Northwestern Universityのエンジニアが「脚型メタマシン」と呼ばれるモジュール型ロボットを開発し、2026年3月6日付けでProceedings of the National Academy of Sciencesに発表した。
各モジュールは長さ半メートル(完全伸展時約62センチ)で、モーター、バッテリー、コンピューターを内蔵した自律ロボットだ。3脚、4脚、5脚の構成で、砂利、芝生、木の根、砂、泥、不揃いなレンガなどの屋外不整地でのテストを実施した。
研究はMcCormick School of Engineeringのサム・クリーグマン助教授が主導し、共同筆頭著者はCenter for Robotics and Biosystemsの博士課程学生、チェン・ユー、デイビッド・マシューズ、ジンシャン・ワンの3名だ。資金はSchmidt Sciences AI2050およびNational Science Foundationが提供した。
From:
These robots are born to run — and never die | Northwestern Now
【編集部解説】
まず、モジュールのサイズについて補足が必要です。プレスリリースでは「half-meter-long(約50センチメートル)」と表記されていますが、PNAS論文の図表キャプションには「完全に伸展した状態で62cm」と記されています。これは誤りではなく、プレスリリース側が概数として表現したものです。実際の数字は62cmと理解するのが正確です。
ロボット工学の世界では、「モジュール型ロボット」の研究自体は以前から存在しています。しかし今回の研究が突破口を開いたのは、「俊敏性」と「野外での進化済み設計」という2点です。従来のモジュール型ロボットは、ゆっくりとした動作や制御された室内環境での動作に留まっており、屋外の不整地で俊敏にアクロバットをこなせるものはありませんでした。また、コンピューター内で進化させた設計を実際に屋外へ持ち出した最初の事例という点も、研究上の重要なマイルストーンと言えます。
この技術の根幹にあるのは「進化的アルゴリズム」です。ダーウィン的な自然選択をシミュレートし、無数のボディ構成を仮想環境でテストして最良のものを選び出します。人間のエンジニアが発想しないような奇妙な形態が生まれるのも、先入観のないアルゴリズムが純粋に「動きやすさ」だけを基準に選別するからです。この設計プロセスは、生物の数億年にわたる形態進化を、コンピューターの処理時間に圧縮することを意味します。
応用の可能性という観点では、災害救助が筆頭に挙がります。倒壊した建物の瓦礫の中や、地震・洪水などで分断されたフィールドでは、従来のロボットは1箇所でも壊れると機能停止してしまいます。脚が折れても残りのモジュールが動き続け、切り離されたパーツでさえ独立して行動できるメタマシンは、そうした環境に本質的に適合しています。また、惑星探査や深海調査といった、修理・回収が困難な遠隔環境への展開も視野に入ります。
一方で、潜在的なリスクについても冷静に見ておく必要があります。自律的に動き、損傷を受けても機能し続け、分離後も独立して行動できるという特性は、軍事・監視用途との親和性が高いことも意味します。現時点では基礎研究の段階ですが、こうした能力を持つ自律型ロボットに対する国際的な規制の枠組みは、まだ十分に整備されていません。自律型致死兵器システム(LAWS)をめぐる国際的な議論が続くなか、「壊しても止まらないロボット」の登場は、その議論を加速させる可能性があります。
長期的な視点から見ると、この研究は「ロボットの設計思想そのもの」を書き換えるかもしれません。これまでのロボットは、特定の目的のために人間が形を決め、製造し、使い捨てるという発想で作られてきました。しかしメタマシンの概念は、環境に応じてロボット自身が形を変え、壊れても機能し続け、必要に応じて再結合するという、生命体に近い設計哲学を体現しています。AIが最適な形態を「進化」させるというアプローチが成熟すれば、設計プロセス自体が人間の関与なく進む未来も見えてきます。
現段階ではあくまで学術研究であり、商用化や大規模展開には多くの工程が残されています。制御アルゴリズムの精度向上、電力消費の最適化、製造コストの低減など、乗り越えるべき課題は少なくありません。ただ、「野外で進化し、野外で動き、野外で生き続ける」という研究上の目標が初めて達成されたという事実は、ロボット工学の歴史においてひとつの節目として記録されるでしょう。
【用語解説】
脚型メタマシン(Legged Metamachines)
本研究で開発されたモジュール型ロボットの総称。複数の自律モジュールが組み合わさって構成されるロボットで、構成単位そのものもロボットとして機能する点が特徴だ。「メタマシン」とは「ロボットからなるロボット」を意味する。
