ベトナムは2025年12月15日、2000万人目の国際観光客を迎えた。その5日後の12月20日、フーコック島で開催された会議において、国家レベルのデータプラットフォーム「Visit Vietnam」のデモ版が正式発表された。
このプラットフォームはベトナム国家観光局と国家データ協会の協力のもとで開発され、政府が推奨するイニシアチブである。Visit VietnamはAIを活用した旅行アシスタント機能を備え、旅行者は宿泊施設、交通手段、観光チケット、ツアーを単一のインターフェースで予約できる。
リアルタイム観光データマップ機能により、当局は人気目的地の収容能力を監視し、訪問者の流れを調整できる。文化・スポーツ・観光省はデジタルデータシステムをベトナムの将来の観光モデルの基盤として推進している。プラットフォームは観光企業に市場分析レポートを提供し、リアルタイムデータとグローバル決済システムからの決済インサイトを組み合わせている。
【編集部解説】
ベトナムが2025年12月15日に2000万人目の国際観光客を迎えた同日、同国は観光業の未来を形作る重要な一歩を踏み出しました。12月20日にフーコック島で正式発表されたデジタルプラットフォーム「Visit Vietnam」は、単なる観光情報サイトではなく、データ駆動型の「スマート観光エコシステム」を目指す国家プロジェクトです。
このプラットフォームの開発・運営を担うのは、ベトナムを代表する不動産・観光開発企業のSun Groupです。同社は国内に広範なリゾート、テーマパーク、観光施設のネットワークを持ち、そこから得られる「生きたデータ」をプラットフォームに統合します。一方、グローバル決済大手のVisaは、国際決済データ、AIを活用した支出行動分析、セキュリティプロトコルを提供し、国際標準の安全性と利便性を保証します。
特筆すべきは、リアルタイム観光データマップ機能です。人気観光地の収容能力や混雑状況を可視化することで、観光客の分散を促し、オーバーツーリズムを防ぐ仕組みが組み込まれています。これは近年、世界中の観光地が直面する課題への先進的な解決策と言えるでしょう。
AIを活用した旅行アシスタント機能も見逃せません。旅行者の好み、予算、スケジュールに基づいてパーソナライズされた旅程を提案し、宿泊施設、交通手段、観光チケットを単一のインターフェースで予約できます。Visa Offersとの連携により、専用の特典やプロモーションも提供されます。
一方で、課題も残されています。ベトナムの観光業界では中小企業のデジタル化がまだ不十分で、先進的なテクノロジーを導入するリソースが不足している企業も少なくありません。Visit Vietnamは、こうした企業に標準化された分析ツールと市場データを提供することで、デジタル格差の解消を図ります。
地域競争の文脈でも、この取り組みは重要です。東南アジアの観光リーダーであるタイは、2025年に国際観光客数が前年比で減少に転じています。一方、ベトナムは約21%の成長率を記録し、国連世界観光機関から世界最速の成長率を誇る国の一つと認定されました。Visit Vietnamは、この勢いをさらに加速させる戦略的ツールと位置づけられています。
データ駆動型のアプローチには、プライバシーとセキュリティへの配慮が不可欠です。Visaとの協力により、国際的なデータ保護基準に準拠した設計が行われていますが、ユーザーは個人情報の入力には常に慎重であるべきです。
プラットフォームは2026年第2四半期に正式運用を開始する予定で、2027年のAPECサミット開催時には、3Dバーチャルツアーやより高度なAI機能を備えた「スーパーアプリ」への進化が目指されています。
ベトナムのこの取り組みは、日本の地方観光地にとっても示唆に富んでいます。データを活用した観光客の分散管理、中小事業者のデジタル化支援、そして持続可能な観光の実現は、日本が直面する課題と重なります。テクノロジーを活用した観光の未来は、ベトナムから学ぶべき点が多いのではないでしょうか。
【用語解説】
スマート観光エコシステム
デジタル技術、AI、ビッグデータを活用して観光業界全体を統合し、観光客、事業者、行政機関が相互に連携する仕組み。リアルタイムのデータ共有により、効率的で持続可能な観光管理を実現する。
リアルタイム観光データマップ
観光地の混雑状況、収容能力、訪問者数などを即座に可視化する機能。当局が観光客の流れを調整し、オーバーツーリズムを防ぐために活用される。
オーバーツーリズム
