Ethereum共同創設者のヴィタリック・ブテリンは2026年2月、暗号資産アナリストのc-nodeとの公開討論で、DeFiはカウンターパーティリスクを除去する場合にのみ意味があると主張した。
ブテリンは、AaveやCompoundなどのプロトコルにUSDCを預ける行為について、USDCがCircleによって発行されアドレスを凍結できるため、カウンターパーティリスクは除去されないと指摘した。一方で、ETH担保による過剰担保型アルゴリズミック・ステーブルコインは真のDeFiとして認定されるとした。
MakerDAOのDAIは過剰な暗号資産担保に対してミントされるため、USDCベースの貸付よりもこのモデルに適合すると述べた。
ブテリンは将来的に、計算単位としてのドルへの焦点を減らし、分散型担保に裏付けられた多様化されたオンチェーン・インデックスの使用を目指すとした。
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Vitalik Buterin: DeFi Is Only Real When Counterparty Risk Is Removed
【編集部解説】
今回のヴィタリック・ブテリンの発言は、DeFi業界が抱える根本的な矛盾を鋭く突いています。まず「カウンターパーティリスク」とは、取引相手が契約上の義務を果たせない、あるいは履行しないリスクを指します。従来の金融では銀行や証券会社がこのリスクの中心にいましたが、DeFiはこれをスマートコントラクトによって排除することを目指してきました。
ところが現実には、多くのDeFiプロトコルがUSDCのような中央集権的なステーブルコインに依存しており、Circleは法執行機関の要請に応じてアドレスを凍結する権限を持っています。実際、2023年から2025年の間にCircleは109百万ドル相当のUSDCを372のアドレスでブラックリスト化しました。この凍結機能はUSDCのスマートコントラクト内に組み込まれており、いつでも発動可能です。
ブテリンが指摘する「真のDeFi」とは、こうした単一障害点(Single Point of Failure)を持たないシステムを指します。MakerDAOのDAIは、ユーザーがETHなどの暗号資産を担保として預け、その価値の150%以上を担保として要求する仕組みです。2026年2月時点でDAIの供給量は約84億ドルに達しており、担保率は平均155%を維持しています。
この過剰担保型の設計では、リスクの源泉が「発行者の判断」ではなく「担保価格の変動」に移行します。価格が下落すれば自動的に清算が実行されますが、これはオンチェーンで透明に行われ、誰かの恣意的な判断が介在する余地はありません。
ただし、アルゴリズミック・ステーブルコインにも課題があります。資本効率の低さ(150%以上の担保が必要)、極端な市場変動時の安定性維持の難しさなどです。それでもブテリンがこの方向性を支持するのは、「信頼の最小化」というDeFiの本質的な価値を守るためです。
この議論が今重要なのは、DeFi業界が成熟期に入りつつあるからです。規制当局との対話が進む中で、「規制準拠」を優先するあまり「分散性」を失ってしまっては本末転倒になります。ブテリンの発言は、業界に対する警鐘であると同時に、真に分散化されたインフラへの投資を促すメッセージでもあります。
将来的には、ドルという単位そのものから脱却し、複数の分散型資産に裏付けられたオンチェーン・インデックスを使用する世界を構想しています。これは単なる技術的改良ではなく、金融システムの信頼構造そのものを再設計する試みと言えるでしょう。
【用語解説】
DeFi(分散型金融)
Decentralized Financeの略称。ブロックチェーン技術を用いて、銀行などの中央管理者を介さずに金融サービスを提供する仕組みである。スマートコントラクトによって自動的に取引が実行される。
カウンターパーティリスク
取引相手が契約上の義務を履行できない、または履行しないリスクを指す。従来の金融では銀行や証券会社の破綻リスクがこれに該当し、DeFiはこのリスクの除去を目指している。
セルフカストディ
暗号資産を取引所などの第三者に預けず、自分自身で管理すること。秘密鍵を自分で保管し、資金の完全なコントロールを保持する。
TradFi(従来型金融)
