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Steam Frame、Linuxベース採用でVRに「オープンな遊び場」を提供——Flatpakとmod文化がもたらす自由度とリスク

 - innovaTopia - (イノベトピア)

ValveのVRヘッドセット「Steam Frame」は、LinuxベースのSteamOSを採用し、Flatpakによるアプリ配布を可能にしている。FlatpakはAndroidのAPKと同様のサンドボックス型パッケージで、アンインストールしてもシステムを元の状態に保つ安全性を提供する。

SteamOSはArch Linuxをベースに、デスクトップ環境としてKDE Plasmaを採用しており、Valveは過去10年間にわたってProtonをはじめとするオープンソースプロジェクトに資金を提供してきた。ユーザーはLinuxデスクトップから直接VLC、Discord、RetroArch、Spotifyなどのアプリを「Linux App Store」と呼ばれるFlathubからインストールできる。Valveはクローズドなキュレーション戦略を放棄したMetaとは対照的に、PCのオープン性をVRに持ち込むことで、ユーザー間の価値共有とmod文化を重視している。

From: 文献リンクHow Flatpaks & Open Source Make Steam Frame A Linux Playground

【編集部解説】

Steam FrameがLinuxベースであることの意義は、単なる技術選択以上の射程を持っています。Snapdragon 8 Gen 3プロセッサと16GBのRAMを搭載したこのヘッドセットは、Wi-Fi 7の2つの無線を使い分け、インターネット通信とVRストリーミングを5GHzと6GHzの帯域で分離する設計となっており、PC接続時の遅延を最小化します。

Protonは、Windowsゲームを変換せずにLinux上で動作させる互換レイヤーで、Wineをベースとして開発されてきました。Valveは過去10年間でこの技術を磨き上げ、Steam Deckの成功によってLinuxゲーミングの実用性を証明しました。Steam Frame上では、PCからのストリーミングだけでなく、スタンドアロンで動作するVRゲームにもこの互換レイヤーが活用される可能性があります。

Flatpakのサンドボックスは理論上堅牢ですが、実際の配布では約42%のアプリが権限を過剰に許可しており、セキュリティ上の懸念が指摘されています。CVE-2024-32462のような脆弱性やシンボリックリンクを悪用した攻撃経路も存在するため、ユーザーが無制限にサードパーティアプリをインストールする環境には一定のリスクが伴います。一方で、AndroidのアプリサンドボックスはFlatpakよりも成熟しており、権限管理も細分化されているとの評価もあります。

ValveがMetaの「クローズドからオープンへの転換」とは異なる道を歩んでいる点も注目に値します。Metaは当初Quest向けに厳格なキュレーションを行っていましたが、現在はオープン化を進めた結果、低品質コンテンツの氾濫に直面しています。一方でValveは最初からオープン性を前提とし、mod文化やコミュニティ主導の価値創造を重視する姿勢を貫いています。

長期的には、VRヘッドセットが「家電」と「PC」の中間に位置する新しいコンピューティングデバイスとして確立されるかが鍵となるでしょう。子どもの初めてのコンピュータがクローズドなモバイルデバイスである現状に対し、Steam Frameはオフラインでも自由に探索できる環境を提供する可能性を秘めています。

【用語解説】

Flatpak
Linuxデスクトップ向けのアプリケーション配布フォーマット。サンドボックス環境で動作し、システムの安全性を保ちながらアンインストールが可能。

SteamOS
ValveがArch Linuxをベースに開発したゲーミング用OS。2013年の初版から改良を重ね、Steam DeckやSteam Frameに搭載されている。

Proton
WindowsゲームをLinux上で動作させるための互換レイヤー。Wineをベースに開発され、Valveが10年以上資金を投じてきたオープンソースプロジェクト。

Arch Linux
シンプルさと柔軟性を重視したLinuxディストリビューション。SteamOSの基盤として採用され、ローリングリリース方式で常に最新の状態を保つ。

