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スペインが16歳未満のSNS禁止へ、欧州で初――オーストラリアに続き世界で2カ国目

スペイン政府は2026年2月3日、ドバイで開催された世界政府サミットにおいて、来週から16歳未満に対するソーシャルメディアの利用禁止を承認すると発表した。ペドロ・サンチェス首相が明らかにしたもので、欧州では初めての措置となる。

オーストラリアが2025年12月にオンライン安全性改正法を施行し、MetaのInstagram、ByteDanceのTikTok、AlphabetのYouTube、Elon MuskのX、Redditなどに年齢確認措置の実装を義務付け、違反企業には最大4,950万オーストラリアドル(3,200万米ドル)の罰金が科せられた。スペインは同様の措置を導入し、プラットフォームに実効性のある年齢確認システムの実装を求める。

Metaは1月、オーストラリアで16歳未満と思われる55万のアカウントを削除したと発表し、一律禁止の再考を求めている。フランス国民議会は15歳未満、英国貴族院は16歳未満への制限法案をそれぞれ支持しており、欧州全体で規制強化の動きが加速している。

From: 文献リンクSpain becomes first country in Europe to ban social media for under-16s

【編集部解説】

スペインの今回の決定は、デジタル時代における子どもの保護をめぐる世界的な潮流の転換点です。2025年12月にオーストラリアが世界初の16歳未満ソーシャルメディア禁止を施行してから、わずか2ヶ月で欧州初の同様の措置が発表されました。この迅速な動きは、各国政府がソーシャルメディアの子どもへの影響を深刻な社会問題として認識し始めていることを示しています。

オーストラリアの施行状況を見ると、制度の実効性に関する課題が浮き彫りになっています。対象となったのはFacebook、Instagram、TikTok、X、YouTube、Snapchat、Reddit、Twitch、Kickの10プラットフォームで、違反企業には最大4,950万豪ドル(約3,200万米ドル)の罰金が科されます。興味深いのは、Discord、Roblox、WhatsApp、YouTube Kidsなどが除外されている点です。

Metaは施行後の1月に55万アカウントを削除したと発表しましたが、VPNを使った回避や代替プラットフォームへの移行といった問題も報告されています。世論調査では77%の国民が支持する一方で、実効性を信じているのはわずか25%という矛盾した結果も出ています。

スペインのサンチェス首相は「ソーシャルメディアは失敗国家と化した」と強い言葉で批判し、5つの措置を打ち出しました。16歳未満の利用禁止に加え、プラットフォーム幹部の刑事責任追及、アルゴリズム操作の犯罪化、「憎悪と分極化フットプリント」というシステムの開発などが含まれます。特に注目すべきは、年齢確認システムに「単なるチェックボックスではなく、実際に機能する真の障壁」を求めている点です。これはオーストラリアでの実装を踏まえた、より厳格な要件と言えるでしょう。

欧州では同様の動きが急速に広がっています。フランスは1月27日に国民議会で15歳未満向けの禁止法案を130対21で可決し、2026年9月の新学期までの施行を目指しています。マクロン大統領は「我々の子どもたちの感情は、アメリカのプラットフォームや中国のアルゴリズムによって売買されたり操作されたりするものではない」と述べ、国家主権の観点からも問題提起しています。

デンマークも15歳未満を対象とした同様の立法を進めており、2026年半ばまでに成立する可能性があります。英国貴族院も16歳未満への禁止を支持していますが、下院での承認が必要です。

サンチェス首相は「デジタルに意欲的な連合」として5カ国が協力していると述べています。これは欧州連合レベルでの規制強化への布石とも読み取れます。実際、フランスの法案はEUのデジタルサービス法に準拠する形で設計されており、2023年に一度は同法との抵触で頓挫した経緯があります。EU全体での「デジタル成人年齢」の統一も議論の俎上に上がっており、各国の個別対応が将来的にEU統一基準へと収斂していく可能性があります。

