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ChatGPT・Claude・Geminiに食事プランを作らせたら何が起きたか—思春期栄養とAIの危うい関係

2026年3月12日、トルコの研究者らが学術誌『Frontiers in Nutrition』に研究成果を発表した。

イスタンブール・アトラス大学のアイシェ・ベトゥル・ビレン助教授らは、ChatGPT 4、Gemini 2.5 Pro、Bing Chat-5GPT、Claude 4.1、Perplexityの5つのAIモデルに、減量を目的とする15歳の男女4名(過体重・肥満各2名)を対象とした3日間の食事プランを作成させ、青少年疾患専門の栄養士のプランと比較した。

その結果、AIは必要エネルギー量を栄養士より平均約700キロカロリー低く算出し、タンパク質は約20g多く、脂質はエネルギー比41〜45%、炭水化物はエネルギー比32〜36%と、推奨値から乖離していた。

From: 文献リンクTeens using AI meal plans could be eating too few calories — equivalent to skipping a meal

【編集部解説】

まず、元記事(EurekAlert)に掲載されているAIモデル名について2点補足が必要です。元記事では「ChatGPT 4」と表記されていますが、Science Newsの報道では同研究が使用したモデルは「ChatGPT-4o」と記載されています。また「Bing Chat-5GPT」という表記は本論文が使用した固有の呼称であり、現在Microsoftが「Copilot」としてサービスを提供している製品を指すと考えられます。原文の表記と実際のサービス名の間に齟齬がある点を念頭に置いた上で、本解説をお読みください。

今回の研究が私たちにとって興味深いのは、「AIは便利だ」という前提への根拠ある反証が、査読付き学術誌から提出されたという事実です。生成AIが日常生活に組み込まれていく中で、その精度の限界を科学的に検証する研究は今後ますます重要になります。

今回の研究で用いられたプロンプトは、研究者が設計したものであり、実際の10代が入力するものとは異なる可能性があります。Science Newsでは、シドニー大学のレベッカ・レイサイド氏がこの点を指摘しており、「プロンプトが実際の10代によって書かれたものではない」という方法論上の限界にも目を向ける必要があります。また、今回使用されたのは各AIの無料版のみであり、有料プランや医療特化型AIの評価は含まれていない点も留意が必要です。

この研究が示す本質的な問題は、数値のずれそのものよりも、その「ずれの方向性」にあります。AIが生成したプランは5モデルで共通して、カロリーを少なく、タンパク質と脂質を多く、炭水化物を少なく算出していました。これはたまたまの誤差ではなく、AIが学習したインターネット上のダイエット情報——高タンパク・低糖質を推奨するいわゆる流行のダイエットパターン(ケトジェニックダイエットやパレオダイエットなどが代表例として挙げられますが、論文が直接言及したものではありません)——が反映された「系統的なバイアス」と見ることができます。

思春期の身体が必要とする栄養バランスは、成人と大きく異なります。骨の形成、脳の発達、ホルモンの変動が同時進行するこの時期に、誤った食事制限が課されると、成長障害だけでなく摂食障害のリスクも高まります。Science Newsが報じているように、AIが出した「答え」を信じ込んだ10代が、専門家の栄養士のアドバイスを受け入れにくくなるという実態も報告されており、その影響は数値にとどまりません。

一方で、AIが栄養教育の文脈で有用なツールになりえる可能性は否定されていません。誰もが栄養士にアクセスできるわけではなく、AIが情報格差を埋める入り口となることへの期待は研究者たちも共有しています。問題は「AI自体」ではなく、「専門的な監修なしに単独で使われること」にあります。

規制や制度設計という観点では、この研究は重要な一石を投じています。今後、ヘルスケア領域における生成AIの活用を巡るガイドラインや法的枠組みの議論が、各国で加速することが予想されます。AIが医療・健康情報をどこまで扱えるか、あるいは扱うべきでないかという線引きは、私たちが「テクノロジーと人間の役割分担をどう設計するか」という根本的な問いに直結しています。

