Andreessen Horowitz(a16z)は2026年2月9日、日本のShizuku AIのシードラウンドをリードしたことを発表した。Shizuku AIは、AIコンパニオンとキャラクターの開発に特化したAIラボとして米国で設立された。創業者の小平暁雄氏は、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得し、Meta、Luma AIでの勤務経験を持つ。
同社は、AIキャラクター「Shizuku」を中心に事業を展開している。Shizukuは多言語音声合成、会話AI、Discord、YouTube、Xといった複数プラットフォームでの展開を予定している。
小平 暁雄氏は、リアルタイム画像生成に関する研究論文StreamDiffusionの主著者であり、90fps以上での画像生成を実現した。この論文はICCV 2025で発表され、GitHubでのオープンソース実装は1万以上のスターを獲得している。
a16zのJustine Moore、Marco Mascorro、Martin Casadoの3名のパートナーが本投資に関与している。Shizuku AIは日本国内外で採用活動を行っている。
【編集部解説】
Andreessen Horowitzによる今回の投資は、日本のAI技術と文化的資産の独自性が、グローバルVCの評価軸においても高く評価され始めたことを示す象徴的な事例です。
a16zは2024年8月に初のアジア拠点を日本に設けるというニュースが報道されましたが、実際の日本関連企業への投資はこれが初めてとなります。これまでa16zが日本市場への本格的な投資を控えてきた背景には、日本のスタートアップエコシステムの成熟度や起業家のインセンティブ構造に関する懸念があったことが示唆されています。同ファンドの共同創業者Ben Horowitzは2023年のインタビューで、日本では優秀な人材が起業家になるための税制や規制の改善が必要だと指摘していました。
しかし、Shizuku AIは例外的に支援を受けることができました。その理由は明確です。創業者の小平暁雄氏は、カリフォルニア州でShizuku AIを設立しており、法人としては米国企業です。また、UC Berkeleyで博士号を取得し、Meta、Luma AIでの実務経験を持ち、シリコンバレーの技術コミュニティに深く統合されています。a16zが重視する「世界クラスの技術力」「実績ある研究開発能力」「既存コミュニティとの実証済みの関係性」という3つの要素を完全に満たしている点が、投資判断の決定打となったと考えられます。
AIコンパニオン市場は急速な成長を見せています。複数の市場調査会社のデータを総合すると、2026年時点での市場規模は約370億〜500億ドルと推定され、2035年までに5,500億〜9,700億ドルに達すると予測されています。年平均成長率は30〜36%と極めて高く、特にメンタルヘルスサポート、社会的交流、教育支援の分野での需要が牽引役となっています。
Shizuku AIの技術的優位性は、小平氏が主著者として発表したStreamDiffusionにあります。この研究はリアルタイム画像生成において90fps以上を達成し、従来手法の59.56倍の処理速度を実現しました。論文はコンピュータビジョン分野のトップカンファレンスであるICCV 2025で採択され、GitHubでのオープンソース実装は10,000以上のスターを獲得しています。この技術基盤があるからこそ、Shizukuはリアルタイムでの応答性と視覚的表現力を両立できるのです。
小平氏は2023年1月、UC Berkeley博士課程在籍中にAI VTuber「しずく」をYouTubeで開始しました。日本語と英語でのリアルタイム会話、歌唱、Live2Dアバターでの応答が可能なこのプロジェクトは、数十回の配信を通じて数千人のフォロワーコミュニティを構築しました。当初は趣味的なプロジェクトに見えましたが、実際にはAIコンパニオンの実証実験であり、ユーザーとの継続的な対話を通じてデータを収集し、技術を改善するためのプラットフォームでした。
現在のAIコンパニオンが直面する最大の課題は、魅力的で主体的な会話を生成するためのデータ不足です。多くのAIアシスタントは受動的な応答に留まり、ユーザーとの長期的な関係構築に失敗しています。Shizuku AIはこの問題に対し、複数プラットフォーム(Discord、YouTube、X)での展開とコミュニティ参加型の開発を通じて、継続的なフィードバックループを構築するアプローチを取っています。
小平氏の文化的背景も重要な要素です。彼は日本で育ち、ドラえもん、ロックマンエグゼ、初音ミクなど、人間とAIが共存する物語に囲まれて育ちました。初音ミクが世界的な現象となり、日本のキャラクターが言語と文化を超越できることを証明したのを目の当たりにし、AIが架空の関係性を現実のものにできると確信するに至りました。この深い文化的理解と技術的能力の組み合わせは、単なる機能的なAIアシスタントではなく、人々が真に愛着を持てるキャラクターを創造する基盤となっています。
将来的なリスクとしては、AIコンパニオンの倫理的課題があります。ユーザーデータのプライバシー保護、AI依存症の懸念、特に若年層への影響などが指摘されています。2025年のCommon Sense Mediaの調査によれば、米国の10代の72%がAIコンパニオンと交流した経験があり、そのうち24%が個人情報を共有したことが報告されています。Shizuku AIは、こうした課題に対する透明性の高いデータ管理とユーザー保護の仕組みを構築する必要があります。
a16zの投資は、AIエージェント時代における日本文化の独自性と技術力の融合が、グローバル市場で競争優位性を持つことを示しています。Shizuku AIの成功は、日本のクリエイターや起業家にとって、文化的資産を活かした技術開発の可能性を示す重要な先例となるでしょう。