一方、テック企業側は強く反発しています。Metaは「一律の禁止は解決策ではない。ティーンエイジャーをオンラインコミュニティや情報から孤立させる一方で、多くのアプリにわたって一貫性のない保護しか提供しない」と主張し、親が子どもの利用するアプリを承認する仕組みを提案しています。Snapchatは「ティーンエイジャーを友人や家族から切り離すことは安全性を高めない。むしろ安全性が低く、プライバシー保護も不十分なメッセージアプリへと押しやる可能性がある」と警告しています。Redditはオーストラリアの法律に対して法的異議申し立てを行い、新法は効果がなく政治的議論を制限すると主張しています。

技術的な実装面では、年齢確認システムの精度とプライバシー保護の両立が最大の課題です。オーストラリアでは行動推論やデバイスデータなど複数の「シグナル」を使った年齢推定が行われていますが、一部の子どもたちが顔に髭を描いて年齢確認をすり抜けたという報道もあります。フランスでは既にポルノサイト向けに、国民IDカードと自撮りの提出、またはAIによる年齢推定という2つの方式が運用されていますが、これらをソーシャルメディアに適用する際のプライバシーへの影響が懸念されています。

この規制の波は欧州にとどまりません。マレーシア、ニュージーランド、インドネシア、ブラジルも同様の措置を検討中です。中国は2021年から未成年者のアプリ利用時間を制限しており、韓国もゲームの夜間利用制限を実施してきた実績があります。アジア太平洋地域でもこの動きが加速する可能性が高いでしょう。

しかし、この政策の有効性については専門家の間でも意見が分かれています。支持派は、サイバーいじめ、メンタルヘルスの問題、性的搾取からの保護を理由に挙げます。特にジョナサン・ハイトの『The Anxious Generation』は、スマートフォンとソーシャルメディアの使用が若者のメンタルヘルス危機を引き起こしているとして大きな影響を与えました。

一方で批判派は、表現の自由や情報アクセス権の侵害、プライバシー保護への懸念、親の責任を軽視する過度な政府介入を問題視しています。Amnesty Techは「子どもや若者をオンラインで保護する最も効果的な方法は、より良い規制、より強力なデータ保護法、より良いプラットフォーム設計を通じて、すべてのソーシャルメディアユーザーを保護することだ」と述べています。

LGBTQ+やニューロダイバージェントの若者、地方在住者など、オンラインコミュニティに依存している脆弱な層への影響も懸念されています。これらの若者にとって、ソーシャルメディアは同じ境遇の仲間とつながる貴重な場であり、一律の禁止は社会的孤立を深める可能性があります。

また「もぐらたたき」現象も指摘されています。規制対象プラットフォームから締め出された若者が、YopeやLemon8といった新興プラットフォームに移行し、そこでは安全対策が十分でない可能性があります。オーストラリアのeSafety Commissionerは規制対象リストを継続的に更新すると述べていますが、新しいサービスが次々と登場する中で、規制が常に後手に回るリスクがあります。

スペインの措置で特筆すべきは、プラットフォーム幹部の刑事責任を追及する点です。これはテック企業に対する「歯を見せる」姿勢を示したものと言えます。アイルランドのシモン・ハリス副首相も同様の強硬姿勢を示しており、アイルランドでは2018年にデジタル同意年齢を16歳に設定済みです。

今回の発表で明らかになったのは、政府の対応速度が急速に上がっているという点です。オーストラリアの施行からスペインの発表まで2ヶ月、フランスの国民議会通過も同時期という速さは、各国が「待ったなし」の状況と捉えていることを示しています。

しかし実装までの道のりは平坦ではありません。スペインのサンチェス政権は議会で多数派を持たず、法案通過には困難が予想されます。フランスも上院での承認が必要であり、英国も下院通過が必須です。さらに、年齢確認技術の開発、プライバシー保護との両立、VPN対策、代替プラットフォームへの対応など、技術的・実務的な課題は山積しています。

オーストラリアの経験は、この種の規制が「不完全」であることも示しています。アルバニージー首相自身が「完璧ではないだろう」と認めているように、100%の実効性を期待することは現実的ではありません。むしろこの規制の真の意義は、テック企業に対して「子どもの安全に対する社会的責任」を明確に課し、規制なき野放し状態を終わらせるというメッセージにあるのかもしれません。

