カザフスタン中央銀行は2026年3月6日、金・外貨準備から最大3億5000万ドルをデジタル資産に連動した投資に充てる計画を発表した。
総裁のティムール・スレイマノフが明らかにしたもので、投資対象は暗号資産の直接保有にとどまらず、デジタル資産関連のハイテク企業株、暗号資産インフラ企業、暗号資産連動型インデックスファンドなどが含まれる。
副総裁のアリヤ・モルダベコワによれば、投資は2026年4月・5月に開始される予定だ。2月1日時点の同行の金・外貨準備高は694億ドルで、今回の投資額はその一部にとどまる。
国家基金の資産残高は652億3000万ドルである。
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Kazakhstan central bank to invest $350 million worth of gold, forex reserves into digital assets
【編集部解説】
今回のニュースを正確に理解するうえで、まず「中央銀行が準備金を運用する」という行為の意味を押さえておく必要があります。中央銀行の外貨準備は、通貨の安定や緊急時の支払い能力を担保するための資産です。そこにデジタル資産を組み込むという判断は、単なる投資の話ではなく、国家の金融政策そのものが変わりつつあることを示しています。
今回の3億5000万ドルという額は、同行が保有する694億ドルの外貨準備全体のわずか0.5%程度です。副総裁のアリヤ・モルダベコワが「大規模な暗号資産投資ではない」と強調した背景には、こうした慎重な規模設定があります。一方で注目すべきは、投資手法の設計です。直接的な暗号資産の購入は最小限にとどめ、暗号資産インフラ関連企業の株式やインデックスファンド、ヘッジファンドなどを通じた「間接的な露出」を選んでいる点は、リスク管理の観点から極めて合理的な判断といえます。
このニュースは、実は今回が初めての動きではありません。カザフスタンは2025年11月に、押収デジタル資産や国営マイニング収益を原資とした5億〜10億ドル規模の「国家暗号資産準備基金」構想をすでに発表していました。今回の3億5000万ドルはその中央銀行版であり、両者は別立ての制度として並行して進んでいます。
カザフスタンが暗号資産分野に傾斜する背景には、2021年の中国によるマイニング禁止があります。国外に流出したマイナーたちが豊富なエネルギー資源を持つカザフスタンに集中し、同国は一時、世界有数のビットコインマイニング国となりました。この経験が、暗号資産を「投機対象」ではなく「エネルギー・金融インフラ」として捉える国家的視点を育てたともいえます。
ポジティブな側面として、この動きは他の新興国中央銀行への強いシグナルとなり得ます。「中央銀行がデジタル資産を準備資産の一部として認める」という前例が積み上がるほど、制度的な正当性が高まり、機関投資家の参入障壁が下がっていきます。
一方でリスクも見逃せません。暗号資産関連株やファンドは、直接保有よりもボラティリティは低いとはいえ、市場との連動性が高く、国家準備金の運用対象として適切かどうかは議論が続いています。また、130以上の違法取引所を摘発しながら国家として暗号資産に投資するという「統制と活用」の二面的な姿勢は、規制の一貫性という観点から国際社会の注目を集めるでしょう。
長期的に見れば、カザフスタンはデジタル・テンゲ(CBDC)の整備も並行して進めており、国家レベルでの「デジタル金融インフラ」の構築が着々と進んでいます。今回の外貨準備への組み込みは、その構想の一部であり、単発のニュースとして消費するには惜しい文脈を持っています。
【用語解説】
外貨準備(がいかじゅんび)
中央銀行が保有する外国通貨・金・国債などの資産の総称だ。通貨の安定維持や、国際的な決済・緊急時対応のために積み立てられる国家の「最後の砦」ともいえる資産である。
インデックスファンド
特定の市場指数(インデックス)に連動するよう設計された投資信託・ETFの総称だ。今回の文脈では、暗号資産市場全体の動きを追うファンドを指す。個別銘柄への集中投資よりもリスクが分散されるため、機関投資家が暗号資産へ間接的に露出する際によく用いられる手法である。
ヘッジファンド
富裕層や機関投資家から資金を集め、株・債券・デリバティブ・暗号資産など多様な手段で運用する私募ファンド。今回カザフスタン中央銀行は、暗号資産関連に特化したヘッジファンドを通じた間接投資を検討している。
ボラティリティ
資産価格の変動の激しさを示す指標だ。暗号資産は株式や債券と比較してボラティリティが高く、短期間で大きく価格が動くことが多い。中央銀行が直接購入を避け間接投資を選んだ理由の一つでもある。
CBDC(中央銀行デジタル通貨)
Central Bank Digital Currencyの略で、中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨。カザフスタンの「デジタル・テンゲ」はその一例であり、既存の暗号資産とは異なり、国家が価値を保証する点が特徴。
マイニング(暗号資産採掘)
ビットコインなどの暗号資産ネットワークにおいて、取引を検証・記録するための計算処理を行い、報酬として暗号資産を得る行為だ。大量の電力を消費するため、電気代が安い地域に事業者が集中しやすい。カザフスタンは豊富なエネルギー資源を背景に、2021年以降マイニング大国となった。
【参考リンク】
National Bank of Kazakhstan(カザフスタン国立銀行)(外部)
カザフスタンの中央銀行。金融政策の決定・外貨準備の管理・金融規制を担い、今回の投資計画を発表した主体。
Astana International Financial Centre(AIFC)(外部)
アスタナに設置された国際金融特区。フィンテック・ブロックチェーン分野の規制整備を担う。
Reuters(ロイター)(外部)
世界最大級の国際通信社。総裁スレイマノフの声明を最初に報じ、今回の記事の一次情報源として多くのメディアが参照している。
【参考記事】
Kazakhstan central bank to invest up to $350 million in crypto-related assets: report(外部)
The Blockによる報道。間接投資の構造と2025年11月の国家準備基金構想との関係を整理した一次情報に近い記事。
Kazakhstan’s Central Bank Is Putting $350 Million of National Reserves Into Crypto(外部)
ETHNewsによる分析。投資額の引き上げ経緯、5つのファンドを通じた間接投資の構造、違法取引所130件摘発との二面的戦略を詳報している。
Kazakhstan’s Central Bank Moves $350 Million Into Crypto-Linked Assets(外部)
Coindooによる報道。金57トン購入(世界第2位)やデジタル・テンゲの整備状況など、数値を交えた文脈が充実している。
Kazakhstan to launch $1 billion crypto reserve fund using seized assets by 2026: Bloomberg(外部)
The Blockが2025年11月に報じた先行記事。5億〜10億ドル規模の国家暗号資産準備基金の構想とAIFCの役割を詳述している。
Central Bank of Kazakhstan Moves to Invest $350 Million in Digital Assets(外部)
UNLOCK Blockchainによる報道。副総裁モルダベコワの発言と外貨準備694億ドルの数値を確認できる信頼性の高い記事。
【編集部後記】
「国の準備金で暗号資産に投資する」と聞いて、どんな印象を持ちましたか。リスクが高い、時代の流れだ、あるいは自国でも…など、さまざまな受け取り方があるかと思います。
中央銀行の動きは、私たちの日常からは遠く感じられますが、日本円の価値や金融の未来とも無関係ではありません。このニュースを入口に、国家とデジタル資産の関係について、ぜひ一緒に考えてみませんか。







































