2026年2月3日、富士通が中央省庁で実施したパブリックコメント業務の実証実験結果を発表しました。日本語特化型LLM「Takane」が約12万文字の意見を10分で分類・要約し、法令案との整合チェックでも8割超の精度を達成。国民の声を政策に反映させる重要な制度が、AIによって効率化される一方で、民主主義のプロセスにテクノロジーが入り込むことへの期待と懸念が交錯しています。
富士通株式会社は、大規模言語モデル「Takane」を活用したパブリックコメント業務の効率化に関する実証実験を、特定の中央省庁と協働で2025年中に実施した。実験では約12万文字のパブリックコメントデータを使用し、意見の賛否分類や要約を10分程度で自動化できることを確認した。
また、法令案と各意見の整合チェックでは、8割を超える意見について該当条項を正しく回答できた。同社は今回の成果をもとに、政策立案や法律制定プロセスに応用可能な生成AIサービスの開発に着手し、2026年度中の提供を目指す。
「Takane」は富士通がCohere Inc.と共同開発した大規模言語モデルである。
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パブリックコメント業務に大規模言語モデル「Takane」を活用し、中央省庁で業務効率化の実証実験を実施

【編集部解説】
パブリックコメント制度は、国民が政策形成に直接参加できる民主主義の重要な仕組みです。しかし現場では、数万件に及ぶ意見の分類・整理・法令案との照合といった膨大な作業が行政職員を圧迫し、十分な精査ができないまま形骸化している現状が指摘されてきました。
今回の実証実験で注目すべきは、富士通が2024年9月から提供を開始した「Takane」の実力が証明された点でしょう。このモデルはCohereの「Command R+」をベースに、富士通が日本語特化の技術を注ぎ込んで開発したもので、日本語言語理解ベンチマークJGLUEで世界最高記録を達成しています。
実験結果を見ると、約12万文字のパブリックコメントを10分で処理し、法令案との整合チェックでは8割を超える精度を確認しました。これは単なる時間短縮ではなく、職員が「分類作業」から「意見の本質的検討」へとリソースをシフトできることを意味します。
この取り組みはEBPM(証拠に基づく政策立案)の文脈でも重要です。客観的なデータである国民の意見を、AIが効率的に整理・分析することで、より透明性の高い政策立案プロセスが実現できる可能性があります。
一方で、行政分野へのAI導入には慎重な配慮も必要でしょう。AIの判断根拠が不透明な「ブラックボックス問題」や、アルゴリズムの偏りによる不公正な分類のリスクは常に存在します。特にパブリックコメントのように、国民の権利に直結する業務では、AIの判断をどこまで信頼し、どのように人間が最終チェックするのか、透明性と説明責任の確保が求められます。
富士通が2026年度中に提供予定の生成AIサービスは、パブリックコメントだけでなく、法制執務プロセス全般への応用を視野に入れています。AIワークフローの構築やAIエージェントの開発も計画されており、行政の意思決定プロセスそのものが大きく変革される時代が近づいていると言えるでしょう。
【用語解説】
Takane(タカネ)
富士通がCohere Inc.と共同開発した企業向け大規模言語モデル。Cohereの「Command R+」をベースに、富士通が日本語特化の追加学習とファインチューニングを施したもので、日本語言語理解ベンチマークJGLUEで世界最高記録を達成している。セキュアなプライベート環境での利用が可能で、機密性の高いデータを扱う業務にも対応できる。
パブリックコメント
行政機関が政策や法令を制定・改正する際に、事前に案を公表して広く国民や事業者から意見を募る手続き。正式には「意見公募手続」と呼ばれ、行政手続法に基づいて実施される。提出された意見は内容を検討し、必要に応じて政策に反映される。
EBPM(Evidence-Based Policy Making)
「証拠に基づく政策立案」の略称。政策の企画立案を、勘や経験則ではなく、統計データや実証研究などの客観的な証拠(エビデンス)に基づいて行う手法。政策効果の事前評価や事後検証を通じて、より効果的で透明性の高い行政運営を目指す。
JGLUE(Japanese General Language Understanding Evaluation)
日本語の言語理解能力を評価するためのベンチマーク。質問応答、含意関係認識、文分類など、複数のタスクで大規模言語モデルの日本語処理性能を測定する。英語圏のGLUEに相当する日本語版の評価基準である。
AIワークフロー
業務プロセスの各段階に、適切なAIモデルやツールを順序立てて組み込んだ一連の流れ。単一のAIで全てを処理するのではなく、タスクごとに最適化されたAIを連携させることで、複雑な業務全体の自動化・効率化を実現する仕組み。
AIエージェント
特定の目標に向けて自律的に判断し行動するAIシステム。人間の指示を受けて複数のタスクを実行したり、状況に応じて必要な情報を収集・分析したりする機能を持つ。行政分野では、法令調査や関係者調整などの複雑な業務支援への応用が期待されている。
【参考リンク】
富士通 – 大規模言語モデル「Takane」(外部)
富士通とCohereが共同開発した日本語特化型の企業向けLLM「Takane」の公式発表ページ。世界最高水準の日本語性能が特徴。
Cohere Inc. 公式サイト(外部)
カナダを拠点とするAI技術企業。エンタープライズ向け大規模言語モデルを開発し、富士通と「Takane」を共同開発。
デジタル庁 – 行政における生成AIの適切な利活用に向けた技術検証(外部)
デジタル庁が2023年度に実施した、行政分野での生成AI活用に関する技術検証の報告ページ。
【参考記事】
富士通×Cohere:最高峰の日本語AI「Takane」が提供開始(外部)
富士通とCohereの戦略的パートナーシップによって誕生した「Takane」の技術的特徴を解説した記事。
富士通、パブリックコメント業務に「Takane」を活用する実証実験を実施(外部)
今回の中央省庁での実証実験を報じたニュース記事。約12万文字のデータを10分で処理した成果を記載。
エビデンスに基づく政策立案の更なる推進 − EBPM × AI −(外部)
EBPMにおけるAI活用の可能性と課題を論じた資料。客観的データに基づく政策形成プロセスを解説。
第3回:自治体におけるAIガバナンスの要諦(外部)
行政分野へのAI導入における透明性、公平性、説明責任の確保について論じた記事。
日本のAI倫理指針とは?透明性・公平性・説明責任をわかりやすく解説(外部)
日本におけるAI倫理の基本原則を解説。特に行政や公共分野でのAI導入時の注意点を説明している。
【編集部後記】
パブリックコメント制度、皆さんは利用されたことがありますか?私たちの声が政策に届く貴重な仕組みですが、実は行政側の処理負担が大きく、十分に活かされていない現実もあります。
今回のAI活用は、この課題を解決する一歩かもしれません。一方で、国民の意見という極めて重要なデータをAIが判断することへの不安もあるでしょう。テクノロジーが民主主義のプロセスに入り込む時代、私たちはどんな透明性や説明責任を求めるべきでしょうか。ぜひ皆さんのご意見もお聞かせください。






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