13.3インチのコンパクトな筐体が、目の前で16インチのワークスペースへと伸びていく——。LenovoがCES 2026で披露したThinkPad Rollable XD Conceptは、ローラブルディスプレイ技術により「持ち運びやすさ」と「作業領域の広さ」という二律背反を解消する。透明なGorilla Glassカバー越しに見える精密機構、そして背面にも現れるディスプレイ。これは単なるPCの進化ではなく、デバイスの物理的制約からの解放だ。
Lenovoは2026年1月6日、ラスベガスで開催されたCES 2026において、複数のAI対応デバイスのコンセプトを発表した。ThinkPad Rollable XD Conceptは13.3インチから約16インチに拡張可能なアウトフォールディングデバイスで、CorningとLenovoが共同開発した透明な180° Gorilla Glass Victus 2カバーを採用する。Project Kubitと呼ばれるLenovo Personal AI Hub Conceptは、NVIDIA GB10 Grace Blackwell Superchipを搭載した2台のThinkStation PGXコンパクトAIワークステーションを内蔵したパーソナルエッジクラウドデバイスである。
Lenovo AI Glasses Conceptは重量45g、最大8時間駆動し、Lenovo Qiraによるサブミリ秒のライブ翻訳機能を備える。その他、27インチUHDのLenovo Smart Sense Display ConceptやLegion Pro Rollable Proof-of-Conceptも展示された。
Lenovoは年間売上高690億米ドル、Fortune Global 500で196位にランクされている。
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Lenovo Reimagines “Concept” at CES 2026








【編集部解説】
Lenovoが今回CES 2026で披露した一連のコンセプトは、単なる新製品の展示ではなく、「パーソナルAI時代のデバイスエコシステム」という包括的なビジョンの提示です。従来のPC単体での進化ではなく、スマートグラスからエッジAIハブまで、複数のデバイスが連携して個人のAI体験を形成する未来像を描いています。
ThinkPad Rollable XD Conceptで注目すべきは、ディスプレイが上部で180度折り返す「アウトフォールディング構造」です。昨年商品化されたThinkBook Plus Gen 6 Rollableとは異なり、背面にもディスプレイが現れる設計により、閉じた状態でも情報表示やインタラクションが可能になります。ローラブルディスプレイ技術は、折りたたみ式と比較してヒンジ機構がない分、機械的な故障リスクが低いとされますが、繰り返しの巻き取り動作による耐久性には課題が残ります。研究によれば、柔軟性素材は10万回の折り曲げサイクル後に性能が最大30%低下する可能性が指摘されており、商品化に向けた材料工学の進展が鍵となるでしょう。
Project Kubitと呼ばれるPersonal AI Hub Conceptは、より興味深い提案といえます。NVIDIA GB10 Grace Blackwell Superchipを2基搭載し、1 petaflop(FP4精度)のAI演算性能と128GBのメモリを備えたこのデバイスは、家庭内に設置する「パーソナルエッジクラウド」として機能します。スマートフォン、PC、ウェアラブル、スマートホームデバイスから収集したデータをローカルで処理することで、クラウドに依存せず、プライバシーを保ちながら高度なAI分析を実現する構想です。
このアプローチは、2026年のエッジAI computing trendsと完全に合致しています。クラウドへのデータ送信による遅延やプライバシーリスクを回避しつつ、200億パラメータ規模のモデルを個人レベルで運用できる環境は、医療診断データや金融情報など、機密性の高い個人データを扱うユースケースで大きな価値を持ちます。ただし、140Wという消費電力や初期投資コストを考えると、一般家庭への普及には時間がかかる可能性があります。
AI Glasses Conceptは45gという軽量設計と8時間のバッテリー駆動を実現していますが、現時点では動作するプロトタイプではなく、あくまでビジョンを示すコンセプトである点に注意が必要です。サブミリ秒のライブ翻訳やインテリジェント画像認識といった機能は、ペアリングされたスマートフォンやPCのAI能力に依存するため、デバイス単体の性能というより、エコシステム全体での体験設計が重要になります。
