Unityは、2026年3月に開催されるGame Developers Conference(GDC)において、アップグレードされたUnity AIのベータ版を公開する。CEOのマット・ブロムバーグが決算説明会で明らかにした。
このツールは、自然言語プロンプトのみでカジュアルゲームを作成できる機能を備え、コーディングの知識や経験を必要としない。Unity AIはOpenAI(GPT)およびMeta(Llama)の大規模言語モデルを活用し、質問への回答やコード生成を行う。対象はパズルゲームやプラットフォーマー、ウォーキングシミュレーターなどのカジュアルゲームに限定される。
ブロムバーグは、この技術がゲーム開発を民主化し、数千万人規模の新たなクリエイターに門戸を開くとの見解を示した。
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Unity AI will let you create ‘full casual games’ with text prompts and no coding experience
【編集部解説】
今回のUnityの発表は、単なる新機能のお披露目にとどまりません。ゲームエンジン業界の勢力図と、AIがクリエイティブ産業にもたらす構造変化の両方を読み解く重要なシグナルとして捉える必要があります。
まず、発表の背景を押さえておきましょう。Unity AIの新機能は、2026年2月11日に行われた2025年第4四半期の決算説明会でCEOのマット・ブロムバーグが明らかにしたものです。同社は2026年の戦略的重点分野として「コラボレーション」と「AIドリブン・オーサリング」の2つを掲げており、後者がまさに今回発表されたAIによるゲーム自動生成機能にあたります。決算説明会ではこれに加え、Unityのオーサリング環境をWebブラウザ上で利用可能にする計画も発表されており、ダウンロード不要でプロジェクトを共有できる「ワンクリックURL」の仕組みも示されました。AIオーサリングとブラウザベースの開発環境は、セットで理解すべき戦略です。
技術的な観点では、Unityの強みは「プロジェクトコンテキストとランタイムに対する独自の理解」にあるとブロムバーグは述べています。これは、汎用的な大規模言語モデル(LLM)だけでは実現しにくい、ゲームエンジン固有の構造やロジックへの最適化を意味します。OpenAIのGPTやMetaのLlamaといったフロンティアモデルを外部から取り込みつつ、Unity自身のランタイムデータと組み合わせることで、より精度の高いコード生成やゲームロジックの構築を目指すアプローチと考えられます。
注目すべきは、今回の対象が「カジュアルゲーム」に限定されている点です。パズルやプラットフォーマーといったシンプルなジャンルが想定されていますが、元記事が指摘するように、「Stardew Valley」のような複雑なシミュレーションもカジュアルに分類されることがあります。GDCでどの程度のクオリティと複雑さを持つゲームがデモされるかが、この技術の実力を測る試金石となるでしょう。
一方で、業界の空気はUnityの楽観的なビジョンとは大きく異なります。GDCが2,300人以上のゲーム業界関係者を対象に実施した「2026 State of the Game Industry」調査によると、生成AIが業界にネガティブな影響を与えていると考える人の割合は52%に達し、前年の30%、前々年の18%から急上昇しています。特にビジュアルアート・テクニカルアート(64%)、ゲームデザイン・ナラティブ(63%)、プログラミング(59%)といった現場の職種ほど否定的な見方が強いことが明らかになっています。
この温度差は、Unityの歴史的経緯とも無関係ではありません。2023年9月に当時のCEOジョン・リチティエッロのもとで発表された「ランタイムフィー」(ゲームのインストール数に基づく課金)は、開発者コミュニティから激しい反発を招きました。多くのインディースタジオがGodotやUnreal Engineへの移行を検討し、リチティエッロは辞任に追い込まれています。後任のブロムバーグは2024年にランタイムフィーを撤廃し、従来のサブスクリプション型に戻しましたが、信頼回復は道半ばの状態にあります。GDC調査ではUnreal Engineがプライマリーエンジンとして42%のシェアを獲得し、Unityの30%を上回る結果が出ていることも、この文脈で理解する必要があります。
そうした中での「AIによるゲーム開発の民主化」という打ち出しは、Unityにとってアドレサブルマーケット(潜在的顧客層)の拡大を図る成長戦略です。決算説明会でブロムバーグは、AIツールにより「数千万人」の新たなクリエイターが参入すると述べ、さらにUnityのアプリ内課金コマースツールを統合することで、ゲームの作成だけでなく収益化までをシームレスに提供する構想を語っています。つまり、ゲームを「作る」だけでなく「ビジネスとして成功させる」までのパイプライン全体をAIで支援するという野心的なビジョンです。