2026年は、デジタル空間における子どもの権利保護が世界的な政策課題として本格化する年となるでしょう。スペインの決定は、その最前線に立つ試みとして、今後の展開が注目されます。

【用語解説】

オンライン安全性改正法(Online Safety Amendment Act)
オーストラリアで2024年11月に成立し、2025年12月10日に施行された世界初の未成年者向けソーシャルメディア規制法である。16歳未満のユーザーがアカウントを持つことを禁止し、プラットフォーム側に年齢確認措置の実装を義務付けている。違反企業には最大4,950万豪ドルの罰金が科される。

eSafety Commissioner
オーストラリアのオンライン安全規制を担当する独立機関である。ソーシャルメディア最低年齢制度の執行権限を持ち、対象プラットフォームの指定、合理的措置の基準策定、コンプライアンス監視を行う。Julie Inman Grant氏が現職コミッショナーを務めている。

年齢確認システム(Age Verification System)
ユーザーの年齢を確認するための技術的仕組みである。政府ID提出、自撮り写真によるAI推定、行動推論、デバイスデータ分析など複数の手法がある。プライバシー保護との両立が最大の技術的課題となっている。

デジタルサービス法(Digital Services Act, DSA)
EU域内のデジタルサービスプロバイダーに対する包括的な規制枠組みである。ユーザーの安全確保、透明性向上、違法コンテンツ対策などを定める。加盟国の個別規制はこの枠組みとの整合性が求められる。

Smartphone Free Childhood
英国を拠点とする草の根キャンペーン団体である。親に対して子どものスマートフォンとソーシャルメディアの使用を遅らせるよう促す活動を展開している。共同創設者のDaisy Greenwellは各国政府の規制強化を支持している。

【参考リンク】

eSafety Commissioner – Social media age restrictions(外部)
オーストラリア政府の独立機関。16歳未満向けソーシャルメディア規制の詳細情報を提供している。

Smartphone Free Childhood(外部)
英国の草の根キャンペーン。子どものスマートフォン使用を遅らせる運動を展開中。

European Commission – Digital Services Act(外部)
EUのデジタルサービス法に関する公式情報。加盟国規制との調和を図る枠組みを提供。

【参考記事】

Spain will ban social media for under-16s | CNN Business(外部)
スペインの16歳未満ソーシャルメディア禁止に関する報道。サンチェス首相の5つの措置を詳報。

Australia is trying to enforce the first teen social media ban | CNBC(外部)
オーストラリアの施行状況を詳報。年齢確認技術の課題やVPN回避問題を分析している。

Millions of Australian children just lost access to social media | CNN(外部)
規制開始日の様子を報道。各プラットフォームの対応やRoblox除外の理由などを詳述。

France passes bill to ban social media use by under-15s | RTÉ(外部)
フランス国民議会での法案可決を報道。130対21の投票結果と2026年9月施行目標を伝える。

Australia’s social media ban for kids under 16 goes into effect | ABC News(外部)
オーストラリアの規制施行に対する親や子どもの反応を取材。保護者の歓迎の声を報じる。

French MPs approve law seeking ban on social media for children below 15 | Al Jazeera(外部)
マクロン大統領の発言を引用。若者の暴力とソーシャルメディアの関連性を報告している。

Social media ban for children under 16 starts in Australia | NPR(外部)
オーストラリア施行日の詳細報道。年齢確認回避の事例やVPN使用への懸念を報じる。

【編集部後記】

スペインの決断は、私たちが「デジタルネイティブ」という言葉で片付けてきた問題の本質を突きつけています。子どもたちの脳の発達段階で、依存性の高いアルゴリズムに晒すことの是非――この問いに、世界は今、明確な答えを出し始めています。

一方で、技術的な実効性やプライバシー、孤立するリスクのある子どもたちへの配慮など、課題も山積しています。みなさんは、政府による一律規制と保護者の判断、どちらがデジタル時代の子どもを守る道だと考えますか。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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