【用語解説】
StreamDiffusion
リアルタイム画像生成を可能にする拡散モデルのパイプライン技術。従来の逐次的なノイズ除去プロセスをバッチ処理に変換することで、90fps以上の高速生成を実現する。小平氏がUC Berkeleyで主著者として発表し、ICCV 2025で採択された。
ICCV(International Conference on Computer Vision)
コンピュータビジョン分野における世界最高峰の国際学会の一つ。採択率は20〜30%程度と非常に厳しく、採択されることは研究の質の高さを示す重要な指標となる。
Live2D
2Dイラストに立体的な動きを与える日本発のアニメーション技術。VTuberやゲームキャラクターの表現に広く使用されており、静止画に複数のパラメータを設定することで滑らかな動作を実現する。
VTuber(バーチャルYouTuber)
2D・3Dのアバターを使用して配信活動を行うコンテンツクリエイター。モーションキャプチャ技術により、配信者の動きをリアルタイムでアバターに反映させる。日本発の文化として世界的に広がっている。
シードラウンド
スタートアップ企業が事業の初期段階で行う資金調達。製品開発や市場検証のための資金を得ることが主な目的で、通常は数百万ドル規模となる。
fps(frames per second)
1秒間に処理・表示できるフレーム数を示す単位。数値が高いほど滑らかな動画や画像生成が可能となる。リアルタイム処理では30fps以上が求められ、90fps以上は非常に高速な部類に入る。
【参考リンク】
Andreessen Horowitz(a16z) (外部)
シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルファーム。2009年設立。AI、ヘルスケア、フィンテック、Web3など幅広い分野に投資し、運用資産額は460億ドル超。
Shizuku AI公式サイト(外部)
AIコンパニオンとキャラクター開発に特化した日本のAIラボ。創業者小平氏により設立され、a16zがシードラウンドをリード。
StreamDiffusion GitHubリポジトリ (外部)
リアルタイム画像生成のためのオープンソースプロジェクト。10,000以上のスターを獲得し、研究コミュニティで広く活用されている。
UC Berkeley(外部)
カリフォルニア大学バークレー校。世界トップクラスの公立研究大学で、コンピュータサイエンス、工学分野で特に高い評価を得ている。
Meta(旧Facebook) (外部)
ソーシャルメディアとメタバース技術を手がける米国の大手テクノロジー企業。AI研究にも積極的に投資している。
Luma AI (外部)
3D生成AI技術を開発するスタートアップ企業。NeRF(Neural Radiance Fields)技術を活用した高品質な3Dコンテンツ生成を提供。
【参考記事】
Investing in Shizuku AI
Andreessen Horowitzによる公式投資発表。小平氏のShizuku AI設立の経緯、StreamDiffusionの技術的成果、AIコンパニオン市場への取り組み、a16zがシードラウンドをリードした理由について詳述。
Andreessen Horowitz backs AI virtual character in 1st Japan-related bet
日経アジアによる報道。a16zにとって初の日本関連投資案件であることを報じ、カリフォルニア拠点のスタートアップであることを明記。
Andreessen Horowitz to open Japan office for funding startups
2024年8月の報道。a16zが初のアジア拠点として東京オフィス開設を計画していることを報じ、日本市場への関心の高まりを示す。
AI Companion Market Size to Hit USD 552.49 Billion by 2035
AIコンパニオン市場の詳細分析。2025年の市場規模372億ドルから2035年には5,525億ドルへ成長、年平均成長率31%と予測。用途別ではメンタルヘルスサポートと社会的交流が主要セグメント。
StreamDiffusion: A Pipeline-level Solution for Real-time Interactive Generation
ICCV 2025での論文公開ページ。StreamDiffusionの技術詳細、90fps以上のリアルタイム画像生成、従来手法比59.56倍の処理速度向上について記載。
Japan needs to do more to boost entrepreneurship: Ben Horowitz
2023年のインタビュー記事。a16z共同創業者Ben Horowitzが、日本のスタートアップエコシステムにおける税制・規制改革の必要性について言及。
【参考動画】
しずくAI VTuber公式チャンネル
小平氏が2023年1月に開始したAI VTuber「しずく」の公式YouTubeチャンネル。日本語と英語でのリアルタイム会話、歌唱、Live2Dアバターでの応答を実際に確認できる。Shizuku AIの技術的な実証実験の場として機能し、数千人のコミュニティを形成している。
【編集部後記】
AIコンパニオンは、かつてSF作品が描いた未来を現実のものにしつつあります。Shizuku AIの挑戦は、技術的な革新だけでなく、キャラクターとユーザーの関係性そのものを再定義しようとする試みです。皆さんは、AIとどのような関係を築きたいと考えますか。便利な道具としてでしょうか、それとも対話を通じて成長する存在としてでしょうか。この問いは、私たち自身がテクノロジーとどう向き合うかを映し出しているのかもしれません。







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