【用語解説】

マクロ栄養素
身体のエネルギー源となる3大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)の総称。人体が大量に必要とするため「マクロ(大きな)」と呼ばれる。それぞれの摂取バランスが健康状態に直接影響する。

査読付き学術誌
論文が掲載される前に、その分野の専門家(査読者)が内容を審査するプロセスを経た学術誌。科学的信頼性の担保として国際的に広く採用されている仕組みだ。

ケトジェニックダイエット
炭水化物を極端に制限し、脂質とタンパク質を主なエネルギー源とする食事法。本論文が直接言及したものではなく、研究者が指摘した「流行のダイエットパターン」の代表例として編集部が挙げた。医療目的での使用実績もあるが、成長期の10代には不適切とされる。

パレオダイエット
農耕以前の旧石器時代の食生活を模倣した食事法で、穀物や乳製品、加工食品を避け、肉・魚・野菜・果物・ナッツを中心とする。本論文が直接言及したものではなく、「流行のダイエットパターン」の代表例として編集部が挙げた。高タンパク・低炭水化物が特徴だ。

摂食障害
食行動に関する精神疾患の総称。拒食症(神経性やせ症)や過食症などが含まれる。思春期に発症しやすく、栄養不足や過度なダイエットがリスク因子となる。

系統的なバイアス
測定や推定における誤差が、特定の方向に一貫してずれている状態。今回の研究では5つの異なるAIモデルがすべて同じ方向(カロリー過小・タンパク質過大・炭水化物過小)に偏った結果を示しており、偶発的な誤差ではなく構造的な問題を示唆している。

【参考リンク】

Frontiers in Nutrition(外部)
栄養学・食品科学を専門とするオープンアクセスの国際学術誌。PubMed Central収録。今回の研究の掲載誌だ。

OpenAI(外部)
ChatGPT(今回の研究では4oまたは4)を開発・提供する米国のAI研究企業。大規模言語モデルの研究と応用が主軸だ。

Google Gemini(外部)
Googleが開発・提供する生成AIサービス。今回の研究ではGemini 2.5 Proが評価対象となった。

Anthropic(外部)
研究対象のClaude 4.1を開発する米国のAI安全研究企業。AIの安全性と信頼性の向上を主要テーマとしている。

Perplexity AI(外部)
Web検索と生成AIを統合した情報検索・回答生成サービス。今回の研究の評価対象5つのAIの1つだ。

Microsoft Copilot(旧Bing Chat)(外部)
Microsoftの生成AIサービス。論文では「Bing Chat-5GPT」と表記されており、研究の評価対象の1つだ。

EurekAlert!(外部)
米国科学振興協会(AAAS)運営の科学系ニュースリリース配信サービス。今回の元記事の出典元となったサイトだ。

【参考記事】

AI may be giving teens bad nutrition advice|Science News(外部)
1921年創刊の科学専門誌による詳細報道。使用モデルを「ChatGPT-4o」と明記。シドニー大学など外部専門家のコメントも収録している。

Teens using AI to diet may be told to eat almost 700 fewer daily calories than they need|CNN(外部)
複数の外部専門家コメントを収録。10代の48%が過去1年に減量を試みたというデータにも言及している。

AI-generated dietary advice risks teens’ nutrient intake and may trigger eating disorders|Nutrition Insight(外部)
摂食障害リスクと先行研究データを詳述。AI栄養情報への過信が社会に与える影響を多角的に分析している。

AI-Generated Meal Plans May Cause Teens to Consume Fewer Calories|Bioengineer.org(外部)
脂質・タンパク質・炭水化物の各エネルギー比を推奨値と対比して整理。数値の裏付け確認に使用した記事だ。 

【編集部後記】

今回の研究で使われたのは、各AIモデルの無償版です。「無償版だから精度が低い」という見方もできますが、実際に食事プランを検索している10代の多くも、同じ無償版を使っていると思います。そう考えると、この研究結果はむしろ現実をよく映しているとも言えます。AIとの付き合い方を、一緒に考えていけたらと思っています。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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