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緊急対応ドローンKnighthawk 2.0、DJI依存脱却でグローバル展開─Paladinの戦略転換

[更新]2026年2月12日

緊急対応ドローンKnighthawk 2.0、DJI依存脱却でグローバル展開──Paladinの戦略転換

米国テキサス州ヒューストンを拠点とするPaladinは、自律型NDAA準拠ドローンKnighthawk 2.0を発表した。Drone as a First Responder(DFR)技術を基盤とし、現場到達時間は70秒、飛行時間は40分以上を実現する。4K Wide、Zoom、640pサーマルカメラを搭載し、5G/LTE(セルラー)接続により、従来の短距離無線に比べて広域での運用を想定している。

米国、インド、ポルトガルで展開され、ポルトガルのドローンメーカーBeyond Visionと提携し、NATO準拠の完全自律UAVシステムの専門知識を組み合わせている。PaladinのCEOディヴヤディティヤ・シュリヴァスタヴァは、世界中の都市に70秒未満の緊急対応時間を提供すると述べた。World Defense Show(WDS)のHall 1、Booth N32で展示される。

From: 文献リンクPaladin Unveils Knighthawk 2.0: Advancing Public Safety Infrastructure and Emergency Response Worldwide

PARADIN公式BLOGより引用

【編集部解説】

Paladinが発表したKnighthawk 2.0は、単なる新製品発表以上の意味を持つ戦略的な転換点として捉えるべきです。このドローンが体現するのは、公共安全における緊急対応システムの根本的な再設計と、地政学的な制約が技術開発を駆動する現代的な構図です。

まず、DFR(Drone as First Responder)という概念について理解する必要があります。これは、911通報を受けた瞬間に自律的にドローンが発進し、警察官や消防士よりも先に現場に到達して状況把握を行うシステムです。2018年にカリフォルニア州チュラビスタ警察が先駆けとなり、現在では全米で急速に普及しています。人間の到着を待つ従来の対応では10分程度かかるところを、ドローンは1〜2分で現場上空に到達できます。この時間差が、人命救助や犯罪抑止において決定的な差を生み出します。

Knighthawk 2.0の70秒という到達時間は、この文脈で理解すべき数字です。緊急事態において、最初の数分間は「ゴールデンタイム」と呼ばれ、介入の成否を分けます。火災であれば延焼範囲、交通事故であれば救命処置の可否、犯罪現場であれば容疑者の逃走可能性が、すべてこの時間内に決まります。ドローンが提供する俯瞰映像とサーマルカメラによる熱画像は、指揮官が適切な資源配分と戦術を判断するための「戦場の霧」を晴らす役割を果たします。

しかし、この発表で見逃せないのはNDAA準拠という要件です。NDAA(国防権限法)は米国の国防予算を定める法律ですが、近年は中国製技術の排除条項が盛り込まれています。2025年12月22日、FCCは外国製ドローンとそのコンポーネントをCovered List(懸念リスト)に追加しました。これにより、市場シェアの大半を占めるDJI製ドローンは、新モデルのFCC認証が事実上不可能となり、公共機関での使用が大幅に制限される状況が生まれています。

Paladinはもともと、DJI製ドローンに独自のLTE通信モジュールを装着して運用してきた企業です。しかし、規制環境の変化を見越し、ポルトガルのBeyond Visionと提携してNATO準拠の完全自律システムを開発しました。この戦略転換は、単なる規制対応ではなく、国際市場への展開を見据えた動きと解釈できます。インド、ポルトガル、そしてサウジアラビアのWorld Defense Showでの発表という流れは、同社が米国内の公共安全市場から、国際的な安全保障インフラ市場へと視野を広げていることを示しています。

一方で、DFRシステムには構造的な課題も存在します。最大の懸念はプライバシーです。常時展開可能なドローン網は、理論的には都市全域を24時間監視できるインフラとなり得ます。実際、複数の自治体でDFRプログラムの導入時にコミュニティからプライバシー侵害への懸念が表明されています。

競合環境も激化しています。SkydioはX10とR10を組み合わせたDFRソリューションを展開し、BRINCはLemur 2で屋内侵入能力を提供しています。Axonは自社のボディカメラや証拠管理システムとの統合を武器にDFR市場に参入しました。さらに、FlockやDroneSenseといった企業も独自のソフトウェアプラットフォームで差別化を図っています。この市場では、ハードウェア性能だけでなく、CAD(コンピューター支援配車)システムとの統合、証拠管理ワークフローの効率性、FAA規制への適合支援といった総合的なエコシステムが競争優位を決定します。

日本の読者にとって、このニュースは二つの示唆を持ちます。第一に、緊急対応システムの自律化という世界的潮流です。日本でも消防や警察によるドローン活用は始まっていますが、DFRのような常時待機型の自律システムはまだ実証段階です。災害対応先進国として、こうした技術をどう社会実装するかは重要な政策課題となるでしょう。第二に、地政学と技術開発の相互作用です。NDAA準拠という要件が新たな市場を創出し、技術革新を促進している構図は、半導体や通信インフラと同様のパターンです。技術の優劣だけでなく、サプライチェーンの信頼性が競争力を左右する時代において、日本企業の立ち位置を再考する契機となるかもしれません。