KDE Plasma
Linux向けの主要なデスクトップ環境の一つ。ValveはPlasma開発者に資金提供し、ゲーミング用途に最適化した改良を進めてきた。

Flathub
Flatpak形式のアプリケーションを配布するリポジトリ。「Linux App Store」とも呼ばれ、多様なアプリケーションを一元的に提供する。

サンドボックス
アプリケーションを隔離された環境で実行する技術。システムファイルへの不正アクセスを防ぎ、セキュリティを強化する仕組み。

Android XR
Googleが開発したXR(拡張現実)向けのプラットフォーム。Androidをベースにヘッドセット向けに最適化されている。

mod文化
ユーザーがゲームやソフトウェアを改変し、新しい体験を創造する文化。PCゲーミングの重要な要素で、多くの新ジャンルの源泉となった。

【参考リンク】

Steam Frame 公式ページ(外部)
Valveの公式ストアページ。Steam Frameの仕様、価格、予約情報を提供。Snapdragon 8 Gen 3搭載、16GB RAM、Wi-Fi 7対応などの詳細スペックが確認できる。

Flathub(外部)
Flatpak形式のアプリケーションを配布する公式リポジトリ。数千のオープンソースアプリケーションが無料で提供されており、Linux App Storeとして機能する。

Proton GitHub(外部)
ValveがメンテナンスするProtonのオープンソースリポジトリ。開発の進捗や技術仕様、コミュニティからの貢献を確認できる。

KDE Plasma 公式サイト(外部)
Steam Frameのデスクトップ環境として採用されているKDE Plasmaの公式サイト。機能紹介やカスタマイズ方法、開発者向け情報を提供している。

【参考動画】

UploadVRによるSteam Frameのハンズオンレビュー。実機の操作感、SteamOSのUI、Linuxデスクトップの動作などを詳細に紹介している。

【参考記事】

Steam Frame Preview – Hands-On With Valve’s State-of-the-Art VR Headset – IGN(外部)
IGNによるSteam Frameのプレビュー記事。ハンズオン体験を通じて、ハードウェアの完成度、SteamOSの使い勝手、PCストリーミング機能の実用性を評価している。

Steam Beta finally enables Proton on Linux fully, making Linux gaming simpler – Hard Forum(外部)
ProtonがLinuxゲーミングにもたらした革新を解説。WindowsゲームをLinux上でネイティブに近い性能で動作させる技術的背景と、Steam Deckでの実績を紹介している。

When Flatpak’s Sandbox Cracks: Real‑Life Security Issues Beyond the Ideal – Linux Journal(外部)
Flatpakのセキュリティ上の課題を詳述。約42%のアプリが過剰な権限を要求している現状、CVE-2024-32462などの脆弱性、シンボリックリンク攻撃のリスクを指摘している。

Gaming on Linux with Proton – Rocky Linux Documentation(外部)
ProtonによるLinuxゲーミングの技術解説。Wineベースの互換レイヤーとしての仕組み、DirectXからVulkanへの変換プロセス、パフォーマンス最適化の手法を説明している。

Flatpak vs Android app sandboxing for security/privacy – Reddit(外部)
FlatpakとAndroidのサンドボックス技術を比較するディスカッション。Androidの方が権限管理が細分化されており成熟しているとの指摘や、両者のセキュリティモデルの違いが議論されている。

【編集部後記】

Steam FrameがLinuxベースを選択した理由は、単なる技術的優位性だけでなく、コンピューティングの未来像を巡る思想の違いを反映しているように見えます。子どもが最初に触れるデバイスがクローズドなモバイル端末になっている現状で、オープンな環境での試行錯誤の機会は減少しています。一方でFlatpakのセキュリティ課題も無視できません。自由度とリスクのバランスをどう取るべきか、VRヘッドセットは「改造できる家電」であるべきなのか、それともmod文化はニッチな需要に過ぎないのか——皆さんはどう考えますか?

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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