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小惑星2007 EG、地球から170万kmを通過|NASAが「無害でも追い続ける」理由

[更新]2026年3月17日

小惑星2007 EGは2026年3月15日、地球から約106万マイルの距離を時速約1万7,379マイルで通過した。直径は約140フィート(約43メートル)で、アテン群に属する地球近傍天体である。NASAの潜在的危険天体の基準は「地球から740万km以内かつ直径85メートル以上」であり、2007 EGはいずれの条件も下回る。

ISRO(インド宇宙研究機関)は地球近傍天体の研究拡充を検討しており、元議長エス・ソマナートは国際ミッションへの積極的参加を示した。2029年には小惑星アポフィスが地球に接近する予定であり、インドはNASA、European Space Agency、Japan Aerospace Exploration Agencyとの協力を目指している。

From: 文献リンクHuge 140-Foot, airplane-sized asteroid to pass near Earth today at high speed, NASA Confirms

【編集部解説】

今回の小惑星2007 EGの接近は、メディアが「危険はない」と安心材料を伝えるだけで終わりがちな出来事ですが、その裏側には惑星防衛という人類規模のテーマが静かに動いています。

まず「アテン群」という分類について説明します。アテン群とは、地球が太陽を公転する軌道を横切るような軌道を持つ小惑星の集まりです。軌道が地球の公転経路と交差することから、惑星防衛の観点では特に注目度の高い天体群です。2007 EGもこのアテン群に属し、公転周期は239日——地球の約3分の2のサイクルで太陽の周りを回っています。

元記事では「潜在的に危険な天体」の基準を「直径85メートル以上、かつ地球から740万km以内への接近」と説明しています。しかし、NASAが公式に用いるPHA(Potentially Hazardous Asteroid)の基準では、直径の目安はおよそ140メートル以上とされています。85メートルという数値は他の複数のメディアでも同様に引用されており、出所が一致した誤情報が拡散している可能性が高いと考えられます。2007 EGは直径の推定値自体に幅があり、この点も含めて注意が必要です。

「無害ならなぜ追跡するのか」という疑問は自然です。その答えは「軌道は変わる」からです。木星などの大型惑星が及ぼす微弱な重力の影響は、長い時間をかけて小惑星の軌道を少しずつ変化させます。現在は安全圏でも、数十年後には軌道が変わっているかもしれない——だからこそ継続的なデータの蓄積が不可欠です。今回の接近観測も、そのデータの一つに加わりました。

本記事が最も重要な文脈として示しているのが、2029年に迫る小惑星アポフィスの地球接近です。ESAによると、アポフィスは2029年4月13日に地球表面からわずか3万2,000km以内という距離まで接近します。これは静止軌道上の人工衛星(約3万6,000km)よりも近く、欧州・アフリカ・アジアの一部では肉眼での観測も可能になるとされています。この規模の小惑星がここまで近づくのは、人類が観測記録を持ちはじめて以来、初めてのことです。

この歴史的な接近に向けて、ESAは「Ramses(ラムセス)」ミッションを進めています。1機の探査機がアポフィスに会合し、搭載する2基のCubeSatを現地に展開して多角的に観測を行う計画です。接近前の変化をRamsesが担い、接近後の状態をNASAのOSIRIS-APEXが継続観測する——前後を分担することで、地球の重力がアポフィスに与えた変化を完全に記録しようとする構想です。OSIRIS-APEXは2025年10月時点でESA公式ページにも現役ミッションとして掲載されていますが、NASAの予算をめぐる議論も報告されており、今後の動向は注視が必要です。

元記事でJAXAが協力候補として名前を挙げられているのも、こうした国際的な枠組みの拡大という背景があってのことです。惑星防衛は今や「地球という惑星全体を守る」という視野のもと、各国が技術と知見を持ち寄る分野へと発展しています。小惑星2007 EGの通過は無害なイベントでしたが、観測のたびにデータが積み上がり、いざというときの「準備の精度」が高まっています。2029年のアポフィス接近は、その集大成を世界が目撃できる機会となるでしょう。

【用語解説】

地球近傍天体(NEO / Near Earth Object)
太陽からの距離が1.3AU(約1億9,500万km)以内に近づく軌道を持つ天体の総称。彗星と小惑星の両方が含まれる。NASAのCNEOS(地球近傍天体研究センター)が軌道データを継続的に管理している。

アテン群(Aten Group)
地球近傍天体のうち、軌道の長半径が1AU未満(地球より太陽に近い軌道)を持ちつつ、地球の公転軌道と交差する小惑星の分類。1976年発見の小惑星「アテン」にちなむ。2007 EGはこの群に属し、公転周期は239日である。

