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火星アマゾニアン期に水環境か──祝融号の地中レーダーが明かす火星の新たな歴史

[更新]2026年1月12日

火星アマゾニアン期に水環境か──祝融号の地中レーダーが明かす火星の新たな歴史 - innovaTopia - (イノベトピア)

中国科学院地質地球物理研究所の研究チームは、中国初の火星探査機・祝融号の観測データを分析し、火星表面が約7億5000万年前にも水の活動を示していたことを1月7日発見した。この研究はナショナル・サイエンス・レビュー誌に掲載された。

従来は火星が約30億年前に全球的な乾燥期に入ったと考えられていたが、今回の発見により水が数億年長く存在していたことが示された。祝融号は2021年5月に火星のユートピア平原南部に着陸し、2022年5月までに1921メートル移動した。高周波四偏波地中レーダー探査により、着陸地点の地下約4メートルの厚さの堆積層とセンチメートル規模の層状堆積物を検出した。

筆頭著者の劉毅克氏は、祝融号の着陸地点がアマゾニアン期の中期から後期に地表再形成イベントを経験し、この期間中も持続的な水の活動が存在していたと述べた。

From: 文献リンクChina’s Mars rover discovers longer water existence on red planet

【編集部解説】

今回の発見が持つ意義を理解するには、火星の地質学的な時代区分を知る必要があります。

火星の歴史は大きく3つの時代に分けられます。最古のノアキアン期(約41億〜37億年前)、続くヘスペリアン期(約37億〜30億年前)、そして現在まで続くアマゾニアン期(約30億年前〜現在)です。従来の学説では、火星は約30億年前のアマゾニアン期の開始とともに全球的な乾燥期に入り、以降は基本的に水のない惑星になったと考えられてきました。

しかし今回、祝融号の地中レーダーが明らかにしたのは、アマゾニアン期の中期から後期、つまり約7億5000万年前においても、まだ顕著な水の活動があったという事実です。これは火星の水の歴史に関する従来の理解を大きく更新する発見となります。

祝融号が使用した高周波四偏波地中レーダーは、火星の地下構造を約5センチメートルの垂直解像度で「CTスキャン」のように詳細に観察できる装置です。このレーダーが捉えたのは、地下約4メートル付近に分布する堆積層と、センチメートル規模の層状構造でした。

この発見が火星探査にもたらす影響は計り知れません。まず、生命の存在可能性を検討する時間的な窓が大きく広がりました。地球上で複雑な多細胞生物が出現し始めたのは約6億年前です。火星に7億5000万年前まで水が存在していたということは、地球の生命進化と重なる時期まで、火星に生命が存在できる環境があった可能性を示唆します。

また、将来の有人探査における資源利用の観点からも重要です。水は飲料水としてだけでなく、酸素や燃料の原料としても利用できます。比較的最近まで水が存在していた地域を特定できれば、氷として地下に残存している可能性も高まります。

ただし、慎重に検討すべき点もあります。今回の発見は祝融号の着陸地点であるユートピア平原南部という、限られた地域の観測結果です。火星全体で同様の状況だったかどうかは、さらなる探査が必要です。また、この時期の水の活動が持続的だったのか、それとも一時的な現象だったのかについても、まだ明確な答えは出ていません。

火星の気候史を理解することは、地球の将来を考える上でも重要な意味を持ちます。火星はかつて温暖で湿潤な環境を持っていましたが、磁場の喪失により大気が剥ぎ取られ、現在の寒冷で乾燥した惑星になったと考えられています。この変化のプロセスと時期を正確に理解することは、惑星規模の気候変動メカニズムを解明する上で不可欠です。

中国の火星探査ミッションである天問1号は、初回の試みで周回機、着陸機、探査機の3つすべてを成功させた史上初の例であり、アメリカに次いで2番目に火星表面での探査活動に成功した国となりました。祝融号はわずか1年余りの活動期間で1921メートルを移動し、今回のような重要な発見につながる豊富なデータを収集しました。