ただし、潜在的なリスクについても冷静に見る必要があります。プロンプトだけで生成されたゲームの品質管理、著作権の取り扱い、そしてゲームストアへの低品質コンテンツの大量流入が懸念されます。AI and Gamesの分析によれば、2025年にSteamでリリースされた20,004本のゲームのうち22%がAIコンテンツ開示を行っており、この数字は2026年にさらに増加すると予測されています。プラットフォーム側のキュレーションや品質基準が、AIゲーム生成ツールの普及に追いつけるかどうかは未知数です。
長期的な視点で見ると、今回のUnityの動きは、ゲームエンジンが「開発ツール」から「AIプラットフォーム」へと進化する転換点を示唆しています。競合のEpic Games(Unreal Engine)もAI統合を進めており、Googleも実験的プロジェクト「Genie」でプロンプトからの世界生成を模索しています。ゲーム開発の参入障壁を下げるテクノロジーが、クリエイティブ産業全体をどう変容させるのか。3月のGDCでの実機デモが、その答えの一端を示すことになるでしょう。
【用語解説】
カジュアルゲーム
パズル、プラットフォーマー、ウォーキングシミュレーターなど、比較的シンプルなルールや操作で楽しめるゲームの総称。ただし、「Stardew Valley」のように奥深いシミュレーション要素を持つ作品もカジュアルに分類されることがある。
AIドリブン・オーサリング
AI技術を活用してコンテンツ(ゲーム、コードなど)を制作・編集するプロセスのこと。Unityが2026年の重点戦略として掲げている。
ランタイム
ゲームが実際にプレイヤーの端末上で動作する際に使用される実行環境。Unityのランタイムに対する独自の理解が、汎用AIモデルとの差別化要因とされている。
アドレサブルマーケット
ある製品やサービスが潜在的にリーチ可能な市場全体の規模を指すビジネス用語。Unityは非コーダー層への拡大により、この市場を大幅に広げる戦略を示している。
【参考リンク】
Unity公式サイト(外部)
2005年登場のクロスプラットフォーム対応ゲームエンジン。コンソール、PC、モバイル、XR開発を支援するNYSE上場企業。
Unity AI公式ページ(外部)
Unity Editorに統合されたAIツール群の公式ページ。Assistant、Generators、Sentisの3機能を提供している。
Unity AI Guiding Principles(外部)
Unity AIの設計原則やデータ取り扱い方針、使用AIモデルのパートナー情報を記載した公式の法的説明ページ。
GDC Festival of Gaming公式サイト(外部)
毎年サンフランシスコで開催されるゲーム業界最大のカンファレンス。2026年は3月9日〜13日に開催予定。
OpenAI公式サイト(外部)
GPTシリーズを開発するAI研究企業。Unity AIのコード生成や質問応答のバックエンドとしてGPTモデルが活用されている。
Meta AI(Llama)公式ページ(外部)
Metaがオープンソースで提供するLLM「Llama」シリーズの公式ページ。Unity AIではGPTと併用されている。
【参考記事】
Unity says its AI tech will soon be able to ‘prompt full casual games into existence’(外部)
Game Developerによる一次報道。ブロムバーグCEOの発言詳細とUnity AIパートナーモデル情報を含む。
Unity Software U Q4 2025 Earnings Call Transcript(外部)
Motley Foolによる決算説明会の全文。Q1ガイダンスや調整後EBITDAマージン等の財務データを含む。
GDC 2026 State of the Game Industry Reveals Impact of Layoffs, Generative AI, and More(外部)
GDC公式の業界調査レポート。生成AI否定的見方52%、AIツール使用率36%等のデータを含む。
One third of game workers using genAI, but half think it’s bad(外部)
Game Developerによる業界調査の詳細分析。職種別AI否定率や管理職との使用率格差を報じている。
10 Predictions for AI in Games for 2026(外部)
AI and Gamesの2026年予測。Steam上のAI開示ゲーム4,311本(22%)等の分析データを含む。
Unity Software Q4 Earnings Call Highlights(外部)
決算ハイライト。Q4調整後EBITDA 1億2,500万ドル、通年FCF 4億ドル超等の数値を含む。
Unity is Canceling the Runtime Fee(外部)
Unity公式によるランタイムフィー撤廃の発表。2023年の導入から撤廃までの経緯をまとめている。
【編集部後記】
「プロンプトだけでゲームが作れる」と聞いて、みなさんはどんな未来を思い描くでしょうか。頭の中にあるアイデアを、コードを書かずに形にできる時代が近づいています。
一方で、誰もが作れるようになったとき、「遊びたい」と思えるゲームは本当に増えるのか。創造の民主化がもたらすものについて、みなさんと一緒に考えていけたらうれしいです。GDCでの実機デモを、ぜひ注目してみてください。







































