advertisements

Fraunhofer FKIEのAIドローンが放射性廃棄物を数分で検出、オーストラリア事件の教訓から生まれた技術

[更新]2026年2月3日

Fraunhofer FKIEのAIドローンが放射性廃棄物を数分で検出、オーストラリア事件の教訓から生まれた技術

2026年2月1日、ドイツFraunhofer Institute for Communication, Information Processing and Ergonomics(FKIE)は、放射性廃棄物を数分で検出できるAI搭載ドローンとロボットの開発を発表した。従来は数日を要した捜索作業を劇的に短縮する技術として注目されている。

Fraunhofer FKIEの研究者は、放射性廃棄物を検出するAI搭載の自動ドローンとロボットを開発した。無人航空システム(UAS)と無人地上車両(UGW)にセンサーフュージョン、自動化、確率的探索アルゴリズムを組み合わせ、放射性源を数フィート以内に特定できる。

Bundeswehr Research Institute for Protective Technologies and CBRN Protection(WIS)が支援している。2023年にオーストラリアで長さ8ミリメートルのセシウム137カプセルがトラックから落下した際、当局は869マイル(1,400キロメートル)の高速道路を時速43マイル(70 km/h)で数日間捜索した。研究者のクラウディア・ベンダー氏は、UASを使用すればわずか数分で数メートル以内に検出できると述べた。

ドローンはガンマ線検出器、電気光学・赤外線カメラ、Intel NUCコンピューター、慣性計測装置、LTE通信モジュールを搭載している。地上ロボットには「クリック・アンド・グラスプ」システムと「ジャケットコントロール」機能があり、専門家でない要員も直感的に操作できる。

From: 文献リンクQuickly and Precisely Localizing Radioactive Material
アイキャッチや画像はFraunhofer 公式プレスリリースより引用

Das hochautomatisierte UAS hat neben einem Gammadetektor elektrooptische und Infrarotka-meras an Bord.

【編集部解説】

このニュースが示すのは、放射性物質検出における「時間との戦い」が根本的に変わろうとしている現実です。従来の人力による捜索では数日を要していた作業が、AI搭載ドローンによってわずか数分に短縮される可能性があります。

2023年のオーストラリア事件は、この技術の必要性を浮き彫りにしました。わずか8ミリメートルのセシウム137カプセルを見つけるために、1,400キロメートルの高速道路を時速70 km/hで走行しながら数日間かけて捜索する必要がありました。放射線は人間の五感では感知できず、探索チームは常に被曝リスクに晒されていたのです。

Fraunhofer FKIEが開発した二段階検出システムの革新性は、確率的アルゴリズムにあります。ドローンは最初に固定パターンで飛行してバックグラウンド放射線を測定し、異常を検知すると適応型捜索モードに移行します。リアルタイムでヒートマップと確率マップを生成しながら、最も可能性の高い位置へ自律的に収束していく仕組みです。

この技術が真価を発揮するのは、原子力発電所事故や放射性物質の不法投棄、テロ攻撃といった緊急事態でしょう。空中からの迅速な状況把握に続いて、地上ロボットが「クリック・アンド・グラスプ」システムで物質を回収できます。特筆すべきは「ジャケットコントロール」機能で、専門訓練を受けていない緊急対応要員でも直感的にロボットを操作できる点です。

一方で、この技術には慎重な運用が求められます。CBRNE(化学・生物・放射性物質・核・爆発物)検出システムは本来、防衛・安全保障分野の技術であり、軍事転用の懸念が常に付きまといます。Bundeswehr(ドイツ連邦軍)が研究支援している点も、民生利用と軍事利用の境界線が曖昧になりつつある現状を示しています。

さらに、自律的に放射性物質を「狩る」ドローンが普及すれば、プライバシーや監視社会化の問題も浮上するでしょう。ガンマ線検出器に加えて電気光学・赤外線カメラを搭載し、人や車両を検出してジオリファレンス付きマップに表示する機能は、本来の目的を超えた監視に利用される可能性があります。

