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British Antarctic Survey、AI氷山追跡システムを開発。断片の「家系図」で気候予測精度が向上

[更新]2026年2月9日

British Antarctic Survey、AI氷山追跡システムを開発。断片の「家系図」で気候予測精度が向上

British Antarctic Surveyの研究者たちは、氷山のライフサイクル全体を自動追跡できるAIシステムを開発した。このシステムは衛星画像を使用して個々の氷山を識別し、漂流を追跡する。大きな氷山が分裂した際には、散らばった断片を元の氷山まで遡り、詳細な「家系図」を再構築できる。

従来は少数の大きな氷山しか手動で追跡できず、小さな断片は追跡されないままだった。筆頭著者でBritish Antarctic Surveyの機械学習専門家であるベン・エバンスによれば、AIは氷山の幾何学的形状を分析し、デジタルジグソーパズルのように断片を照合する。このアプローチはPetermann Glacierやグリーンランド北西部の氷山で実証された。収集されたデータはUK Earth System Modelの一部であるNEMO ocean modelに組み込まれる予定である。この研究はUK Engineering and Physical Sciences Research Council、The Alan Turing Institute、British Antarctic SurveyのPolar Science for a Sustainable Planetプログラムが資金提供した。

From: 文献リンクAI tracks icebergs from birth to breakup to expose hidden climate effects

【編集部解説】

このAIシステムが埋める「盲点」は、気候科学における重大な課題でした。

従来、科学者たちは手作業で大型の氷山のみを追跡していましたが、分裂後に生じる無数の小さな断片は見失われていました。これらの断片がどこで融解し、どれだけの淡水を海洋に放出するかは、気候モデルにとって極めて重要な情報です。

淡水は塩水より軽く、海洋表面に留まります。この淡水の流入は海洋の成層構造を変化させ、深層水の形成を阻害します。大西洋の熱塩循環は、赤道の暖かい水を極地へ運び、冷たく塩分濃度の高い水を深海へ沈める仕組みで機能しています。この循環が乱れると、地域の気候パターンが劇的に変化する可能性があります。

研究チームが開発したAIは、衛星画像から氷山の幾何学的形状を分析し、「デジタルジグソーパズル」を解きます。氷山が分裂すると、AIは散らばった断片の形状を元の親氷山と照合し、各断片の移動と融解を追跡し続けるのです。

このデータはNEMO ocean modelに統合されます。NEMOは欧州のコンソーシアムが開発する最先端の海洋モデルフレームワークで、UK Earth System Modelの海洋成分として機能しています。氷山融解水の正確な分布データが加わることで、気候予測の精度が大きく向上します。

実際、スタンフォード大学の最近の研究では、現在の気候モデルが氷山融解水を適切に考慮していないことが、南極海の観測温度と予測温度のミスマッチの60%を説明できると示唆されています。気候モデルで使われる点粒子氷山モデルは「主に3.5 kmより小さい氷山」を対象するとしています。

気候科学以外の実用的な応用も期待されています。極地を航行する船舶にとって、危険な氷塊がどこから発生し、どう移動するかを予測できれば、航路を最適化してリスクを軽減できます。

地球温暖化により極地の氷損失は加速しています。このAIシステムは、変化する地球システムを理解し、より正確な気候予測を実現するための重要なツールとなるでしょう。

【用語解説】

機械学習
人工知能の一分野で、データからパターンを学習しタスクを実行するコンピューター技術。本研究では衛星画像から氷山の形状を認識し、断片を追跡するために使用されている。

衛星画像
地球観測衛星が宇宙から撮影した地表や海洋の画像。氷山の形状や位置を継続的に監視するために利用される。

Petermann Glacier
グリーンランド北西部に位置する氷河。本研究のAIシステムがテストされた実際の氷山の発生源の一つである。

NEMO ocean model
Nucleus for European Modelling of the Oceanの略称。欧州コンソーシアムが開発する最先端の海洋モデリングフレームワークで、海洋力学、熱力学、海氷をシミュレーションする。UK Earth System Modelの海洋成分として機能している。

熱塩循環
海水の温度と塩分濃度の違いによって駆動される大規模な海洋循環。赤道の暖かい水が極地へ運ばれ、冷たく塩分濃度の高い水が深海へ沈むことで循環が形成される。

深層水
海洋の深層部に存在する冷たく密度の高い水。極地で形成され、全球の海洋循環を駆動する重要な役割を果たす。

成層構造
海洋で密度の異なる水層が積み重なった構造。氷山の融解水は軽い淡水のため表層に留まり、この構造を変化させる。

【参考リンク】

British Antarctic Survey(外部)
英国の国立極地研究機関。南極で5つの研究ステーションを運営し、極地科学と気候変動研究を主導。

The Alan Turing Institute(外部)
英国のデータサイエンスとAIの国立研究機関。2015年設立。本研究に資金提供を行った。

UK Engineering and Physical Sciences Research Council(外部)
英国の工学・物理科学研究の主要資金提供機関。年間約8億ポンドを研究と教育に投資。

【参考記事】

Scientists use AI to track icebergs from birth to break up for the first time(外部)
British Antarctic Survey公式発表。AIシステムが氷山ライフサイクル全体を自動追跡する仕組みを詳説。

Melting ice, more rain drive Southern Ocean cooling(外部)
スタンフォード大学研究。氷山融解水の欠落が南極海の温度ミスマッチ60%を説明すると発見。

Giant iceberg meltwater increases upper-ocean stratification and vertical mixing(外部)
Nature Geoscience論文。巨大氷山の融解が海洋の成層構造と混合に及ぼす影響を実証。

【編集部後記】

氷山の「家系図」を作るという発想に、皆さんはどんな印象を持たれましたか。これまで見えなかった小さな断片たちの行方が可視化されることで、気候システムの理解が大きく変わろうとしています。

私たちが知らないところで、海の中では淡水と塩水が複雑に混ざり合い、地球規模の循環を形作っています。今回のようなAI技術が、そうした「見えないもの」を見えるようにしていく過程を、これからもご一緒に追いかけていければと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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