昨年11月、キルギスが国家として金担保型ステーブルコインUSDKGを発行し、今年1月にはBinanceが金・銀のデリバティブ取引をUSDT決済で提供開始――金のデジタル化が加速する中、Tetherが放った次の一手は「物理とデジタルの完全統合」だった。230億ドルの金を保有する世界最大級の民間金保有企業が、1億5000万ドルを投じて60年の歴史を持つ貴金属インフラ企業Gold.comと戦略提携。金庫に眠る実物資産がブロックチェーン上で瞬時に流通する垂直統合エコシステムの構築が、いま始まろうとしている。
Gold.com, Inc.(NYSE: GOLD)は2026年2月5日、Tether(TPM, S.A. de C.V.)から1億5000万ドルの戦略的投資を受ける最終契約を締結したと発表した。Tetherは337万1000株の普通株式を1株あたり44.50ドルで取得する。
このうち約1億2500万ドル分は即座に購入され、残り約2500万ドル分は規制承認後に購入される。この価格は2026年2月4日時点のNYSEにおける10日間出来高加重平均株価から11.9%のディスカウントを表す。
Gold.comは調達資金のうち2000万ドルをTetherの金担保型ステーブルコインXAU₮に投資する。両社は追加の商業契約を締結する意向であり、Tetherは最低1億ドルの金リース契約をGold.comに提供し、Gold.comはTetherのステーブルコイン(USDTおよびUSAT)を決済手段として受け入れ、自社ウェブサイトでプロモーションする。
Tetherは取締役会メンバーを1名指名する権利を獲得する。
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Gold.com Announces $150 Million Strategic Investment from Tether
【編集部解説】
今回の投資は、単なる資本提携以上の意味を持っています。Tetherは2026年1月時点で約140トンの物理的な金を保有しており、その価値は230億ドルに達します。これは銀行や国家を除く最大級の民間金保有者としての地位を確立しています。
このような背景の中で、Gold.comへの投資は「物理的な金の調達・保管インフラ」と「ブロックチェーン上のデジタル資産」を統合する戦略の一環と言えます。Gold.comは1965年創業で、2025年12月にA-Mark Precious Metalsから社名変更してNYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場したばかりです。鋳造所との関係、空港隣接の物流センター、IRA承認済みの保管施設など、エンド・トゥ・エンドの貴金属インフラを持つ企業です。
注目すべきは相互投資の構造です。TetherがGold.comに1億5000万ドルを投資する一方、Gold.comは2000万ドルをTetherの金担保型ステーブルコインXAU₮に投資します。さらに最低1億ドルの金リース契約も予定されており、これは物理的な金とデジタル表現を循環させる仕組みと言えます。
XAU₮は1トークンが1トロイオンスの物理的な金に裏付けられており、スイスの金庫に保管されています。2020年のローンチ以来、時価総額ベースで最大の金担保型ステーブルコインとなっています。今回の提携により、Gold.comの調達・物流能力がXAU₮の透明性と信頼性を強化し、物理市場とデジタル市場の間をシームレスに移動できる環境が整います。
この動きは「RWA(Real World Assets)のトークン化」という大きなトレンドの一部です。BlackRockのラリー・フィンクCEOが「市場の次世代技術」と表現するように、伝統的な資産をブロックチェーン上でトークン化する動きは金融業界全体で加速しています。金、不動産、債券など、従来は流動性が低かった資産が、トークン化によって分割所有可能になり、24時間365日取引できる資産に変わります。
一方で、潜在的なリスクも存在します。金価格の変動がXAU₮の価値に直接影響するため、ドル担保型のUSDTに比べて短期的な価格安定性は劣ります。また、規制環境も流動的です。ステーブルコインに対する各国の規制姿勢は統一されておらず、特に金担保型は商品担保型ステーブルコインまたは資産参照トークン(ARTs)として分類され、管轄によって規制が異なります。
今回の取引では、Tetherが取締役会メンバーを1名指名する権利を得ており、戦略的な意思決定にも関与していくことが明確になっています。また、普通株式には90日間の転売制限が付いており、短期的な投機ではなく中長期的なパートナーシップを志向していることが読み取れます。
Gold.comのグレッグ・ロバーツCEOは「60年以上の遺産を基盤に、従来の地金を超えてデジタルゴールドとステーブルコインへとリーチを拡大する」と述べています。これは貴金属業界全体のデジタルトランスフォーメーションを象徴する動きと言えるでしょう。
物理的な価値保存手段としての金と、ブロックチェーンの効率性・透明性を組み合わせたハイブリッドモデルが、今後の金融インフラの標準になる可能性があります。この投資は、その未来への重要な一歩と位置づけられます。
【用語解説】
ステーブルコイン
価格の安定性を目的として設計された暗号資産。法定通貨や金などの資産に価値が裏付けられることで、ビットコインのような価格変動を抑える仕組みを持つ。決済手段やデジタル資産取引の媒介として広く使用されている。