PHA(Potentially Hazardous Asteroid/潜在的危険小惑星)
NASAが定める分類で、「地球から0.05AU(約748万km)以内に接近する可能性があり、かつ直径が約140メートル以上」の小惑星を指す。元記事では「85メートル以上」と記載されているが、NASAの公式基準は約140メートルである。

OSIRIS-APEX
小惑星ベンヌのサンプルリターンを完了したNASAの探査機「OSIRIS-REx」を再利用したミッション。2029年のアポフィス接近後に近傍観測・表面分析を担う計画として、2025年10月時点でもESA公式ページに現役ミッションとして掲載されている。NASAの予算をめぐる議論については引き続き注視が必要だ。

Ramsesミッション(RAMSES / Rapid Apophis Mission for Space Safety)
ESAが進める惑星防衛ミッション。1機の探査機がアポフィスに会合し、搭載する2基のCubeSatを現地に展開して多角的な観測を実施する。接近前の状態をRamsesが記録し、接近後をNASAのOSIRIS-APEXが担う形で国際連携が組まれている。JAXAとの協力も検討されている。

静止軌道(Geostationary Orbit)
地球の赤道上空約3万6,000kmに位置する軌道。地球の自転と同期するため衛星が地表から見て静止して見え、通信衛星や気象衛星が多く配置されている。アポフィスの2029年最接近距離(約3万2,000km)はこれよりも地球に近く、接近の異例な近さを示す比較基準として用いられる。

【参考リンク】

NASA(米国航空宇宙局)(外部)
米国航空宇宙局の公式サイト。CNEOS(地球近傍天体研究センター)を通じて小惑星の軌道データや接近情報をリアルタイムで公開している。

ESA Planetary Defence(欧州宇宙機関 惑星防衛)(外部)
ESAの惑星防衛プログラム公式ページ。2029年に地球へ接近する小惑星アポフィスの詳細データとRamsesミッションの最新情報が掲載されている。

ISRO(インド宇宙研究機関)(外部)
インドの国家宇宙機関の公式サイト。地球近傍天体の研究拡充計画とNASA・ESA・JAXAとの国際ミッション協力情報を発信している。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)(外部)
日本の宇宙航空研究開発機構の公式サイト。ESAとの協定に基づくRamsesミッション協力など、惑星防衛分野の取り組みを公開している。

【参考動画】

▲ ESA公式:Ramses — ESA’s mission to rendezvous with asteroid Apophis(2025年10月公開)

▲ NASA動画:Path Along Earth Where Apophis Will Be Visible on April 13, 2029

【参考記事】

Apophis — ESA(欧州宇宙機関)(外部)
アポフィスの接近距離・Ramsesの観測体制・OSIRIS-APEXとの役割分担を確認できる一次情報源。

Asteroid 2007 EG — SpaceReference.org(外部)
小惑星2007 EGの軌道・物理データを集約した専門データベース。公転周期239日とアテン群への分類を確認できる。

NEO Asteroid Close Approach Official Data — Astrophyzix Digital Observatory(外部)
2007 EGの速度(7.77 km/s)を記録した観測データ。元記事の速度数値との整合性確認に活用した。

NASA alert! Huge 140-foot asteroid 2007 EG to pass Earth — Times of India(外部)
速度・距離の数値確認と「85メートル」基準の誤情報拡散の経緯把握に参照した記事。

140-Foot Asteroid Makes Close Pass by Earth Overnight — Ground News(外部)
複数の報道を横断的に比較できるアグリゲーター記事。PHAの正確な基準値(約140メートル)の確認に使用した。 

【関連記事】

小惑星アポフィス観測ミッション「ラムセス」承認。2029年の歴史的接近へ
ESA・JAXAが進めるRamsesミッションの承認経緯と、2029年アポフィス接近に向けた国際協力体制を詳解した記事。

ESAのアポフィス探査ミッション「Ramses」参加を政府に要請 H3ロケットで打ち上げへ
JAXAがRamsesミッションへの参加資金を日本政府に要請した経緯と、OSIRIS-APEXの予算問題を報じた記事。

【編集部後記】

2029年、アポフィスが肉眼で見える夜——そのとき私たちは空を見上げながら、何を思うでしょうか。「宇宙が近くなった」と感じるのか、それとも「地球って守られているんだ」と気づくのか。惑星防衛という言葉はまだ遠い響きかもしれませんが、その最前線では今日も誰かが静かに空を監視しています。そのことを、少し頭の片隅に置いてみてもらえると嬉しいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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