これらのコンセプト群が示すのは、AIが特定のアプリケーションではなく、デバイス間を横断する「常時稼働する知的レイヤー」として機能する世界観です。実用化までの道のりは技術的・経済的ハードルが多いものの、Lenovoが年間売上高690億米ドル規模の企業として、こうした長期的ビジョンへの投資を継続している事実は、業界全体の方向性を示す重要なシグナルといえるでしょう。
【用語解説】
アウトフォールディング構造
ディスプレイが外側に向かって展開・拡張する折りたたみ機構。インフォールディング(内側に折りたたむ方式)とは異なり、閉じた状態でも背面にディスプレイが露出するため、デバイスを開かずに情報表示やインタラクションが可能になる。
ローラブルディスプレイ
巻き取り可能な柔軟性を持つディスプレイ技術。折りたたみ式ディスプレイと異なり、ヒンジ機構を必要とせず、画面サイズを連続的に変化させられる。有機ELなどのフレキシブル素材を使用し、筐体内部で画面を巻き取ることでコンパクトな収納と大画面表示を両立する。
エッジAI / パーソナルエッジクラウド
クラウドサーバーに依存せず、ユーザーの手元(エッジ)に配置されたデバイスでAI処理を実行する技術。データをクラウドに送信しないため、低遅延でプライバシー保護に優れる。パーソナルエッジクラウドは、個人が所有する複数のデバイス間でデータを統合・処理する家庭内AI基盤を指す。
petaflop (ペタフロップ)
コンピュータの演算性能を示す単位で、1秒間に1,000兆回(10の15乗)の浮動小数点演算を実行できる能力を表す。FP4精度は4ビット浮動小数点演算を意味し、AI推論において精度と速度のバランスを取った演算方式である。
サブミリ秒
1ミリ秒(1/1000秒)未満の時間単位。人間の知覚限界に近い応答速度を意味し、リアルタイム翻訳などで遅延を感じさせない体験を実現するために重要な指標となる。
【参考リンク】
NVIDIA Grace Blackwell製品情報(外部)
NVIDIA GB10搭載DGX Sparkの製品ページ。1 petaflop(FP4)のAI演算性能、128GBメモリ、140W消費電力などの技術仕様を紹介している。
Corning Gorilla Glass(外部)
Corning社が開発する耐久性の高いカバーガラス技術の公式サイト。Gorilla Glass Victus 2はローラブルデバイスの透明カバーとして採用されている。
【参考記事】
Nvidia details GB10 miniaturized Grace Blackwell superchips(外部)
NVIDIA GB10の技術仕様を詳述。1 petaflop(FP4精度)の演算性能、128GBのLPDDR5Xメモリ、140Wの消費電力など詳細を報じている。
Understanding the Challenges Associated with Flexible Screen Technology(外部)
フレキシブルディスプレイ技術の課題を分析。10万回の折り曲げサイクル後に性能が最大30%低下する可能性など耐久性の問題を指摘している。
Key edge AI trends transforming enterprise tech in 2026(外部)
2026年のエッジAIコンピューティングトレンドを概説。クラウド依存からの脱却、プライバシー保護、低遅延処理といった利点を分析している。
Lenovo’s joining the bandwagon with concept AI glasses(外部)
The Vergeによる現地取材記事。45gの軽量設計と8時間バッテリーを評価しつつ、現時点では動作プロトタイプではない点を指摘している。
NVIDIA’s new Mini PC with the GB10 Grace Blackwell Superchip(外部)
NVIDIA GB10搭載ミニPCの解説記事。200億パラメータ規模のAIモデルを個人レベルで運用できる性能と、医療・金融での活用可能性を示唆している。
【編集部後記】
スマートフォンやPCから収集されるデータを、クラウドではなく自宅のAIハブで処理する——。この発想は、私たちのデジタルライフにおける「データの主権」という根本的な問いを投げかけています。便利さとプライバシーのバランスは、今後どこに落ち着いていくのでしょうか。
みなさんは、自分の日常データをどこまでローカルで管理したいと感じますか?あるいは、画面が伸びるデバイスのような物理的な変化は、働き方にどんな影響を与えると思われますか?ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです。未来を一緒に想像していきましょう。

































