中国の民間航空宇宙企業GuoXing Aerospace Technologyは1月27日、広州で開催されたセミナーにおいて、AlibabaのQwen3大規模言語モデルを軌道上の衛星に展開したと発表した。これは汎用大規模AIモデルの宇宙配備として世界初となる。
成都を拠点とする同社の執行副社長Wang Yaboによると、2025年5月に打ち上げられた12基の宇宙コンピューティング衛星を使用し、地球から送信された質問を衛星上で処理して2分以内に結果を返すことに成功した。
同社は2035年までに2,800基の専門衛星ネットワークを構築する計画で、内訳は推論衛星2,400基と訓練衛星400基である。高度500~1,000キロメートルにレーザー衛星間リンクで接続し、100,000ペタフロップスの推論能力と1,000,000ペタフロップスの訓練能力を世界に提供することを目指す。第2・第3クラスターは2026年中に展開予定で、2030年までに1,000基のネットワーク完成を計画している。
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China’s tech firm deploys AI model in orbit, unveils massive space computing plan
【編集部解説】
宇宙でAIが動作する時代が到来しました。GuoXing Aerospaceによる今回の成功は、単なる技術的マイルストーンにとどまらず、地球上で急速に限界に達しつつあるコンピューティングリソースの新たな可能性を示すものです。
AlibabaのQwen3は、2025年4月にリリースされた最新の大規模言語モデルです。0.6Bから235Bパラメータまで多様なサイズがあり、119言語に対応し、Apache 2.0ライセンスで公開されています。特徴的なのは「思考モード」と「非思考モード」を切り替えられる機能で、複雑な推論が必要な場合と効率的な応答が必要な場合を使い分けることができます。このモデルが軌道上で完全に動作し、地球からの質問に2分以内で応答できたという事実は、宇宙ベースのAI処理の実用性を証明しています。
宇宙コンピューティングの最大の魅力は、地球上のデータセンターが直面する深刻な課題を回避できる点にあります。米国エネルギー省によれば、データセンターは2023年に米国の総電力消費の4.4%を占め、2028年には6.7%から12%に達する見込みです。AIの普及により、データセンターの電力需要は2030年までに倍増し、945TWhに達すると予測されています。地方自治体は、電力網への負担と冷却用水の消費を理由に新規データセンターの建設を拒否し始めています。
宇宙はこれらの制約から解放された環境を提供します。低軌道では太陽エネルギー密度が約1,361W/㎡で安定しており、大気減衰や昼夜サイクルの影響を受けません。軌道設計により、ほぼ継続的な太陽光を受けることが可能で、地球上の最良の太陽光地域と比較しても5倍以上の効率を実現できます。また、宇宙の真空は平均温度2.7K(-270.45℃)という環境であり、放射冷却によって地上データセンターの冷却に必要なエネルギー消費の約40%を削減できます。
しかし、宇宙コンピューティングには克服すべき技術的課題も多数存在します。最大の難関は放射線対策です。宇宙には高エネルギーの宇宙線や荷電粒子が充満しており、保護されていない集積回路にビット反転やラッチアップ、永久的な損傷を引き起こします。放射線硬化チップは信頼性を提供しますが、製造プロセスが民生用チップより数世代遅れており、性能とコストの両面で課題があります。宇宙で一般的に使用されるRAD5500プロセッサの性能は0.9GFlopsに過ぎず、地上で使用されるNVIDIA A100の156TFlopsと比較すると3〜4桁の性能差があります。
熱管理も重要な課題です。小規模な実証機であるStarcloud-1は60kgの衛星で約300Wの廃熱を処理できますが、大規模システムではラジエーターが主要な構成要素となります。ギガワット級の計算能力は同等の電力消費と廃熱を意味し、軽量で高効率な大規模展開可能な太陽電池アレイと放射ラジエーターの設計が必要です。
宇宙コンピューティングの競争も激化しています。2025年11月にはStarcloudがNVIDIA H100 GPUを搭載したStarcloud-1衛星を打ち上げ、12月にはGoogleのGemmaモデルを宇宙で初めて訓練することに成功しました。これは地上のデータセンターと同様のAI処理が宇宙で可能であることを実証しました。GoogleもProject Suncatcherを発表し、2027年までにTPU搭載衛星の実証ミッションを計画しています。SpaceXも軌道データセンターの構築を計画しており、Starlink V3衛星を活用した高速レーザーリンクによる軌道コンピューティングを提案しています。