進化的アルゴリズム(Evolutionary Algorithm)
生物の自然選択・突然変異のプロセスをコンピューター上で模倣する最適化手法。優れた設計を「生き残らせ」、劣った設計を「淘汰する」ことを繰り返すことで、人間が設計しないような新しい形態を生み出す。
自律型致死兵器システム(LAWS: Lethal Autonomous Weapons Systems)
人間の直接的な判断を介さずに攻撃判断を行う自律型の兵器システムの総称。国連などを中心に規制の枠組みに関する国際的な議論が続いており、高度な自律ロボット技術の軍事転用をめぐる倫理・法的問題に直結する概念だ。
【参考リンク】
Northwestern University(外部)
米国イリノイ州エバンストンに本部を置く私立研究大学。1851年創立。今回の研究チームが所属する名門校。
McCormick School of Engineering – Northwestern University(外部)
サム・クリーグマン助教授が所属する工学部。本研究の主要な発信元となった先端研究機関。
Center for Robotics and Biosystems(CRB)(外部)
Northwestern University内のロボット工学・生体システム研究センター。共同筆頭著者3名が所属する拠点。
Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)(外部)
米国科学アカデミー発行の査読済み学術誌。1914年創刊。本研究はVol.123 No.10に掲載された。
Agile Legged Locomotion in Reconfigurable Modular Robots(プロジェクト公式ページ)(外部)
本研究の公式ページ。論文・コード・デモ動画・写真ギャラリーへのリンクを集約した一次情報源。
Schmidt Sciences AI2050(外部)
エリック・シュミットらが共同議長を務める研究助成プログラム。5年間・1億2,500万ドルをAI研究に投じる。
National Science Foundation(NSF)(外部)
米国の基礎科学・工学研究への公的資金提供機関。本研究は2件の助成(FRR-2331581・FRR-2440412)を受けた。
【参考動画】
【参考記事】
Agile legged locomotion in reconfigurable modular robots|PNAS(外部)
本研究の査読済み論文。モジュール実寸(62cm)・自由度など詳細な仕様を確認できる一次情報源。
Robots that refuse to fail: AI evolves ‘legged metamachines’|TechXplore(外部)
科学技術専門メディアによる報道。バイオインスパイアード・ロボティクスの文脈でこの研究を位置づけた記事。
From The McCormick School of Engineering At Northwestern University|Science Springs(外部)
PNAS論文の図表を引用し、モジュールの完全伸展時サイズ(62cm)を明記した工学系解説記事。
AI evolved legged robots reconfigure run and survive damage|SpaceWar.com(外部)
進化アルゴリズムが数十億年分の進化を分〜時間単位に圧縮するという時間スケールに言及した宇宙・防衛系記事。
US unveils bizarre-legged robots that self-repair and survive damage|Interesting Engineering(外部)
「機能的な不死性」の概念でメタマシンの損傷耐性をわかりやすく解説した工学・科学系メディアの記事。
AI-evolved robots can survive damage and rebuild themselves in the wild|Knowridge Science Report(外部)
災害対応・探査ミッションなどへの応用可能性を一般読者向けに整理した科学ニュース専門メディアの記事。
AI2050 – Schmidt Sciences(公式サイト)(外部)
共同議長・助成規模(5年間・1億2,500万ドル)などの正確な情報を確認するために参照した公式情報源。
【編集部後記】
「壊れても死なないロボット」という言葉を聞いて、皆さんはどんな未来を想像しましたか。災害救助の現場でしょうか。それとも、まだ名前もない何かでしょうか。
私たちも答えは持っていません。ただ、ロボットが「設計されるもの」から「進化するもの」へと変わりつつある今、その問いを一緒に考えていけたら、と思っています。







