今後、この発見をさらに検証し、火星の水の歴史をより詳細に解明するためには、複数の地点での同様の調査が必要です。NASAの探査機パーサヴィアランスも同様の地中レーダーを搭載しており、異なる地域でのデータと比較することで、火星における水の活動の時空間的な分布が明らかになるでしょう。

【用語解説】

ユートピア平原(Utopia Planitia)
火星の北半球に広がる低地平原で、火星最大の衝突盆地の一つである。祝融号の着陸地点は、この平原の南部に位置する。

アマゾニアン期(Amazonian Period)
火星の地質学的時代区分における最も新しい時代で、約30億年前から現在まで続く。火星の歴史の約3分の2を占める長期間である。この時代は、衝突クレーターの形成率や地質活動が大幅に低下した、寒冷で乾燥した環境が特徴である。

ノアキアン期(Noachian Period)
火星の最古の地質時代で、約41億年前から37億年前まで続いた。大規模な隕石衝突と液体の水による侵食が活発だった時代である。

ヘスペリアン期(Hesperian Period)
火星の地質時代の中間期で、約37億年前から30億年前まで続いた。大規模な火山活動と洪水が特徴的な時代である。

高周波四偏波地中レーダー
祝融号に搭載された観測装置で、火星の地下構造を約5センチメートルの垂直解像度でスキャンできる。浅部を高い解像度で捉え、地下構造の詳細な断面画像を取得可能である。

劉毅克(Liu Yike)
中国科学院地質地球物理研究所の研究者で、今回の研究論文の筆頭著者かつ責任著者である。

天問1号(Tianwen-1)
中国国家航天局による火星探査ミッションの名称で、周回機、着陸機、探査機(祝融号)の3つで構成される。2020年7月に打ち上げられ、2021年5月に火星に着陸した。

【参考リンク】

中国国家航天局(CNSA)(外部)
中国の宇宙開発を統括する国家機関で、天問1号ミッションを実施した。

中国科学院地質地球物理研究所(外部)
地球システム科学を主要研究方向とし、今回の火星研究を主導した機関。

National Science Review(外部)
中国科学院支援のオープンアクセス学術誌。今回の研究を掲載した。

NASAパーサヴィアランス探査機(外部)
NASAの火星探査機で、祝融号と同様に地中レーダーを搭載している。

【参考記事】

China’s Mars rover discovers longer water existence on red planet(外部)
中国CGTNによる報道。地下約4メートルの堆積層発見を詳報。

Significant water activity existed on surface of Mars until approximately 750 million years ago(外部)
グローバル・タイムズ紙による詳細報道。クレーター年代学分析を解説。

Multipolarized radar reveals shallow subsurface structure(外部)
原著論文。劉毅克氏らによる多偏波レーダーデータの詳細分析結果。

China’s Zhurong Rover reveals Mars held liquid water longer(外部)
アナドル通信による報道。祝融号の移動距離と観測データを報じる。

【編集部後記】

今回の祝融号による発見は、火星探査史における重要なマイルストーンといえます。中国の宇宙開発プログラムが、単なる技術的成功にとどまらず、惑星科学の分野で世界をリードする科学的成果を上げ始めたことを示しています。

特に注目すべきは、この発見が火星の生命存在可能性について、私たちの想像力を刺激する新たな時間軸を提供したことです。7億5000万年前という時期は、地球では最初の複雑な多細胞生物が出現しようとしていた時代と重なります。もし火星にもその頃まで水が存在していたなら、生命が誕生し、進化する機会があったかもしれません。

今後、NASAのパーサヴィアランス、欧州宇宙機関の探査機、そして中国の次期火星探査ミッションなど、複数の探査機が火星の異なる地域でデータを収集することで、火星の水の歴史がより鮮明になっていくでしょう。人類が火星に降り立つ日も、そう遠くない未来に実現するかもしれません。その時、私たちは火星の古代の海や湖の痕跡を、自らの目で確かめることができるのです。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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