GuoXing Aerospaceの野心的な計画は、2035年までに2,800基の衛星ネットワークを構築するというものです。推論衛星2,400基と訓練衛星400基を、高度500〜1,000キロメートルの太陽同期軌道、明け方から夕暮れの軌道、低傾斜軌道に配備します。レーザー衛星間リンクで高速データ転送を実現し、全世界に100,000ペタフロップスの推論能力と1,000,000ペタフロップスの訓練能力を提供することを目指しています。2026年中に第2・第3クラスターを展開し、2030年までに1,000基のネットワークを完成させる計画です。
この動きは、単なる技術革新ではなく、コンピューティングのパラダイムシフトを意味します。地球上のリソース制約から解放され、宇宙の無限のエネルギーと冷却能力を活用する新しい時代が始まろうとしています。ただし、打ち上げコストの削減、放射線耐性の向上、熱管理システムの開発など、克服すべき課題は山積しています。SpaceXのStarshipのような大型ロケットの実用化が鍵となるでしょう。
【用語解説】
大規模言語モデル(LLM)
膨大なテキストデータで訓練された深層学習モデルで、自然言語の理解と生成を行う。Qwen3は235Bパラメータまでのモデルを含み、思考モードと非思考モードを切り替えられる特徴を持つ。
太陽同期軌道(Sun-Synchronous Orbit)
地球の自転と同期して常に同じ地方時で地表を通過する軌道。衛星が常に同じ太陽光条件で地表を観測できるため、リモートセンシング衛星に広く使用される。
レーザー衛星間リンク(Laser Inter-Satellite Links)
衛星同士をレーザー光で接続し、高速データ通信を実現する技術。電波通信と比較して帯域幅が大きく、最大100Gbpsの通信速度を達成できる。
ペタフロップス(Petaflops)
コンピュータの処理性能を示す単位で、1秒間に1,000兆回(10^15回)の浮動小数点演算を実行できる能力を表す。
放射線硬化(Radiation Hardening)
宇宙の放射線環境に耐えられるように電子機器を設計・製造する技術。特殊な製造プロセスや回路設計により、高エネルギー粒子による損傷を防ぐ。
推論(Inference)
訓練済みのAIモデルを使用して新しいデータに対して予測や判断を行うプロセス。訓練と比較して計算量は少ないが、リアルタイム性が求められる。
訓練(Training)
大量のデータを使用してAIモデルのパラメータを最適化するプロセス。推論よりも遥かに多くの計算リソースを必要とする。
【参考リンク】
Qwen – Alibaba Cloud(外部)
Alibabaが開発する大規模言語モデルファミリー。119言語対応で思考モード搭載されている。
Starcloud(外部)
NVIDIA H100 GPUを搭載した宇宙データセンター衛星を開発する米国企業。
How Starcloud Is Bringing Data Centers to Outer Space – NVIDIA Blog(外部)
Starcloudの宇宙データセンタープロジェクトの詳細を解説するNVIDIA公式記事。
【参考記事】
China Launches World’s First Space-Based Computing Constellation(外部)
GuoXing Aerospaceが2025年5月に12基の衛星を打ち上げた詳細。各衛星は744TOPSの計算能力を持つ。
Nvidia-backed Starcloud trains first AI model in space(外部)
Starcloud-1がGoogleのGemmaモデルを宇宙で初めて訓練した歴史的成果について報告。
Orbital Data Centers: Space AI Infrastructure Guide 2025(外部)
宇宙データセンター市場の現状分析。
Space-Based Data Centers Could Power AI with Solar Energy—At a Cost(外部)
軌道データセンターの環境影響を分析。ロケット打ち上げを含めた総合的な排出量を検討。
Realities of Space-Based Compute(外部)
宇宙コンピューティングの技術的課題を詳細に分析した専門的レポート。
【編集部後記】
宇宙でAIが思考する時代が現実のものとなりました。地球上のデータセンターが電力や冷却水の制約に直面する中、無限の太陽エネルギーと真空という究極の冷却環境を持つ宇宙が、次世代のコンピューティングプラットフォームとして注目されています。GuoXingやStarcloud、Googleといった企業の挑戦は、まだ始まったばかりです。この技術が実用化されれば、私たちの生活やビジネスにどのような変化をもたらすでしょうか。宇宙コンピューティングの可能性について、皆さんはどのようにお考えですか。






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