XAU₮(XAUT)
Tetherが発行する金担保型ステーブルコイン。1トークンが1トロイオンスの物理的な金に裏付けられており、スイスの金庫に実物の金が保管されている。時価総額ベースで最大の金担保型ステーブルコインである。
NYSE(ニューヨーク証券取引所)
米国ニューヨークに所在する世界最大規模の証券取引所。時価総額ベースで世界一の取引所であり、多数の大企業が上場している。Gold.comは2025年12月にこの取引所に上場した。
金リース契約
金の所有者が一定期間、金を借り手に貸し出し、リース料を受け取る契約。借り手は物理的な金を調達せずに金を活用でき、貸し手は金の所有権を維持しながら収益を得られる仕組み。
トロイオンス
貴金属の重量単位として国際的に使用される計量単位。1トロイオンスは約31.1035グラムに相当する。金、銀、プラチナなどの取引で標準的に使用される。
RWA(Real World Assets)
実世界資産のこと。不動産、債券、商品、美術品など、物理的に存在する資産をブロックチェーン上でトークン化し、デジタル資産として取引可能にする概念。金融市場の次世代技術として注目されている。
トークン化
実世界の資産や権利をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現すること。資産の分割所有、24時間取引、透明性の向上などのメリットがある。従来は流動性が低かった資産の取引を効率化する技術として期待されている。
資産参照トークン(ARTs)
欧州などの規制当局が使用する分類で、複数の法定通貨や商品など、複数の資産を参照するステーブルコインを指す。金担保型ステーブルコインは管轄によってこのカテゴリーに分類される場合がある。
【参考リンク】
Gold.com(外部)
1965年創業の貴金属・コレクティブル総合プラットフォーム。JMBullion.comやStack’s Bowers Galleriesなどの旗艦ブランドを擁し、2025年12月にNYSEに上場した。
Tether(外部)
世界最大のドル担保型ステーブルコインUSDTと金担保型ステーブルコインXAUTの発行企業。230億ドル相当の物理的な金を保有する最大級の民間金保有者。
NYSE(ニューヨーク証券取引所)(外部)
1792年設立の世界最大規模の証券取引所。時価総額ベースで世界一の取引所であり、多数のグローバル企業が上場している。
BlackRock(外部)
世界最大の資産運用会社。CEOのラリー・フィンクは資産のトークン化を「市場の次世代技術」と位置づけ、RWA分野への投資を推進している。
【参考記事】
Tether Makes $150 Million Strategic Investment in Gold.com, Expanding Global Access to Tokenized and Physical Gold(外部)
Tether公式による投資発表。物理的な金とトークン化された金へのグローバルアクセスを拡大する戦略的投資であることを強調している。
Tether’s Gold Reserves Hit $23B, Becomes Largest Private Gold Holder Outside Governments(外部)
2026年1月27日時点で、Tetherの金保有量が約140トン、230億ドルに達し、銀行や国家を除く最大級の民間金保有者となったことを報じる。
Gold.com to Begin Trading on the New York Stock Exchange Under Ticker Symbol ‘GOLD’(外部)
Gold.comが2025年12月にA-Mark Precious Metalsから社名変更し、NYSE上場を果たした経緯を詳述。今回の投資の背景となる企業変革を説明している。
Tokenized real-world asset – Wikipedia(外部)
実世界資産のトークン化に関する包括的な説明。BlackRockのラリー・フィンクCEOの発言など、RWA市場の動向と今後の展望を解説している。
Gold-backed vs USD-backed stablecoins: Key differences(外部)
金担保型とドル担保型ステーブルコインの違いを解説。価格安定性、規制上の分類、リスク要因などの比較情報を提供している。
【編集部後記】
昨年11月にキルギスの金本位制2.0を、今年1月にBinanceの金デリバティブ取引を取り上げたとき、金のデジタル化はまだ「実験的な試み」に見えていました。しかし、わずか1ヶ月後に届いたこのニュースは、その認識を一変させます。
Tetherが選んだのは、単なる金融商品の提供でも、国家主導のプロジェクトでもなく、「鋳造所から保管、物流、小売まで」すべてを持つ物理インフラ企業への直接投資でした。デジタルと物理が別々に存在する時代から、両者が一つのエコシステムとして機能する時代へ――その転換点を、私たちはいま目撃しているのかもしれません。
みなさんにとって、金はどのような存在でしょうか?価値保存の手段として実物を持ちたいのか、それとも流動性を重視してデジタル化された金を選ぶのか。今回の提携は、その二者択一を迫らない新しい選択肢を示しているように感じます。この流れがどこへ向かうのか、引き続き一緒に追いかけていきたいと思います。






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