長期的には、原子力施設の廃炉作業や放射性廃棄物の最終処分場管理において、この技術が不可欠なインフラになっていくはずです。人間が立ち入れない環境での作業を自律システムに委ねることで、被曝リスクをゼロに近づけられます。しかし同時に、こうした技術への過度な依存が人間の危機対応能力を低下させるリスクも認識しておく必要があるでしょう。

【用語解説】

UAS(無人航空システム)
Unmanned Aerial Systemの略。ドローン本体に加え、地上制御装置や通信システムなどを含む無人航空機の総合システムを指す。UAV(無人航空機)よりも広義の概念である。

UGW(無人地上車両)
Unmanned Ground Vehicleの略。人間が搭乗せず、遠隔操作または自律制御によって地上を移動するロボット車両。危険地帯での作業や偵察などに使用される。

セシウム137
核分裂によって生成される放射性同位体。半減期は約30年で、医療用や工業用の放射線源として使用されるが、強い放射線を放出するため厳重な管理が必要である。

ガンマ線検出器
放射性物質から放出されるガンマ線を検出する装置。放射線の種類や強度を測定し、放射性物質の位置特定や線量評価に使用される。

慣性計測装置(IMU)
Inertial Measurement Unitの略。加速度センサーとジャイロスコープを組み合わせて、物体の3次元空間における位置、速度、加速度、姿勢を測定する装置。

CBRNE
Chemical(化学)、Biological(生物)、Radiological(放射性物質)、Nuclear(核)、Explosive(爆発物)の頭文字。これらの脅威に対する防護や検出を専門とする分野を指す。

センサーフュージョン
複数の異なるセンサーからのデータを統合・融合し、単一のセンサーでは得られない高精度な情報を生成する技術。自律走行車やドローンなどで広く使用される。

確率的アルゴリズム
確率や統計的手法を用いて問題を解決するアルゴリズム。不確実性が高い状況下で最適解を効率的に探索する際に有効である。

ジャケットコントロール
Fraunhofer FKIEが開発した直感的なロボット制御機能。オペレーターの腕の動きをロボットアームが模倣することで、専門訓練を受けていない要員でも操作できる。

【参考リンク】

Fraunhofer Institute for Communication, Information Processing and Ergonomics (FKIE)(外部)
ドイツの応用研究機関Fraunhofer協会傘下の研究所。通信、情報処理、人間工学分野で防衛・安全保障技術を研究開発。

Fraunhofer FKIE プレスリリース(本件)(外部)
ドローン・ロボットによる放射性物質検出技術に関する公式プレスリリース。技術詳細や実証実験の結果を記載。

Intel NUC(外部)
Intelが開発する小型コンピューター。Next Unit of Computingの略で、省スペースながら高性能な処理能力を持つ。

【参考記事】

Western Australian radioactive capsule incident(外部)
2023年オーストラリアのセシウム137カプセル紛失事件の詳細。1,400km捜索の経緯と従来手法の限界を記録。

Cs-137 sealed source found in Western Australia(外部)
米国原子力学会によるオーストラリアセシウム137カプセル事件報道。捜索の困難さと従来手法の課題を詳述。

FREQUENTIS drone-based CBRN detection system advances European defence(外部)
欧州におけるドローンベースのCBRN検出システムの開発動向。類似技術の軍事・防衛分野での応用例。

【編集部後記】

放射性物質は目に見えず、匂いもしない。だからこそ、私たちはその脅威を過小評価しがちです。今回の技術は、オーストラリアで実際に起きた「針を干し草の山から探す」ような捜索を数分に短縮する可能性を示しています。

みなさんは、こうした自律システムが普及した未来をどう想像しますか?原子力施設の廃炉作業や、万が一の事故対応が劇的に安全になる一方で、軍事転用や監視技術としての側面も無視できません。便利さと引き換えに、私たちは何を受け入れ、何に警戒すべきなのか。一緒に考えていければと思います。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。