2026年3月12日、TetherのUSDTをオムニチェーン展開したUSDT0がHederaで稼働を開始した。
USDT0はLayerZeroのOFTスタンダードを基盤に構築されており、ラップドトークン・合成資産・サードパーティのブリッジを必要とせず、クロスチェーンでのステーブルコイン流動性を提供する。Hederaのエコシステムに参加するデベロッパーは、最小限の実装でUSDT0を自身のアプリケーションに統合できる。
Hedera Councilは、Google・IBM・FedEx・Dellを含む世界的企業で構成される。USDT0共同創業者のロレンツォは、今回の統合によって規制された金融とリアルワールドのアプリケーションに特化したエコシステムへオムニチェーンのUSDT流動性を拡張できると述べた。
From:
Hedera integrates USDT0 for crosschain stablecoin liquidity | Hedera
2026/3/17 12:00追記:タイトルでは、「18以上のチェーンを繋ぐ」と紹介していますが、3月17日時点では22のネットワークに更新されています。
【編集部解説】
今回の統合を理解するには、まず「なぜステーブルコインの流動性が分断されてきたのか」という問いから始める必要があります。USDTはイーサリアム、トロン、ソラナなど多数のブロックチェーン上に存在していますが、これらは本質的に別々の資産です。あるチェーン上の資金を別のチェーンに移す際、従来のブリッジは「ラップドトークン(wrapped token)」と呼ばれる代替資産を発行したり、流動性プールを介することでスリッページ(価格のずれ)が発生したりと、摩擦とリスクの温床となってきました。
USDT0はその構造的問題を根本から解決しようとするアプローチです。LayerZeroのOFTスタンダードを使用したロック&ミント方式を採用しており、イーサリアム上のUSDTをスマートコントラクトにロックし、同量のUSDT0を送信先チェーン上でミントすることで、常に1USDT0=1USDTのパリティを保ちます。これにより、ラップドトークンや外部ブリッジに伴うカウンターパーティリスクを排除しています。
実績も積み上がっています。USDT0は約1年足らずで700億ドル(約10兆5000億円、1ドル=150円換算)を超えるクロスチェーン価値移転を処理しており、大規模な相互運用性インフラとしてLayerZero Labsの技術を実証してきました。また、デプロイされた供給量は70億ドルを超え、接続されたブロックチェーンにおいて第4位のステーブルコインにまで成長しています。HederaはこのUSDT0が対応する複数のハイパフォーマンスチェーンのネットワークへと合流したことになります。
Hederaがこの統合に持つ意義は、単なる「チェーン数の追加」ではありません。Hederaはハッシュグラフ技術により高速なファイナリティと低手数料を実現しており、Google・IBM・FedEx・Dellといったグローバル企業が統治に参加するHedera Councilの存在が、規制当局や金融機関にとっての「信頼性の証明」となっています。ここにオムニチェーン流動性が加わることで、エンタープライズ向けのDeFiや決済プロジェクトが求めていた最後のピースが揃いつつあるとも言えます。
ポジティブな側面を挙げれば、開発者にとっての流動性調達コストの劇的な低下が最も直接的な恩恵です。これまでチェーンごとに独自の流動性プールを構築する必要があったデベロッパーが、USDT0を組み込むだけで複数チェーンの流動性に即時アクセスできるようになります。リアルワールドアセット(RWA)のトークン化や、プログラマブルな国際送金・決済における活用可能性が、一気に現実味を帯びます。
一方で潜在的なリスクも見落としてはなりません。TetherはUSDT0の基盤となるUSDTを凍結する権限を保持しており、最終的な償還コントロールはTetherの主要財務に帰属します。つまり、この仕組みの信頼性はLayerZeroのメッセージングスタックとTetherの発行管理に強く依存しており、分散化という観点では一定の集中リスクが内在しています。OFTモデルは外部のラップドアセットを排除する一方で、信頼の根拠をTetherの発行管理とLayerZeroのメッセージングスタックに集約させる構造でもある点は、利用者として理解しておく必要があります。
規制の文脈でも注目度は高まっています。ステーブルコインへの規制整備が世界的に進むなか、今回の統合はHederaが「規制対応可能な金融インフラ」として選ばれていることの象徴でもあります。Hedera Councilの存在はコンプライアンス要件を重視する金融機関にとって他のパブリックチェーンにはない差別化要因であり、今後も制度的資金の受け皿となる可能性を高めています。
長期的な視点では、TetherがLayerZero Labsへの戦略的投資を2026年2月に発表しており、USDT0を単なる実験ではなく、デジタル金融の根幹インフラとして育てていく意志が読み取れます。ステーブルコインが「チェーンに縛られない、真にグローバルなドル」へと進化していく流れの中で、今回のHedera統合はその版図拡大の一里塚として記憶されることになるでしょう。
【用語解説】
オムニチェーン(Omnichain)
複数のブロックチェーンにまたがって、単一の統一されたロジックで動作する設計思想・仕組みのこと。特定のチェーンに依存せず、どのチェーン上でも同一の資産・アプリケーションとして機能することを目指す概念。
OFTスタンダード(Omnichain Fungible Token Standard)
