NASAのガリレオ探査機が1997年に収集したデータの再解析により、木星の衛星エウロパの表面でアンモニア含有化合物が初めて検出された。ガリレオ探査機は1995年から2003年の間、木星系を研究した。
Jet Propulsion Laboratory(南カリフォルニア)の研究者アル・エムランによる論文が、探査機の近赤外線マッピング分光計からのデータを再検証し、衛星の凍結した表面の亀裂付近でアンモニアの信号を発見した。アンモニアは窒素を含む分子であり、窒素は炭素、水素、酸素と同様に生命にとって必要な要素である。検出された場所は表面の亀裂や穴の近くで、地下海洋または浅い地下からの配置を示唆している。Europa Clipperミッションは2030年4月に木星系に到着予定である。
From:
NASA’s Galileo Mission Points to Ammonia at Europa, Recent Study Shows

【編集部解説】
今回の発見で最も注目すべきは、約30年前に収集されたデータから重要な発見が生まれたという点です。ガリレオ探査機が1997年にエウロパをフライバイした際に取得した近赤外線スペクトルデータを、最新の解析技術で再検証することで、当時は見過ごされていた微弱なアンモニアの吸収特性(波長2.2マイクロメートル)を特定できました。
この発見が示唆するのは、エウロパの地下海洋が比較的最近、地質学的な時間スケールで表面と交流している可能性があるということです。アンモニアは宇宙環境における木星の強力な放射線に晒されると、わずか100万年以内に分解されてしまいます。つまり、表面で検出されたアンモニア含有化合物は、ごく最近(宇宙の時間スケールで)地下から運ばれてきたものと考えられます。
検出された場所が表面の亀裂や穴の近くであったことも重要な手がかりとなっています。これらの地形は、地下からの物質が表面へ噴出する経路となっている可能性が高く、低温火山活動(クライオボルカニズム)の証拠と解釈されています。
アンモニアは単なる窒素源というだけでなく、水の凝固点を大幅に下げる「不凍液」としての役割も果たします。この性質により、氷の殻の下に液体の海洋を維持することが可能になり、生命が存在しうる環境の持続性が高まると考えられています。
エウロパの地下海洋は、地球の全海洋を合わせたよりも2倍以上の水を含むと推定されており、その化学組成を理解することは生命居住可能性を評価する上で極めて重要です。今回の発見により、エウロパの地下海洋が化学的に還元的で、高pH(アルカリ性)である可能性が示唆されました。
この発見は、2024年10月14日に打ち上げられ、2030年4月に木星系へ到着予定のEuropa Clipperミッションにとって、極めて価値の高いターゲット情報を提供することになります。Europa Clipperは49回のフライバイを予定しており、今回アンモニアが検出された領域を詳細に調査することで、地下海洋と表面の相互作用についてより詳しい知見が得られるでしょう。
なお、アンモニア含有物質は冥王星、カロン、天王星の衛星群、土星の衛星エンケラドゥスなど、太陽系外縁部の他の氷天体でも確認されていますが、エウロパでの検出は今回が初めてとなります。
【用語解説】
エウロパ(Europa)
木星の第2衛星。氷の殻に覆われた直径約3100キロメートルの天体で、その下に地球の全海洋の2倍以上の水を含むと推定される地下海洋が存在すると考えられている。生命が存在しうる環境を持つ可能性があることから、太陽系内で最も注目される天体の一つである。
アンモニア含有化合物(Ammonia-bearing compounds)
アンモニア(NH3)を含む化学物質の総称。本研究ではアンモニア水和物(NH3・H2O)や塩化アンモニウム(NH4Cl)が最も有力な候補とされている。窒素を含むため、生命に必要な分子の構成要素として重要である。
近赤外線マッピング分光計(Near-Infrared Mapping Spectrometer)
ガリレオ探査機に搭載された観測装置。略称はNIMS。近赤外線領域の波長で物質を分析し、その組成を特定することができる。今回のアンモニア検出では、波長2.2マイクロメートル付近の吸収特性が利用された。
フライバイ(Flyby)
探査機が天体の近傍を通過しながら観測を行う手法。軌道投入よりも放射線被曝を抑えられるため、木星系のような強力な放射線環境下での探査に適している。
クライオボルカニズム(Cryovolcanism)
低温火山活動。氷天体の内部から水や揮発性物質が表面へ噴出する現象。エウロパでは地下海洋からの物質が亀裂を通じて表面に到達する過程を指す。
pH
水溶液の酸性・アルカリ性の度合いを示す指標。7が中性で、7より大きいとアルカリ性(高pH)、小さいと酸性となる。エウロパの地下海洋は高pH(アルカリ性)である可能性が示唆されている。
カロン(Charon)
冥王星最大の衛星。表面にアンモニア含有物質が確認されており、低温火山活動の証拠と考えられている。
エンケラドゥス(Enceladus)
土星の第2衛星。南極付近から水蒸気とともに有機物を含む物質を噴出していることが確認されており、地下海洋の存在が示唆されている。アンモニア含有物質も検出されている。
【参考リンク】
NASA – Europa Clipper Mission(外部)
2024年10月14日に打ち上げられた探査機の詳細情報、ミッションの目的、搭載機器、到着までのスケジュールを掲載。
NASA – Galileo Mission(外部)
1995年から2003年まで木星系を探査したガリレオ探査機のミッションページ。エウロパの画像やデータを公開。
NASA Jet Propulsion Laboratory (JPL)(外部)
カリフォルニア工科大学が運営するNASAの研究機関。Europa Clipperミッションの開発を主導。
Detection of an NH3 Absorption Band at 2.2 μm on Europa(論文)(外部)
アル・エムラン研究者による今回の発見を報告した学術論文。Planetary Science Journal誌に掲載。
【参考記事】
Ammonia-Bearing Compounds Detected on Europa for First Time(外部)
波長2.20マイクロメートルでの吸収特性、アンモニア水和物と塩化アンモニウムの可能性について科学的視点から分析。
Detection of an NH3 Absorption Band at 2.2 μm on Europa(外部)
アル・エムラン研究者による原著論文。近赤外線マッピング分光計データの再解析手法とスペクトルモデリングを詳述。
NASA’s Galileo data reveal ammonia-bearing compounds on Jupiter’s moon Europa(外部)
アンモニアが放射線環境下で短期間しか存在できないこと、クライオボルカニズムによる物質輸送のメカニズムを解説。
NASA detects ammonia on Jupiter’s moon Europa(外部)
エウロパの地下海洋が地球の全海洋の2倍以上の水を含むこと、今回の発見の天文生物学的意義を強調している。
【編集部後記】
約30年前のデータから新たな発見が生まれるという事実に、私たちは科学探査の奥深さを感じています。もしかすると、過去のミッションで収集された膨大なデータの中に、まだ私たちが気づいていない重要な情報が眠っているのかもしれません。
2030年のEuropa Clipper到着まであと4年。みなさんは、エウロパの地下海洋で何が見つかると思いますか?そして、もし生命の痕跡が発見されたとしたら、私たち人類の宇宙観はどう変わるでしょうか。一緒に未来を見守っていきたいと思います。






がもたらす「アンテザード・ソサエティ」の衝撃-300x200.png)





