Knighthawk 2.0は、公共安全というミッションクリティカルな領域において、技術が社会の安心基盤をどう再構築できるかを問う存在です。同時に、その実現には規制、倫理、地政学といった複雑な要因が絡み合っており、純粋な技術論だけでは語れない時代の複雑さを映し出しています。

【用語解説】

DFR(Drone as First Responder)
911通報を受けた瞬間に自律的にドローンが発進し、警察官や消防士よりも先に現場に到達して状況把握を行うシステム。2018年にカリフォルニア州チュラビスタ警察が先駆けとなった。従来の人的対応では10分程度かかるところを、ドローンは1〜2分で現場上空に到達できる。

NDAA準拠
National Defense Authorization Act(国防権限法)の要件に適合していることを示す。米国の国防予算を定める法律で、近年は中国製技術の排除条項が盛り込まれている。公共機関での調達において、サプライチェーンの安全性が確認された製品のみが使用可能となる。

Covered List
FCCが作成する、国家安全保障上のリスクがあると判断された通信・監視機器メーカーのリスト。このリストに掲載された企業の製品は、新規のFCC認証を取得できず、事実上米国市場から締め出される。2025年12月22日に外国製ドローンとそのコンポーネントが追加された。

NATO準拠
北大西洋条約機構が定める技術標準やセキュリティ要件に適合していること。加盟国間での装備品の相互運用性や、サプライチェーンの信頼性を保証する基準として機能する。

CAD(コンピューター支援配車)
Computer-Aided Dispatchの略。通報を受けた際に、最適な車両や人員を自動的に配車するシステム。DFRシステムはこのCADと統合され、通報と同時にドローンが自動発進する仕組みとなっている。

サーマルカメラ
赤外線を検知して熱分布を可視化するカメラ。夜間や煙の中でも人や動物の体温を検知できるため、捜索救助や火災対応に不可欠。Knighthawk 2.0は640pの解像度を持つサーマルセンサーを搭載している。

5G/LTE
第5世代移動通信システムおよび第4世代のLTE(Long Term Evolution)。ドローンの遠隔操作や映像伝送に使用される。従来の無線周波数では0.5マイルが限界だったが、LTE接続により3〜5マイル以上の無制限範囲での運用が可能となる。

【参考リンク】

Paladin Drones 公式サイト(外部)
米国ヒューストン拠点のDFRソリューション提供企業。Knighthawkドローンと管制ソフトウェアWatchtowerを開発。

Beyond Vision 公式サイト(外部)
ポルトガルのドローンメーカー。NATO準拠の完全自律UAVシステムの専門知識を持つ。

DJI 公式サイト(外部)
中国深センに本社を置く世界最大のドローンメーカー。米国では規制強化の対象となっている。

Skydio 公式サイト(外部)
米国カリフォルニア州に本社を置くドローンメーカー。NDAA準拠のX10とR10を提供。

BRINC Drones 公式サイト(外部)
米国ワシントン州の公共安全専門ドローンメーカー。全米50州700以上の機関が使用。

Axon 公式サイト(外部)
ボディカメラや証拠管理システムで知られる公共安全技術企業。DFR市場に参入。

FCC(米国連邦通信委員会)公式サイト(外部)
米国の通信規制を担当する独立政府機関。Covered Listの作成・更新を行う。

【参考記事】

Paladin Launches NDAA-compliant Knighthawk 2.0 At World Defense Show(外部)
PaladinがDJI依存から脱却し、NDAA準拠のKnighthawk 2.0をサウジアラビアで発表した戦略転換を分析。

Houston’s Paladin Launches Knighthawk 2.0 Public Safety Drone(外部)
ヒューストンのスタートアップPaladinの沿革と、Knighthawk 2.0の技術仕様を詳述。

FCC Adds Foreign-Made Drones to Covered List(外部)
2025年12月22日、FCCが外国製ドローンをCovered Listに追加。新規モデルの認証が不可能に。

Paladin Unveils New First Responder Drone: Knighthawk 2.0(外部)
Knighthawk 2.0の技術仕様を詳細に紹介。40分飛行時間、時速70km巡航速度など。

Drone as First Responder (DFR) for Public Safety | Skydio(外部)
競合他社SkydioのDFRソリューション概要。20秒以内の発進、90秒以内の現場到着を実現。

【編集部後記】

米国では、911通報から70秒で現場上空に到着するドローンシステムが現実のものとなっています。Paladinが発表したKnighthawk 2.0は、地政学的な規制変化を追い風に、公共安全分野でのドローン活用が新たな段階に入ったことを象徴しています。

一方、日本では全国消防本部の約60%がドローンを保有しながらも、その多くは「現場到着後に操縦士が手動で飛ばす」運用に留まっています。技術的な課題というよりも、航空法規制、指令システムとの統合、24時間運用体制の構築といった、システム全体の設計と社会的合意形成が進んでいないことが背景にあります。

「消防隊より先にドローンが到着する」という発想は、緊急対応のあり方そのものを問い直すものです。しかしそれは同時に、24時間空から監視される社会への不安も伴います。米国でも、プライバシー保護とデータ管理の透明性が常に議論の対象となっています。

技術の進化は、私たちに新しい選択を迫ります。日本は米国とは異なる社会文化を持つ国として、どのような形で緊急対応の未来を描くべきでしょうか。皆さんはどのようにお考えですか。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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