト削減につながる可能性があります。
一方で課題も残されています。今回はあくまで「実証実験を実施した」段階であり、詳細な解析はこれからです。AIの予測精度、制御効果の定量評価、さまざまな運転条件下での再現性など、商用化に向けてはまだ多くの検証が必要となります。また、AIの判断根拠の可視化(説明可能性)も重要な課題として挙げられています。
長期的視点で見れば、この取り組みは単なる技術開発を超えた意味を持ちます。AIエンジニアと核融合研究者という異分野の専門家が協働し、短期間で成果を出したプロセスそのものが、今後の産学連携のモデルケースとなり得るからです。2030年代の発電実証という目標達成には、こうした分野横断的な取り組みの加速が鍵を握っているといえるでしょう。
【用語解説】
放射崩壊(Radiative Collapse)
核融合プラズマ中に不純物が混入することで、放射によってエネルギーが失われ、プラズマの温度が急激に低下して消失してしまう現象である。プラズマの安定維持における最大の障壁の一つとされる。
プラズマ
物質の第4の状態と呼ばれる超高温の電離ガス状態である。核融合反応を起こすには1億度以上の超高温プラズマを安定的に閉じ込める必要があり、磁場を用いた制御技術が用いられる。
ステラレータ型装置
大型ヘリカル装置(LHD)が採用している核融合炉の方式の一つである。複雑な形状のコイルで磁場を作り出し、プラズマを連続的に閉じ込めることができる特徴を持つ。トカマク型と並ぶ主要な磁場閉じ込め方式である。
大型ヘリカル装置(LHD)
核融合科学研究所が運用するステラレータ型の核融合実験装置である。プラズマの長時間安定保持を目指した研究が行われており、豊富な実験データベースが蓄積されている。
【参考リンク】
株式会社Spakona 公式サイト(外部)
AIを活用した複雑系制御技術を専門とする東京都渋谷区のスタートアップ企業。核融合プラズマ制御をはじめ高度な予測・最適化が求められる領域への応用を目指す。
自然科学研究機構 核融合科学研究所(NIFS)(外部)
岐阜県土岐市に所在する核融合研究の中核機関。大型ヘリカル装置を運用しステラレータ型核融合炉の研究開発を推進。長年の実験データベースが産学連携の基盤となった。
量子科学技術研究開発機構(QST)(外部)
日本の量子科学技術・放射線科学技術の研究開発を担う国立研究開発法人。トカマク型核融合実験装置JT-60SAを運用し核融合エネルギー実現に向けた研究を行う。
大型ヘリカル装置(LHD)学術研究プラットフォーム(外部)
NIFSが運用するLHDの研究成果や実験データを公開するプラットフォーム。世界中の研究者との共同研究を促進し核融合研究の発展に貢献している。
【参考記事】
Prediction of Radiative Collapse in the Large Helical Device Plasma Discharges using Convolutional Neural Networks(外部)
核融合科学研究所の鈴木優也氏らによる先行研究論文。CNNを用いた大型ヘリカル装置における放射崩壊予測手法を提案。2025年Plasma and Fusion Research誌掲載。
A control oriented strategy of disruption prediction to avoid plasma termination in ITER(外部)
Nature Communications誌掲載論文。核融合炉における破壊的事象の予測と回避に関する制御指向の戦略を論じITERでのプラズマ終了回避を目的とした研究。
QST and NTT apply accurate AI technology to predict plasma confinement in fusion reactor(外部)
2025年4月21日発表。量子科学技術研究開発機構とNTTによる高精度AI技術を用いた核融合炉プラズマ閉じ込め予測。日本における核融合AI研究の並行事例。
National fusion strategy revision plan revealed: Cabinet Office to aim for power generation demonstration in the 2030s(外部)
2025年6月15日JST科学技術情報による報道。内閣府が2030年代の発電実証を目指す核融合戦略改定計画を明らかにしたことを伝えている。
Predicting the onset of plasma collapse and capturing characteristic radiation structure(外部)
大型ヘリカル装置における放射崩壊の予測と特徴的な放射構造の把握に関する研究論文紹介。データ駆動型アプローチによる放射崩壊メカニズムの解明を扱う。
【編集部後記】
核融合発電が「夢の技術」から「2030年代の実現目標」へと変わりつつある今、AIが果たす役割の大きさに驚かされます。200ミリ秒という一瞬の判断が、未来のエネルギーインフラを左右するかもしれません。
みなさんは、AIが核融合炉の「運転者」となる未来をどう捉えますか?人間の熟練技とAIの予測能力、それぞれの強みをどう組み合わせていくべきでしょうか。また、核融合以外にも、AIによるリアルタイム制御が革新をもたらす領域があるとすれば、どんな分野が思い浮かびますか?未来のエネルギーシステムについて、ぜひ一緒に考えていきたいと思います。































