AppleとGoogleは2026年1月12日、AppleがGoogleのGemini AIモデルを使用してSiriを強化する複数年契約を締結したと発表した。今年後半にリリース予定の新しいSiriは、Geminiモデルとクラウドコンピューティング技術を基盤とする。Appleは2024年のWWDCでAI搭載Siriを予告していたが遅延しており、AI開発で他社に遅れているとの懸念があった。
この提携はAppleにとってリリース加速の機会となり、Googleにとっては最も広く使用されるAIモデルを目指す競争での大きな勝利となる。AppleはOpenAIのChatGPTとも提携しているが、今回の契約でGeminiが中心的な役割を担う。Bloombergによると、Appleは年間約10億ドルを支払う計画とされる。両社の株価は発表後に上昇し、Googleの時価総額は初めて4兆ドルに達した。
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Apple teams up with Google Gemini for AI-powered Siri
【編集部解説】
今回の提携で注目すべきは、Appleが採用するGeminiモデルが1.2兆パラメータという超大規模なものである点です。これはAppleが現在使用している1500億パラメータのモデルと比較して約8倍の規模となり、より複雑な推論や文脈理解が可能になります。パラメータ数はAIモデルの複雑さを示す指標であり、一般的に数が多いほど高度なタスクをこなせる傾向にあります。
この契約がもたらす最大の変化は、Appleのデバイスエコシステム全体におけるAI体験の質的向上でしょう。AppleはPrivate Cloud Computeと呼ばれる独自のクラウドシステムを構築しており、デバイス上で処理できない複雑なリクエストのみをApple Siliconを搭載した専用サーバーに送信します。Geminiモデルはこのインフラ上で動作するため、Googleのサーバーに直接データが送られることはなく、Appleのプライバシー基準が維持されます。
一方で、この提携はAppleの社内AI開発能力に関する疑問を投げかけています。同社は長年「垂直統合」を強みとしてきましたが、今回は中核技術を外部に依存する選択をしました。年間10億ドルという巨額の支払いは、自社開発の遅れを補うコストとも解釈できるでしょう。
Googleにとっては、iPhoneという巨大なプラットフォームへのアクセスを獲得したことで、Geminiの利用データと市場シェアの両方を大幅に拡大できます。2026年初頭の統計では、GeminiのAIチャットボット市場シェアは18.2%とChatGPTの68%に大きく後れを取っていましたが、Apple製品への統合により競争環境が一変する可能性があります。
ただし、AppleはすでにOpenAIとも提携してChatGPTを一部機能に統合しており、複数のAIプロバイダーを使い分ける「マルチベンダー戦略」を採用しています。これは一社への依存リスクを分散する賢明な判断である一方、ユーザー体験の一貫性や開発者向けAPIの複雑化といった課題も生じさせます。
長期的には、この提携がスマートフォンにおけるAIアシスタントの標準を再定義する契機となるかもしれません。Appleの発表後、Googleの時価総額は4兆ドルの大台に到達しており、市場はこの提携を両社にとって戦略的勝利と評価しています。
【用語解説】
Apple Intelligence
Appleが2024年に発表したAI機能の総称。デバイス上での処理とクラウド処理を組み合わせ、プライバシーを重視しながら高度なAI体験を提供する戦略を採用している。
Apple Foundation Models
Appleが開発する独自の基盤AIモデル群。今回の提携でGeminiを基盤技術として採用することで、より高度な機能実装を目指している。
Private Cloud Compute
Appleが構築した専用クラウドインフラ。デバイス上で処理できない複雑なAIタスクを、Apple Siliconを搭載した専用サーバーで処理することでプライバシーを保護する仕組み。
パラメータ
AIモデルの複雑さを示す指標で、学習可能な変数の数を表す。一般的にパラメータ数が多いほど高度なタスクをこなせるが、計算コストも増大する。
マルチベンダー戦略
複数の供給業者を使い分けることでリスクを分散し、各社の強みを活用する調達戦略。Appleは今回、GeminiとChatGPTの両方を採用することでこの戦略を実践している。
【参考リンク】
Apple Intelligence(外部)
Appleの公式AI戦略ページ。デバイス上での処理とPrivate Cloud Computeを組み合わせた、プライバシー重視のAI機能について詳しく解説している。
Google Gemini(外部)
GoogleのマルチモーダルAIモデルGeminiの公式サイト。様々なバージョンの情報や、APIへのアクセス方法が掲載されている。
Anthropic Claude(外部)
Anthropicが開発するAIアシスタントClaudeの公式サイト。安全性と信頼性を重視した設計思想や、企業向けソリューションについて紹介されている。
【参考記事】
Apple Nears $1 Billion-a Year Deal to Use Google AI for Siri(外部)
2025年11月のBloomberg報道。Appleが年間約10億ドルを支払い、1.2兆パラメータのGeminiモデルを採用する計画が初めて報じられた記事。
Apple confirms Google’s Gemini will power new Siri features(外部)
9to5Macによる正式発表の詳細報道。AppleとGoogleの共同声明全文や、複数年契約の詳細について解説している。
The $1 Billion Handshake: Why Apple’s Pivot to Google Gemini is the Enterprise Blueprint for 2026(外部)
今回の提携が企業向けAI戦略にもたらす影響を分析した記事。マルチベンダー戦略の利点について詳述している。
Apple Intelligence Proves On-Device AI is Superior to Cloud Competitors(外部)
Appleのデバイス上AI処理とクラウド処理のハイブリッドアプローチについて技術的に分析した記事。
AI Chatbot Market Share 2026 – ChatGPT vs Gemini(外部)
2026年初頭のAIチャットボット市場シェアを分析した記事。ChatGPTが64%、Geminiが18.2%のシェアを持つと報告。
Could Apple’s Gemini deal be the catalyst the stock needs?(外部)
Morningstarによる投資家視点での分析記事。AppleのAI戦略の遅れと今回の提携が株価に与える影響について論じている。
Apple’s genAI strategy: On-device processing, private cloud, own integration(外部)
Constellation Researchによる分析記事。Appleの生成AI戦略の全体像、デバイス上処理とプライベートクラウドの使い分けについて詳細に解説。
【編集部後記】
AppleとGoogleという長年のライバル関係にある両社が、年間10億ドル規模の契約でAI分野において深く結びつくことは、テクノロジー業界の地殻変動を象徴しています。Appleの垂直統合戦略の転換なのか、それとも最適な技術を柔軟に選ぶ新時代の始まりなのか。一方で、Geminiを中心に据えながらもChatGPTも併用するマルチベンダー戦略は、ユーザー体験をどう変えていくのでしょうか。プライバシー重視のApple独自インフラ上でGoogleのAIが動作する仕組みや、1.2兆パラメータという規模が日常の音声アシスタント体験にどこまで革新をもたらすのか、今年後半のリリースが待ち遠しいですね。


