特定の観光地に過度に多くの観光客が集中することで、地域住民の生活環境悪化、自然環境の破壊、文化遺産の損傷などの問題が生じる現象。持続可能な観光の大きな課題となっている。
データ駆動型
主観や経験則ではなく、収集・分析されたデータに基づいて意思決定や戦略立案を行うアプローチ。観光業では訪問者の行動パターンや支出傾向を分析し、サービス改善に活用する。
APEC(アジア太平洋経済協力)
アジア太平洋地域の21の国・地域が参加する経済協力の枠組み。ベトナムは2027年にAPECサミットを主催する予定で、Visit Vietnamはそれまでにグローバルベンチマークとなることを目指している。
【参考リンク】
Vietnam National Authority of Tourism(ベトナム国家観光局)(外部)
ベトナム観光を統括する政府機関の公式サイト。観光政策の立案・実施、観光プロモーション、Visit Vietnamプラットフォームの監督を担当している。
Sun Group(外部)
ベトナム最大級の不動産・観光開発企業。全国にリゾート、テーマパーク、ケーブルカーなどの観光施設を展開し、Visit Vietnamの開発・運営を担当している。
Visa(外部)
200以上の国・地域でデジタル決済サービスを提供するグローバル企業。Visit Vietnamに国際決済データ、AI分析、セキュリティ技術を提供し、プラットフォームの国際標準化に貢献。
UN Tourism(国連世界観光機関)(外部)
国連の専門機関として、持続可能で責任ある観光の推進を担当。2025年、ベトナムを世界最速成長の観光市場の一つとして認定した。
【参考記事】
Launching the Visit Vietnam platform: Beginning the digital era of Vietnamese tourism(外部)
12月20日フーコック島でのデモ版発表と2026年第2四半期の正式運用開始予定を詳述。Sun Groupがリアルタイムでデータを受信・分析・表示する仕組みを実演した。
Vietnam ushers in digital era of tourism | Vietnam+ (VietnamPlus)(外部)
ベトナム国営通信社による公式報道。12月15日の2000万人目観光客迎入と12月20日の正式発表を報じ、ベトナム国家観光局副局長のコメントを掲載。
Launch of Visit Vietnam – breakthrough digital leap for Vietnam’s tourism industry | Vietnam+ (VietnamPlus)(外部)
Sun Group、ベトナム国家観光局、国家データ協会、Visaの協力体制を詳述。プラットフォームが政府・企業・旅行者に統合サービスを提供する仕組みを解説。
2025 marks breakthrough growth for Vietnam’s tourism | Vietnam+ (VietnamPlus)(外部)
2025年の数値を報告。国際観光客2150万人、国内観光客1億3550万人、総観光収入1兆VND超。2016年の1000万人から10年足らずで2倍以上に成長。
Vietnam’s Tourism Sector Set For Record Year in 2025 | The Diplomat(外部)
ベトナムの21%成長と東南アジア最速成長を報告。一方タイの2024年比減少を指摘し対比。12月15日フーコック国際空港での2000万人目迎入の詳細を記載。
Sun Group, Visa back sustainable growth of Vietnam’s tourism sector | Vietnam+ (VietnamPlus)(外部)
Sun GroupとVisaの戦略的パートナーシップ詳細。UI/UX助言、非接触決済統合、Visa Offersミニアプリ統合など具体的な協力内容と国際決済データ共有の仕組みを解説。
【編集部後記】
ベトナムのこの取り組みを見ていて、日本の観光地の未来について考えさせられました。京都や鎌倉のオーバーツーリズム問題、地方の観光事業者のデジタル化の遅れ——これらの課題に、データ駆動型のアプローチはどのような答えを出せるのでしょうか。
一方で、旅の魅力は予測不能な出会いや偶然にもあります。すべてが最適化された旅は、果たして豊かな体験と言えるのか。みなさんは、テクノロジーによって「効率化された旅」と「偶発性のある旅」、どちらに惹かれますか? ぜひご意見をお聞かせください。
































