スマートフォンをポケットに入れたまま車に近づくだけで解錠、そのままエンジンを始動——SF映画のような体験が、2026年型トヨタRAV4で現実のものとなる。サムスンが発表したこのデジタルキー技術は、軍事レベルのセキュリティを備えながら、物理的な鍵という概念そのものを過去のものにしようとしている。
サムスンエレクトロニクスは2026年1月13日、サムスンウォレットが一部のトヨタ車両に対してデジタルキー互換性をサポートすると発表した。2026年1月から開始される。対応するサムスンギャラクシースマートフォンのユーザーは、2026年型トヨタRAV4のロック解除、施錠、エンジン始動が可能になる。ウルトラワイドバンド技術によるハンズフリーエントリーと近距離無線通信技術を利用する。
デジタルキーはサムスンノックスで保護され、EAL6+認証基準を満たす。ユーザーは信頼できる連絡先とデジタルキーを共有でき、いつでも更新または取り消しが可能である。紛失や盗難時にはサムスンファインドサービスでリモートロックまたは削除できる。今月から米国、カナダ、メキシコで展開を開始し、その後ヨーロッパ30カ国で展開される。
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Samsung Wallet Introduces Digital Key Access for Select Toyota Vehicles


【編集部解説】
今回のサムスンとトヨタの提携は、スマートフォンを自動車のキーとして利用するデジタルキー技術が、いよいよマスマーケットへ本格展開する象徴的な動きと言えます。トヨタRAV4は日本でも人気の高いSUVであり、これまでポルシェやメルセデス・ベンツといったプレミアムブランドが中心だったデジタルキー対応が、より身近な車種へと拡大しています。
技術的な核心はウルトラワイドバンド(UWB)にあります。この技術は光速を利用して端末と車両間の距離を正確に測定するため、リレーアタックと呼ばれる中継攻撃を防ぐことができます。従来のBluetooth接続では信号を中継して車両を不正に解錠される危険性がありましたが、UWBは物理的な距離を測定するため、こうした攻撃を根本的に無効化します。
セキュリティ面では、EAL6+認証という軍事レベルの基準を満たしている点が注目に値します。これはサイドチャネル攻撃などの高度な攻撃手法に対する耐性を評価する認証で、政府機関でも採用される水準です。デジタルキーはサムスンノックス内に格納され、クラウドには送信されません。
一方で、デジタルキーの普及には課題も存在します。スマートフォンのバッテリー切れ時のバックアップ手段、複数ユーザー間での鍵共有の管理、高齢者など技術に不慣れな層への配慮などが求められます。また、対応機種がハイエンドモデルに限られる点も、普及の障壁となる可能性があります。
今後はトヨタの他車種への展開も予定されており、自動車とスマートフォンの融合はさらに加速するでしょう。カーシェアリングサービスとの連携や、デジタルキーを活用した新しいモビリティサービスの登場も期待されます。
【用語解説】
ウルトラワイドバンド(UWB)
極めて広い周波数帯域を使用する無線通信技術である。光速を利用して端末間の距離を数センチメートル単位で正確に測定できるため、デジタルキーなどの位置情報が重要なアプリケーションに適している。Bluetoothよりも高精度な測距が可能で、セキュリティ性能も高い。
EAL6+認証
「Evaluation Assurance Level 6+」の略で、製品のセキュリティ強度を評価する国際基準であるコモンクライテリアの最高レベルである。サイドチャネル攻撃などの高度な攻撃手法に対する耐性を厳格に評価し、政府機関や軍事用途でも採用される水準の認証である。
リレーアタック
無線キーシステムの信号を中継して車両を不正に解錠する攻撃手法である。犯罪者が車両の近くと鍵の持ち主の近くに分かれて配置し、通信を中継することで、物理的な鍵がなくても車両を開けたりエンジンを始動させたりできる。UWB技術はこの攻撃を無効化する。
サイドチャネル攻撃
暗号化されたシステムに対し、消費電力や電磁波の放射、処理時間などの物理的な情報を解析して機密情報を盗み出す攻撃手法である。暗号アルゴリズム自体ではなく、その実装における物理的な特性を利用するため、高度な専門知識が必要とされる。
近距離無線通信(NFC)
数センチメートル程度の至近距離で動作する無線通信技術である。電子マネーや交通系ICカードなどに広く使われており、スマートフォンをかざすだけで通信が可能である。UWBに比べて通信距離は短いが、普及率が高く多くのデバイスで利用できる。
【参考リンク】
Samsung Wallet(サムスンウォレット)(外部)
サムスンが提供するデジタルウォレットアプリの公式サイト。クレジットカード、デジタルキー、パスなどを一元管理できる。
Samsung Knox(サムスンノックス)(外部)
サムスンのモバイルセキュリティプラットフォームの公式サイト。EAL6+を含む各種セキュリティ認証情報を掲載。
Car Connectivity Consortium(CCC)(外部)
自動車とスマートデバイスの接続規格を策定する業界団体。デジタルキーの標準化を推進している。
Toyota RAV4(トヨタ RAV4)(外部)
トヨタの新型RAV4に関する公式ニュースルーム。2025年12月に日本で発売された新世代ハイブリッドを紹介。
【参考記事】
Samsung Wallet adds remote digital key support for this Toyota SUV(外部)
サムスンウォレットのトヨタ対応について、メルセデス・ベンツやポルシェとの提携と比較しながら解説している。
All you need to know about Ultra Wideband tech(外部)
BMWによるUWB技術の解説記事。デジタルキーにおける仕組み、距離測定の正確性、セキュリティ面の優位性を説明。
Samsung Wallet Adds Digital Key Compatibility for Mercedes-Benz(外部)
2025年6月のメルセデス・ベンツとの提携を発表したプレスリリース。デジタルキー機能の展開戦略を理解できる。
Samsung Wallet Gets Porsche Digital Keys for Premium EVs(外部)
2025年12月のポルシェとの提携に関する記事。プレミアムから一般ブランドへの拡大の流れを示している。
【編集部後記】
スマートフォンが車のキーになる未来は、もうすぐそこまで来ています。皆さんは物理的な鍵を持ち歩く煩わしさから解放されたいと思ったことはありませんか。一方で、デジタル化によるセキュリティの不安や、バッテリー切れ時の対応など、気になる点もあるかもしれません。
この技術がカーシェアリングやレンタカー業界にどのような変化をもたらすのか、あるいは家族間での車の共有がどれほど便利になるのか。私たち編集部も皆さんと一緒に、モビリティの進化を見守っていきたいと思います。ぜひご意見やご感想をお聞かせください。


































