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遺伝的制御要素の進化をAIが追跡—ハイデルベルク大学ら、ヒト小脳拡大のメカニズム解明

遺伝的制御要素の進化をAIが追跡—ハイデルベルク大学ら、ヒト小脳拡大のメカニズム解明

ハイデルベルク大学、Vlaams Instituut voor Biotechnologie、KU Leuvenの国際研究チームは、DNA配列から遺伝的制御要素の活動を予測できるAIモデルを開発した。

研究チームは、ヒト、ボノボ、マカク、マーモセット、マウス、オポッサムの6種における発達中の小脳の個々の細胞で制御要素の活動をマッピングし、機械学習モデルを訓練した。このAIモデルは240種の哺乳類における制御要素の活動を予測し、ヒトの調節プログラムの進化史を高解像度で再構築することに成功した。

研究チームはTHRB遺伝子付近に新しい制御要素を発見し、これがヒト小脳の進化的拡大に寄与した可能性があると結論付けた。研究はScience誌に掲載された。

共同筆頭著者はイオアニス・サロポウロス博士、マリ・セップ博士、山田哲也氏。

From: 文献リンクAI models retrace evolution of genetic control elements in the brain

【編集部解説】

今回の研究が注目される理由は、AIが「進化の謎」を解く新しい鍵となった点にあります。従来、遺伝的制御要素は急速に変化するため、その進化を追跡することが極めて困難でした。これは遺伝子そのものではなく、遺伝子の「スイッチ」を制御する領域であり、いつ、どこで遺伝子が働くかを決定する重要な役割を担っています。

この研究の革新性は、DNA配列だけから制御要素の活動を予測できるAIモデルを構築した点です。研究チームは6種の哺乳類から得た小脳の単一細胞レベルのデータを用いて機械学習モデルを訓練しました。その結果、このモデルは240種もの哺乳類における制御要素の活動を正確に予測できるようになりました。

特に興味深いのは、THRB遺伝子の事例です。この遺伝子自体はすべての脊椎動物に存在する古いものですが、ヒト系統では新しい制御要素が加わることで小脳幹細胞でも機能するようになりました。これは「古い遺伝子の再利用」という進化の重要なメカニズムを示しています。

この技術は、ヒトの脳がなぜ他の哺乳類と異なる発達を遂げたのかという根本的な問いに答える手がかりを提供します。小脳は運動制御だけでなく、認知、感情、言語にも関与する領域であり、その拡大はヒトの進化における重要な特徴の一つです。

将来的には、この手法が神経発達障害や脳疾患の理解にも応用される可能性があります。制御要素の異常が疾患にどう関わるかを解明できれば、新たな治療法の開発につながるでしょう。

【用語解説】

遺伝的制御要素
遺伝子のスイッチのような役割を果たすDNA配列。遺伝子そのものではなく、遺伝子がいつ、どこで、どの程度活性化するかを制御する領域を指す。エンハンサーやプロモーターなどが含まれ、生物の発生や進化において重要な役割を担う。

小脳
脳の後下部に位置する器官で、運動制御やバランス調整を主な機能とする。近年の研究では、認知機能、感情処理、言語機能にも関与することが明らかになっている。ヒトの進化過程で著しく拡大した脳領域の一つ。

THRB遺伝子
甲状腺ホルモン受容体βをコードする遺伝子。すべての脊椎動物に存在し、甲状腺ホルモンの働きを細胞内で仲介する。代謝調節や発達に重要な役割を果たす。

機械学習
コンピュータがデータからパターンや規則性を学習し、予測や判断を行う技術。人工知能の一分野であり、大量のデータを解析して未知のデータに対する推論を可能にする。

【参考リンク】

ハイデルベルク大学(Heidelberg University)(外部)
ドイツ最古の大学の一つで1386年設立。生命科学分野で世界的評価を受ける研究機関。

Science誌(外部)
米国科学振興協会が発行する世界最高峰の学術誌。査読済み高品質研究論文を掲載。

VIB(Vlaams Instituut voor Biotechnologie)(外部)
ベルギーのフランダース地方を拠点とするバイオテクノロジー研究機関。

KU Leuven(外部)
ベルギー最大かつ最古の大学で1425年設立。生命科学分野で高い評価を得る。

【参考記事】

Machine learning method illuminates fundamental aspects of evolution(外部)
カーネギーメロン大学のTACIT手法を紹介。エンハンサー予測を可能にする技術。

Evo—an AI-based model for deciphering and designing genetic sequences(外部)
Arc InstituteとStanfordが開発したEvoモデル。DNA配列の解読と設計が可能。

【編集部後記】

私たちの脳がなぜこれほど複雑になったのか、その謎をAIが解き明かし始めています。今回の研究は、遺伝子そのものではなく、遺伝子の「使い方」が進化の鍵だったことを示しています。同じ遺伝子でも、制御の仕方を変えるだけで新しい機能が生まれる。

この発見は、私たち人間の特別さが、何か特別な遺伝子を持っているからではなく、既存の遺伝子を巧みに再利用してきた結果なのかもしれないことを教えてくれます。AIと生物学の融合が、生命の設計図をどこまで読み解けるのか。これからの展開に注目していきたいですね。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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