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ANLIFE、2月12日Steam配信開始。宮崎駿から「生命への侮辱」と批判された技術が10年の進化を経てリリース

[更新]2026年2月9日

ANLIFE、2月12日Steam配信開始。宮崎駿から「生命への侮辱」と批判された技術が10年の進化を経てリリース

日本の開発会社Attructureは、サンドボックス型生命シミュレーターゲーム「ANLIFE: Motion-Learning Life Evolution」を2月12日にSteamでリリースすることを発表した。同タイトルは2023年に発表されていた。

2016年に放送されたテレビ番組で、同社CEOの中村政義氏が人工知能を使った人工生命シミュレーション技術をジブリの宮崎駿監督に披露した際、宮崎監督から「生命への侮辱」と批判されたことで話題となった。

ANLIFEでは、物理エンジンで駆動するブロック状の生命体が、AI技術を用いた独自のアルゴリズムによってリアルタイムで動作を学習し、環境に適応して進化する。プレイヤーは神の視点から生命体を観察し、食物の量や隕石などを通じて進化に干渉できる。

同タイトルはTGS2024の「Sense of Wonder Night(SOWN)」のファイナリストに選出された。

From: 文献リンクDeveloper whose project was called “an insult to life itself” by Ghibli’s Hayao Miyazaki to launch “god simulator” game on February 12 – AUTOMATON WEST

【編集部解説】

このニュースの背景には、AI技術と生命倫理をめぐる10年越しの物語があります。2016年11月、NHKスペシャル「終わらない人 宮崎駿」で放送された一場面が、今日までインターネット上で繰り返し話題となってきました。

当時、ドワンゴの川上量生会長(現在はKADOKAWA取締役)が、Attructure代表の中村政義氏が開発した人工生命シミュレーション技術を宮崎監督に披露しました。AIが学習したグロテスクなゾンビ風キャラクターの動きを「気持ち悪い動き」として紹介したところ、宮崎監督は身体障害を持つ友人を思い出し、「極めてなにか生命に対する侮辱を感じます」と強い拒否反応を示したのです。

この出来事は単なる技術のプレゼン失敗ではなく、AI技術の本質的な課題を浮き彫りにしました。効率性や機能性を追求するAIと、生命の尊厳や痛みへの共感という人間的価値観との間に横たわる深い溝です。

10年の歳月を経て、中村氏はこの経験を糧に技術を洗練させてきました。今回リリースされるANLIFEは、当時のリアルな人間型モデルから、ブロック状の抽象的な生命体へとデザインを一新しています。これは単なる見た目の変更ではなく、「生命とは何か」という本質的な問いに焦点を当てる戦略的な選択と言えるでしょう。

ANLIFEが実現するのは、ダーウィンの進化論を実時間で観察できる壮大な実験です。物理エンジンとAI学習アルゴリズムを組み合わせることで、生命体は「餌に向かって移動する」という単純な原理のみから、歩行、這行、泳ぎ、飛行といった複雑な移動手段を自ら獲得していきます。プレイヤーは神の視点から食物の量や種類を調整し、時には隕石を降らせることで、進化の方向性に影響を与えることができます。

この技術が持つ教育的価値は計り知れません。進化論は教科書で学ぶだけでは実感が湧きにくい概念ですが、ANLIFEでは環境適応や自然選択のプロセスを目の当たりにできます。また、多様性が生態系の強靭性を高めることや、永遠の命を持つ生物が逆に進化を停滞させる可能性など、現実世界では検証困難な仮説を試すことも可能です。

一方で、このような「神の視点」でのシミュレーションは、新たな倫理的問題も提起します。デジタル空間における生命の創造と淘汰を娯楽化することの是非、AIが生成する「生命らしさ」と真の生命との境界線など、技術の進展とともに議論すべき課題は残されています。

この事例が示す「技術と倫理の対話」の重要性です。批判を受けた技術が消えるのではなく、対話を通じて洗練され、社会に受け入れられる形へと進化していく。これこそが、テクノロジーと人類が共に進化していく道筋なのかもしれません。

【用語解説】

物理エンジン
仮想空間内で物体の動きや衝突、重力などの物理法則を計算・再現するプログラム。ゲーム開発において、リアルな動きや挙動を実現するために使用される。ANLIFEでは、ブロック生命体の移動や環境との相互作用を物理的に正確にシミュレートするために活用されている。

自然選択
ダーウィンの進化論における中心概念。環境に適応した個体が生き残り、子孫を残す確率が高まることで、世代を重ねるごとに有利な形質が集団内に広がっていく現象。ANLIFEでは、餌に効率的に到達できる個体が生き残り繁殖することで、この原理が再現されている。

人工生命シミュレーション
コンピュータ上で生命の特性や進化のプロセスを模倣・再現する技術。生物学的な完全な再現ではなく、生命らしい振る舞いや進化のメカニズムをアルゴリズムとして実装することで、生命現象の本質を探求する研究分野でもある。

【参考リンク】

Attructure株式会社(外部)
人工生命シミュレーション技術を研究開発する日本のベンチャー企業。代表の中村政義氏が運営。

ANLIFE: Motion-Learning Life Evolution(Steam)(外部)
2026年2月12日リリース予定。物理エンジンで駆動する生命体の進化を観察できる。

東京ゲームショウ Sense of Wonder Night(外部)
革新的なアイデアを持つインディーゲームを発掘するイベント。ANLIFEは2024年のファイナリスト。

【参考動画】

【参考記事】

人工生命観察シム『ANLIFE』ついに2月12日発売へ – AUTOMATON(外部)
価格情報や開発経緯について詳しく解説。通常価格1600円、リリース後1週間は1280円。

宮崎駿が「生命に対する侮辱」と批判してから7年 – ITmedia(外部)
2023年発表時の記事。中村氏の開発経緯と原点回帰のコンセプトを報じている。

極めてなにか生命に対する侮辱を感じますとは – ニコニコ大百科(外部)
2016年のNHKスペシャルでの宮崎駿監督の発言について詳細に解説。やり取りの全文を掲載。

説明不足から起きた、宮崎駿監督の怒り – スタジオジブリ非公式ファンサイト(外部)
西村博之氏の考察を紹介。プレゼンテーションの失敗について分析している。 

【編集部後記】

技術が批判を受けたとき、開発者はどう向き合うべきか。ANLIFEのリリースは、その一つの答えを示しています。

2016年のNHKスペシャルで起きた出来事は、AI技術開発における重要な教訓を含んでいました。技術的な可能性だけでなく、それが人々にどう受け止められるかという視点の欠如です。中村氏は批判を受け止め、人間型からブロック状への抽象化という戦略的な転換を図りました。この選択により、生命そのものの模倣ではなく、生命の原理の探求という本質的なテーマが前面に出ています。

ANLIFEが提示する「観察型シミュレーション」というアプローチは、エンターテインメントとしての価値だけでなく、教育ツールとしての可能性も秘めています。進化生物学の概念を視覚化し、環境変化が種の適応に与える影響をリアルタイムで確認できる点は、従来の教科書的な学習では得られない体験です。

一方で、デジタル空間における「生命の創造と淘汰」を娯楽化することについては、引き続き議論の余地があります。ただし、技術と倫理の対話は、批判で終わるのではなく、より洗練された形への進化を促すプロセスであるべきでしょう。

2月12日のリリース後、このゲームがどのように受け入れられるのか。そして、AI技術と人間的価値観の共存について、どのような対話が生まれるのでしょうか。

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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