AIが生成した音楽の「どこから来たか」を特定する技術が、音楽業界の未来を変えようとしています。訴訟が相次いだAI音楽生成の世界で、クリエイターとAI企業を結ぶ新たなインフラが誕生しました。
Musical AIは1月13日、450万ドルの資金調達を完了したと発表した。ラウンドはHeavybitが主導し、BDCおよびBuild Venturesが参加した。
同社は、生成AI向けのアトリビューション(出力の由来の特定)と権利管理を統合したプラットフォームを提供する。AIが生成した音楽について、生成に寄与した入力ソースを追跡し、どのソースがどの程度影響したかを割合で解析できるとしている。CEO兼共同創業者はショーン・パワー(Sean Power)。パートナーにはPro Sound Effects、SourceAudio、Symphonic Distributionなどが名を連ねる。
導入事例として、AI企業のSoundBreakは、ライセンス済み作品を用いたモデル学習にMusical AIの仕組みを活用している。
Musical AIは、全ジャンル・地域を横断する2,000万曲超のライセンスカタログを掲げ、24社以上の権利者パートナーと提携している。
From:
Musical AI Raises $4.5M US to Expand its Proprietary AI Attribution Technology
【編集部解説】
このニュースは、生成AIと著作権の対立が新たな段階に入ったことを象徴する出来事です。Musical AIが提供するのは、単なるライセンス管理ではなく、AI生成物の「DNA鑑定」とも言える技術です。生成された音楽のどの部分がどの元データから影響を受けたのかを解析し、パーセンテージまで算出します。
この技術の重要性を理解するには、AI音楽業界が直面してきた法的混乱を振り返る必要があります。2024年6月、大手音楽レーベル(Sony、Universal、Warner)は、AI音楽生成企業のSunoとUdioを著作権侵害で提訴しました。訴訟では、これらの企業が許諾なく膨大な楽曲を学習に使用したと主張され、1曲あたり最大15万ドルの損害賠償が求められました。
しかし、わずか1年後の2025年11月、Warner Music GroupはSunoと和解し、正式なライセンス契約を締結しています。同時期にKLAYという企業も全メジャーレーベルとライセンス契約を結びました。つまり業界全体が「訴訟による排除」から「技術による共存」へと舵を切ったのです。
Musical AIの技術は、この転換を支える基盤インフラとなり得ます。権利者側は自分の作品がどこでどう使われているかを監視でき、不本意な使用は削除できます。一方、AI企業側は適法なデータにアクセスでき、使用実績に応じて権利者へ継続的に対価を支払えます。双方向の透明性が、対立を協調へと変える鍵になっています。
注目すべきは、同社が音楽だけでなく「すべてのメディア」への展開を視野に入れている点です。テキスト、画像、動画といった他の生成AIも同様の権利問題を抱えており、アトリビューション技術の需要は音楽業界をはるかに超えています。実際、ProRataという企業も2024年8月に類似技術を発表しており、Universal Musicと提携しています。
一方で、技術的課題も残されています。複数の元データが複雑に組み合わさった生成物において、どこまで正確に影響度を測定できるのか。また、アトリビューションの精度が報酬分配の公平性に直結するため、透明性の高い検証プロセスが求められます。
同社は2000万トラックのライセンスカタログと24のパートナーを獲得し、FairlyTrained.org認証も取得しています。EU AI法やカリフォルニア州AB 2013といった新しい規制にも準拠しており、法規制の強化を見越した戦略的な動きと言えるでしょう。
生成AIの進化が止まらない以上、クリエイターの権利を守りながらイノベーションを加速させる仕組みは不可欠です。Musical AIの取り組みは、AIが「人間の創造性を損なうもの」ではなく「豊かにするもの」になるための重要な一歩と言えます。
【用語解説】
アトリビューション技術
生成AIが出力した結果(音楽、画像、テキストなど)に対して、その生成に使用された元データやソースを特定・追跡する技術。どの学習データがどの程度影響を与えたかをパーセンテージで算出し、権利者への適切な報酬分配を可能にする。
EU AI法
欧州連合が制定したAIの開発・利用に関する包括的な規制法。AIシステムをリスクレベルに応じて分類し、透明性や説明責任を求める。生成AIに対しては学習データの開示義務などが含まれる。
カリフォルニア州AB 2013
カリフォルニア州が制定したAI生成コンテンツに関する法律。生成AIが著作権で保護されたコンテンツを使用する際の透明性と権利者への配慮を求める規制である。
【参考リンク】
Musical AI(外部)
生成AIのアトリビューション・権利管理プラットフォーム企業。特許出願中の技術でAI生成物の元データを特定し権利者報酬分配を実現
Heavybit(外部)
エンタープライズインフラ特化の初期段階ベンチャーキャピタル。2013年設立。今回のミュージカルAI資金調達を主導
FairlyTrained(外部)
AI開発における倫理的データ使用を認証する組織。学習データの適切ライセンスとクリエイター権利尊重を証明する認証を提供
Pro Sound Effects(外部)
プロフェッショナル向け音響効果ライブラリ提供企業。ミュージカルAIパートナーとしてライセンス音源データを生成AI企業へ提供
Symphonic Distribution(外部)
インディペンデントアーティスト向け音楽配信サービス。ミュージカルAIと提携し配信楽曲のAI学習権利管理とアトリビューションを実現
【参考記事】
Musical AI bags $4.5m in funding round to scale AI attribution tech(外部)
ミュージカルAIの資金調達と技術の詳細。権利者とAI企業双方へのメリットを具体的に解説している
Warner Music Group settles copyright case with Suno for licensed AI music(外部)
2025年11月のWarner Music GroupとSunoの和解報道。AI音楽業界の訴訟から協調への転換を象徴する事例
Music labels sue AI companies Suno, Udio for U.S. copyright infringement(外部)
2024年6月の大手レーベルによる訴訟の経緯。AI音楽生成をめぐる法的対立の背景を理解するための重要情報源
WARNER MUSIC GROUP SIGNS AI LICENSING DEAL WITH KLAY(外部)
2025年11月のWarner Music GroupとKLAYのライセンス契約。音楽業界全体のAI企業との協調路線転換を示す
【編集部後記】
AIが生み出した音楽を聴いて、心動かされた経験はありますか?その音楽が何から作られたのかを知りたくなったことはありませんか?
Musical AIのようなアトリビューション技術は、クリエイターの権利とAIイノベーションの両立を目指す試みです。完璧な解決策とは言えないかもしれませんが、対立ではなく共存への道を探る姿勢には、未来のヒントが隠されているように思います。


