Traditional Financeの略称。銀行、証券会社、保険会社などの既存の金融システムを指す。中央集権的な管理体制と規制の下で運営される。
アルゴリズミック・ステーブルコイン
アルゴリズムとスマートコントラクトによって価格の安定を維持するステーブルコイン。法定通貨や実物資産ではなく、暗号資産を担保として発行される。
過剰担保
借入額や発行額を上回る価値の資産を担保として預けること。DeFiでは一般的に150%以上の担保率が要求され、価格変動リスクに対する安全マージンとなる。
清算
担保価値が一定の閾値を下回った際に、自動的に担保を売却して債務を回収するプロセス。DeFiではスマートコントラクトによって透明かつ自動的に実行される。
オンチェーン
ブロックチェーン上で記録・実行される取引や処理を指す。全ての履歴が公開台帳に記録され、透明性と検証可能性が確保される。
【参考リンク】
Ethereum公式サイト(外部)
分散型アプリケーション構築のためのブロックチェーンプラットフォーム。スマートコントラクト機能を持ち、DeFiエコシステムの中核を担う。
Circle(USDC発行元)(外部)
米ドルに連動するステーブルコインUSDCを発行する企業。規制に準拠した運営を行い、法執行機関の要請に応じてアドレスの凍結機能を持つ。
MakerDAO(外部)
分散型自律組織であり、過剰担保型ステーブルコインDAIを発行。暗号資産を担保として受け入れ、アルゴリズムによって価格安定を維持する。
Aave(外部)
分散型貸付プロトコル。ユーザーは暗号資産を預けて利息を得たり、担保を提供して借入を行える。マルチチェーンDeFiプラットフォーム。
Compound(外部)
自律的な利息レートプロトコル。アルゴリズムによって需給に基づいた金利が設定される。暗号資産を預けることで利息を獲得できる。
【参考記事】
Vitalik Buterin Says Most DeFi Is a Lie—Here’s What Really Counts(外部)
ヴィタリック・ブテリンがDeFiの本質について語った内容を報じている。多くのDeFi製品が分散化されているように見えて、実際には中央集権的な要素を含んでいるという指摘を詳述。
Vitalik Buterin: DeFi Is Only Real When Counterparty Risk Is Removed(外部)
ブテリンとc-nodeの公開討論の詳細を報じている。USDC担保の問題点と、ETH担保型アルゴリズミック・ステーブルコインが真のDeFiとして認定される理由を解説。
MakerDAO Statistics 2026: Unmasking the Numbers Now(外部)
2026年2月時点でのMakerDAOの統計データを提供。DAIの供給量が約84億ドルに達し、担保率が平均155%を維持していることなど具体的な数値データを掲載。
Stablecoin Freezes 2023–2025: Data Analysis of USDT vs USDC(外部)
2023年から2025年の間にCircleが109百万ドル相当のUSDCを372のアドレスでブラックリスト化したというデータを提供。ステーブルコインの凍結機能に関する実態を数値で示している。
What Is “Counterparty Risk” and How Does DeFi Collateralization Mitigate It?(外部)
カウンターパーティリスクの定義と、DeFiの担保システムがどのようにこのリスクを軽減するかを解説。過剰担保型の仕組みと清算プロセスについて詳述している。
【編集部後記】
皆さんが普段使っているDeFiサービスは、本当に「分散化」されているでしょうか。私自身も改めて考えさせられました。利回りの高さやUIの使いやすさに目を奪われがちですが、ブテリンの指摘する「カウンターパーティリスクの有無」という視点で見直すと、また違った景色が見えてくるかもしれません。
AaveやCompoundにUSDCを預けている方、MakerDAOでDAIをミントしている方、それぞれのリスクプロファイルはどう違うのか。一度立ち止まって考えてみる価値があると思います。皆さんはどのようにお考えでしょうか。







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