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JBL、AI搭載スピーカー&マイク3製品を発表—専用トラック不要、あらゆる曲をカラオケに変換

HARMAN傘下のJBLは2026年3月12日、AIボーカル分離技術「EasySing」を搭載した3製品を発表した。

「JBL PartyBox On-the-Go 2 Plus」は100W出力のポータブルスピーカーで、EasySing Micを1本同梱し、価格は419.95ドル。同日より予約販売を開始し、店頭発売は4月5日である。「JBL EasySing Mics」は2本セットで199.95ドル、店頭発売は4月12日。「JBL EasySing Mic Mini」は179.95ドルで、予約販売開始は4月12日、店頭発売は5月10日である。いずれもオンデバイスAIによるリアルタイムボーカル除去機能を搭載し、原曲ボーカルを0%・25%・50%の3段階で調整できる。販売はJBL.comにて行われる。

From: 文献リンクJBL Unleashes the Power of AI with The Release of the JBL PartyBox On-the-Go 2 Plus, JBL EasySing Mics, and JBL EasySing Mic Mini

【編集部解説】

今回の発表で最も注目すべきは、製品そのものよりも「EasySing」というAI技術の実装方法にあります。楽曲からボーカルをリアルタイムで分離するという技術自体は、LALAL.AIのようなクラウドサービスや、UVRのようなオープンソースソフトウェアが数年前から同種の機能を提供していますが、JBLはそれをスピーカーやマイクのハードウェアに直接組み込みました。クラウドに音声データを送信せず、デバイス上で完結する「オンデバイスAI」処理である点は、遅延の少なさやプライバシーの観点からも重要な設計判断です。

「カラオケ専用トラックが不要になる」という点は、一見シンプルに聞こえますが、その意味は大きいです。従来のカラオケは、レコード会社がカラオケ版を制作・ライセンス供与して初めて成立する仕組みでした。EasySingはそのプロセスを技術的に迂回し、ストリーミングで再生中のあらゆる楽曲をその場でカラオケトラックに変換します。これは利便性の向上である一方、音楽著作権・原盤権をめぐる議論とも無縁ではありません。

著作権上のグレーゾーンについても触れておく必要があります。EasySingが処理するのはあくまでユーザーがすでに合法的に再生している楽曲であり、音源を複製・配布するわけではありません。この点で、生成AIによる楽曲複製問題とは性質が異なります。ただし、音楽業界では2025年以降、AIによるボーカル分離技術が著作権・実演家の権利にどう影響するかという議論が続いており、JBLのこうした製品展開もその流れに置かれることになります。

ポジティブな側面として見逃せないのは、コンテンツクリエイター市場への訴求です。EasySing Mic Miniはマグネットクリップでハンズフリー使用が可能なコンパクト設計であり、カラオケ用途にとどまらず、動画撮影やライブ配信での即興ボーカル収録にも活用できます。「歌う道具」から「表現する道具」へのシフトが、今回の製品ラインナップには読み取れます。

一方で潜在的なリスクとして、ボーカル除去精度への過度な期待は禁物です。現時点でオンデバイスAIによるリアルタイム処理は、クラウドベースの高精度分離と比較すると制約があります。特に複雑なアレンジの楽曲や、ボーカルと楽器が密接に絡み合う楽曲では、分離品質にばらつきが生じる可能性があります。JBLは原曲ボーカルを「0%・25%・50%」の3段階で残せる仕様にしており、完全除去が難しい楽曲では部分的に残す運用が現実的な選択になるでしょう。

長期的な視点では、今回の発表はJBLがEasySingを単一製品の付加機能としてではなく、スピーカー・マイクにまたがる「エコシステム」として育てていく意思表示とも解釈できます。すでにBandBoxシリーズでも、AIによるボーカル/楽器分離という“似たコンセプト”の技術(Stem AI)を採用しており、今後のJBL製品全体にAIボーカル処理が標準搭載されていく流れは自然です。ハードウェアとAIの融合が加速する中で、「音楽を聴く道具」と「音楽を演じる道具」の境界線は、確実に溶けはじめています。

【用語解説】

オンデバイスAI
クラウドサーバーに音声データを送信せず、機器本体(デバイス)上で完結してAI処理を行う技術のこと。通信遅延がなく、プライバシー面でも優位性がある。リアルタイム処理が求められる音声・映像分野での採用が増えている。

原盤権
楽曲の「録音物そのもの」に対する権利。楽曲の著作権(作詞・作曲者の権利)とは別に、レコード会社などの録音制作者が保有する。CDやストリーミングで流れる音源は原盤権によって保護されており、AIによるボーカル分離が原盤権侵害に当たりうるかどうかは、現在も法的に議論が続いている。

UVR(Ultimate Vocal Remover)
AIを活用して楽曲からボーカルと伴奏を分離する、オープンソースのデスクトップソフトウェア。PC上で無料利用でき、インターネット接続なしにローカルで動作する。LALAL.AIと並んで、ボーカル分離ツールの代表的な存在として知られている。

【参考リンク】

JBL 公式サイト(外部)
JBL製品の詳細スペック・予約・購入情報を確認できる公式サイト。PartyBoxシリーズやEasySing製品の情報はここが一次情報となる。

HARMAN ニュースルーム(外部)
JBL・Harman Kardon・AKGなど傘下ブランドの公式ニュースルーム。今回の発表を含む最新プレスリリースや製品情報が掲載されている。

LALAL.AI(外部)
AIによるボーカル・楽器分離のクラウドサービス。最大10種類のステム分離に対応し、EasySingと同種の技術をブラウザ上で提供する代表的なサービスだ。

【参考記事】

JBL EasySing wants to make karaoke less painful for everyone(外部)
EasySing製品の実用性を解説。USB-Cドングルによるプラグアンドプレイの手軽さや30メートルのワイヤレス通信範囲を紹介している。

JBL Brings AI Vocal Removal to Your Next Party with New PartyBox and EasySing Mics(外部)
PartyBox On-the-Go 2 Plusのスペックを詳述。100W RMS出力や10分充電で80分再生の仕様を確認できる。

JBL PartyBox On-The-Go 2 Plus & EasySing Mics: Turn Any Song in a Karaoke Party(外部)
EasySing Mic Miniのクリエイター向け用途に注目。マグネットクリップによるハンズフリー装着や収録用途を具体的に紹介している。

Music and AI: 2025’s developments that will shape 2026’s disputes(外部)
音楽×AIの著作権論争を包括的に解説。UMGやWMGのAI企業との和解・提携など2025年の業界変化を詳述している。

JBL launches Speaker and Mics with new EasySing AI Karaoke Technology(外部)
EasySingのボーカル除去とVoice Boost・ノイズサプレッションの組み合わせを整理。バッテリー性能や防滴性能も確認できる。

【編集部後記】

「あの曲を自分で歌ってみたい」と思ったことは、誰にでもあるのではないでしょうか。AIがその背中をそっと押してくれる時代が、ここまで来たのかと感じます。

みなさんはこの技術を、どんな場面で使ってみたいですか?カラオケはもちろん、コンテンツ制作や日常の表現の場にも、可能性が広がっている気がしています。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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