LayerZeroが開発したクロスチェーントークン規格。送信元チェーンでトークンをロック(またはバーン)し、宛先チェーンで同量をミントすることで、ラップドトークンや外部ブリッジを使わずに単一のグローバル供給量を維持したまま複数チェーン間でトークンを移動できる。
ロック&ミント方式
クロスチェーン移転の仕組みの一つ。送信元チェーン(多くの場合イーサリアム)にトークンをスマートコントラクトでロック(封鎖)し、宛先チェーンで同量を新たにミント(発行)する方式。常に発行総量が担保されるため、価値の保全が担保される。
ラップドトークン(Wrapped Token)
あるチェーン上の資産を別チェーンで使用するために、元の資産を担保にして発行される代替トークン。外部ブリッジによる発行のため、スマートコントラクトのバグやブリッジ運営者リスクなど、カウンターパーティリスクが生じやすい。
スリッページ(Slippage)
取引を執行した際に、発注時に期待した価格と実際の約定価格との間に生じる差異のこと。流動性が低いブリッジや取引所では、大口の取引でスリッページが大きくなりやすい。
ファイナリティ(Finality)
ブロックチェーン上のトランザクションが確定・不可逆となる状態のこと。ファイナリティが早いほど、決済や送金の完了確認が速くなる。Hederaはハッシュグラフ技術により数秒以内のファイナリティを実現している。
ハッシュグラフ(Hashgraph)
リーモン・ベアード博士が考案した分散台帳の合意形成アルゴリズム。ブロックチェーンのような逐次的なブロック構造ではなく、有向非巡回グラフ(DAG)構造を用いる。「ゴシップ・アバウト・ゴシップ」プロトコルと仮想投票によって高速処理・省エネルギーを実現し、Hederaネットワークの根幹技術として採用されている。
RWA(Real World Assets)
不動産・債券・株式など、現実世界の資産をブロックチェーン上でトークン化したもの。ステーブルコインの流動性とオンチェーン決済インフラの整備が進むことで、RWAの活用範囲は一層拡大すると見込まれている。
【参考リンク】
Hedera 公式サイト(外部)
ハッシュグラフ技術を基盤とする分散型台帳プラットフォームの公式サイト。Google・IBMらが参加するHedera Councilの詳細も確認できる。
USDT0 公式サイト(外部)
TetherのUSDTをオムニチェーン展開したプロジェクトの公式サイト。LayerZeroのOFTスタンダードを基盤に複数チェーン間での流動性移転を提供している。
USDT0 公式ドキュメント(外部)
USDT0の技術仕様・対応チェーン・利用方法を詳述した一次情報源。OFTモデルの構造や対応チェーン数など実装の正確な情報が掲載されている。
LayerZero 公式サイト(外部)
ブロックチェーン間のクロスチェーン通信を可能にするオムニチェーン相互運用プロトコルの開発元。150以上のチェーンに対応するインフラを提供している。
Tether 公式サイト(外部)
世界最大のステーブルコインUSDTの発行体公式サイト。2026年2月にLayerZero Labsへの戦略的投資を発表し、クロスチェーンインフラを積極的に推進中。
Hedera Council 公式サイト(外部)
Hederaネットワークのガバナンスを担う統治機関の公式サイト。世界有数の企業・機関が参加しネットワークポリシーや更新を管理している。
【参考記事】
Tether Announces Strategic Investment in LayerZero Labs(外部)
Tether社によるLayerZero Labsへの戦略的投資発表。USDT0が1年未満で700億ドル超の価値移転を処理したことを明示している。
The Plasma Case Study: Launch Liquid | LayerZero(外部)
PlasmaへのUSDT0統合事例を詳述。70億ドル超の供給量達成など具体的な数字でOFTインフラの実力を示すLayerZero公式ブログ記事。
Tether makes ‘strategic investment’ into LayerZero Labs | The Block(外部)
USDT0の価値移転が700億ドル超に達したとのTether発表を独自確認した、暗号資産専門メディアThe Blockの報道記事。
The USDT0 Network | USDT0 公式ドキュメント(外部)
USDT0の公式一次情報源。対応チェーン数「22 networks」を明記しており、本記事の訂正根拠として参照した技術仕様ドキュメント。
USDT0 | Superchain Eco(外部)
USDT0の技術仕様・リスク要因を第三者視点でまとめたページ。Tetherによる凍結権限保持など集中リスクについても中立的に記載している。
USDT0 routes liquidity as LayerZero OFT links chains(外部)
OFTモデルの信頼構造がTetherとLayerZeroに集中する点を明示した技術解説記事。リスクの所在を端的に整理している。
Morph Integrates USDT0 | The Daily Hodl(外部)
MorphへのUSDT0統合を報じつつUSDTの時価総額1850億ドル超を示し、USDT0が「ユニバーサルUSDT」として機能する意義を解説した記事。
【編集部後記】
「どのチェーンにいても、USDTは同じUSDT」——そんな世界が、静かに、しかし確実に近づいています。ステーブルコインが真にチェーンの壁を越えるとき、私たちの資産や決済のあり方はどう変わるのでしょうか。
みなさんはどのようにお感じになりますか?ぜひ一緒に考えてみたいと思っています。







































