2025年10月、Universal Music GroupがUdioとの著作権侵害訴訟を和解し、ライセンス契約を締結した。それから3ヶ月。メジャーレーベルとの法廷闘争に決着をつけたUdioが、次に手を結んだのはインディペンデント音楽を代表するMerlinだった。世界市場の15%を占める独立系勢力との画期的なパートナーシップにより、AI音楽生成の未来を巡る戦いは、新たな段階へと突入する。
Merlinは2026年1月20日、生成AIプラットフォーム「Udio」とのパートナーシップ締結を発表した。Merlinは世界の主要インディペンデントレーベルおよびディストリビューターのデジタルライセンスパートナーである。本提携により、Merlin会員の楽曲レパートリーをAIモデルの学習に利用するライセンス枠組みが構築される。
UdioはMerlin会員のライセンス済み楽曲を学習させた新しいAIモデルを開発する。この枠組みにはアーティストの権利を保護するガードレールが組み込まれ、権利者への公正な対価を保証する。Merlin CEOのチャーリー・レクストンは、権利者の許諾と正当な対価を基盤とした議論を重ねてきたと述べた。
Udio共同創業者兼CEOのアンドリュー・サンチェスは、インディペンデント・アーティストが作品の主導権を維持し、正当な対価が支払われる環境を確固たるものにすると表明した。
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Merlin ウディオ、独立系音楽向けAI推進で提携
【編集部解説】
このパートナーシップは、音楽業界とAI企業が法廷闘争から協調関係へと舵を切る転換点を示しています。Udoは2024年、全米レコード協会(RIAA)を通じてメジャーレーベルから著作権侵害で訴えられました。しかし2025年10月にユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)、11月にワーナー・ミュージックと和解し、ライセンス契約を締結。今回のMerlinとの提携により、メジャーとインディペンデント勢力の両方から正式な承認を得たことになります。
Merlinは世界の録音音楽市場の約15%を占める組織で、CD Baby、DistroKid、Beggars Group、Epitaphなど70カ国以上のインディペンデントレーベルやディストリビューターが加盟しています。つまり、この契約によってインディペンデントアーティストの楽曲が大量にAIトレーニングに利用可能となる道が開かれました。
ただし重要なのは、この契約が「オプトイン方式」である点です。Merlin加盟メンバーは自らの意思で契約に参加するかを選択でき、参加した場合のみ自社の楽曲がUdioのAIモデル学習に使用されます。これは強制的なライセンス供与ではなく、各レーベルやディストリビューターの判断に委ねられています。
しかし、透明性に関する懸念は残されています。最も議論を呼んでいるのは、レーベルがアーティストや演奏家から同意を得る必要があるのか、そしてライセンス収入がどのように個別楽曲に配分され、アーティストに分配されるのかという点です。メジャーレーベルは現時点で、AIが既存楽曲をリミックスしたり特定の歌手の声を模倣する場合にのみクリエイターの同意を求めると表明していますが、クリエイター団体は全てのAI利用において同意取得を求めています。
技術的な側面では、Udioが「人間の芸術性」を保護するガードレールを組み込むと強調している点が注目されます。具体的にどのような保護措置なのかは明らかにされていませんが、おそらく特定アーティストの声やスタイルを直接的に模倣することを防ぐ仕組みだと推測されます。
長期的な視点で見ると、この契約は音楽生成AIの持続可能なビジネスモデル構築に向けた実験とも言えます。学術研究では、AIが学習に使用した楽曲へのロイヤリティ配分モデルとして、SpotifyやYouTubeのContent IDに似た「アクセス頻度ベース」の分配システムが提案されています。つまり、AIが特定の楽曲を参照する頻度に応じて報酬を分配する仕組みです。
Udioは2024年のローンチから2週間で60万人のユーザーを獲得し、毎秒平均10曲が生成されていると報告されています。この規模でのライセンス料の分配がどのように実現されるのか、そしてインディペンデントアーティストに実質的な経済的利益をもたらせるのか。今後の展開が注目されます。
【用語解説】
インディペンデントレーベル
メジャーレコード会社(ユニバーサル、ソニー、ワーナー)に属さない独立系レコードレーベルのこと。アーティストの自主性を尊重し、小規模ながら独自性の高い音楽を世に送り出す役割を担う。
ディストリビューター
音楽配信プラットフォーム(SpotifyやApple Musicなど)にアーティストの楽曲を配信する代行業者。インディペンデントアーティストが大手配信サービスに楽曲を届けるための窓口となる。
オプトイン方式
参加を希望する者のみが自発的に同意して参加する仕組み。今回の契約では、Merlin加盟メンバーが自らの意思でAIトレーニングへの楽曲提供を選択できる。
RIAA(全米レコード協会)
Recording Industry Association of Americaの略。アメリカの音楽業界団体で、レコード会社の利益保護や著作権侵害対策を行う。
Content ID
YouTubeが提供する著作権管理システム。アップロードされた動画を自動的にスキャンし、著作権者が登録したコンテンツと照合して権利保護や収益化を実現する。
【参考リンク】
Merlin Network 公式サイト(外部)
世界のインディペンデント音楽を代表するデジタルライセンス機関で70カ国以上から加盟メンバーを擁する
Udio 公式サイト(外部)
テキストプロンプトから楽曲を生成できるAI音楽制作プラットフォームで2024年のローンチから急速に成長
【参考記事】
AI music creation platform Udio signs deal with indie label licensing body Merlin(外部)
オプトイン方式の詳細とアーティスト同意や収入分配の透明性に関する懸念を報じる記事
Udio strikes AI licensing deal with Merlin after UMG and Warner Music settlements(外部)
2025年のUMGとワーナーとの和解を経てMerlin契約に至る経緯を詳細に分析した記事
Merlin tells tech companies not to use its members’ music to train AI without authorization(外部)
2024年12月にMerlinがAI企業への無断利用警告を発した背景と組織規模を報じる
Udio: 600000 users and 10 generations per second(外部)
Udoがローンチ2週間で60万人ユーザー獲得と毎秒10曲生成という具体的数値データ
Merlin Music Distribution: A Comprehensive Guide for Independent Artists(外部)
CD BabyやDistroKidなどMerlin加盟メンバーの具体名と組織の影響力を詳述する記事
【編集部後記】
AIが音楽を生み出す時代、私たちはどんな未来を望むのでしょうか。技術の進化とクリエイターへの敬意、この2つは本当に両立できるのか。今回のMerlinとUdioの取り組みは、その答えを模索する一つの実験かもしれません。
もしあなたがアーティストなら、自分の作品がAIの学習に使われることをどう感じますか? もしリスナーなら、AIが生成した音楽にどんな価値を見出しますか? この問いに正解はありません。ただ、音楽の未来を決めるのは技術企業だけではなく、私たち一人ひとりの選択なのだと思います。






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