京都大学・金子教授ら、大地震の断層は「突然止まる」と世界初の系統観測

2026年04月24日、京都大学理学研究科の金子善宏教授とJesse Kearse研究員(現:ニュージーランド・ビクトリア大学ウェリントン校研究員)らの研究グループは、大地震の断層のずれ(破壊)が「だんだん弱まって止まる」のではなく「突然止まる」ことを示す観測結果を明らかにした。

世界で起きた内陸の大きな地震12例について、断層近傍で観測された地面の動きを解析した結果、断層の端に近い場所で、地面が一度動いたあとに逆向きに戻るオーバーシュートが共通して確認された。コンピューターシミュレーションにより、この動きは断層のずれが急停止する際に発生する停止波(ストッピングフェーズ)によるものと示された。

大地震では断層が複数のセグメントに沿って「止まる→また動き出す」過程を繰り返しながら広がる。本成果は2026年4月23日に国際学術誌「Science」にオンライン掲載された。

From: 文献リンク断層破壊は突然止まる―停止波の系統的出現を観測・解明―

京都大学公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

長年の通説が覆る、地震の「終わり方」に関する発見です。地震の大きさは「断層のずれがどこで止まるか」で決まりますが、その止まる瞬間そのものは観測点の密度や時間スケールの問題から直接捉えるのが極めて難しく、半世紀以上にわたって理論先行の領域でした。今回の研究は、世界で起きた内陸の大地震12例の近傍記録を再解析することで、その「止まり方」を波形の特徴として系統的に可視化した点に学術的な重みがあります。

注目すべきは、断層の端付近の地震計に共通して現れる「逆向きの動き」、すなわちオーバーシュートです。地表が進行方向に動いた直後に一瞬で逆方向へ振り戻される現象で、共著者のJesse Kearse氏は「車が急ブレーキをかけたとき、シートに体が押し戻される感覚」に例えています。専門的には「停止波(ストッピングフェーズ)」と呼ばれる現象であり、これまで存在は理論的に予想されていたものの、観測データによる体系的な裏付けは得られていませんでした

研究の手堅さは、複数の手法を組み合わせている点にも表れています。地表の強震動記録に加えて衛星測位データで地表変位を裏取りし、さらに動的破壊シミュレーションにより「急停止」のシナリオのみが観測波形を再現できることを確認しています。米Scientific American誌は、解析対象となった12例のうち、断層沿いの観測点が特に十分にそろっていた5例について、停止波の特徴が明瞭に確認されたと報じています。

実用面で見逃せないのが、耐震工学への示唆です。Kearse氏自身がRNZ/The Conversationで述べているように、停止波が地表に到達する際、断層近傍では地面が短時間で向きを変え、条件によっては1メートルを超える規模で逆方向に動く可能性があると説明されています。この「むち打ち型」の地表変位は、断層直近の建築物が受ける揺れや変位を評価するうえで新たに考慮すべき現象であり、将来的には耐震設計や強震動評価の検討課題になる可能性があります

もうひとつ重要なのが、巨大地震の発生メカニズムへの含意です。断層には複数のセグメントの境界が存在し、それぞれが破壊を止める「チェックポイント」として機能します。ここで止まれば被害は局所的にとどまる一方、エネルギーが障壁を突破すれば隣のセグメントへ伝播し、連鎖的に拡大して「メガクエイク」級の地震へ発展します。停止波の研究は、この分岐点を読み解く手がかりを与えるものです。

日本の読者にとって本研究の意義は決して遠くありません。日本列島には中央構造線をはじめ、社会インフラと近接する横ずれ断層が複数存在しています。停止波の物理を組み込んだ強震動評価が進めば、活断層ごとの長期評価や、地点別の揺れ予測の精度向上にもつながり得ます。

一方で、現時点での限界も正しく押さえておきたいところです。本研究の対象は、データが比較的整った横ずれ断層型に限定されており、津波を伴いやすい逆断層型(スラスト型)地震への一般化は今後の課題として残されています。Kearse氏は「同じ停止メカニズムが他の地震タイプにも共通する可能性は高いが、まだ確認はできていない」と明言しています。

最後に視点を引いて見れば、この成果は「観測網の高密度化が、これまで見えなかった現象を初めて可視化する段階に入った」ことを示す象徴的な事例とも言えます。Kearse氏とKaneko氏は、2025年のミャンマー地震を対象に、CCTV映像など従来の地震観測網以外のデータを活用して断層運動を解析する研究にも関わっており、利用可能なあらゆるデータを地震科学に取り込む潮流が、停止波の発見を支えています。

【参考リンク】

京都大学(外部)
本研究の所属機関である日本の総合研究大学。プレスリリース発行元であり、金子教授が所属する理学研究科を擁する。

京都大学 理学研究科(外部)
本研究を実施した部局の公式サイト。地球惑星科学専攻を含む基礎科学分野の研究教育を担う。

Victoria University of Wellington(外部)
共著者Jesse Kearse研究員が現所属するニュージーランドの国立総合大学。地球科学分野で評価が高い。

Science(外部)
本研究論文が掲載された米国科学振興協会(AAAS)発行の国際学術誌。1880年創刊の最高水準の査読誌。

【参考記事】

How do earthquakes end? A seismic ‘stop sign’ could help predict earthquake risk(Scientific American)(外部)
解析対象12例のうち5例で停止波の特定に成功したと報じ、巨大地震への発展条件と今後の研究課題に言及している。

Seismic ‘whiplash’ – new research shows what happens when earthquakes stop suddenly(RNZ News)(外部)
Kearse研究員自身が寄稿。停止波到達時に地面が1秒未満で最大1メートル以上逆方向に動くと説明している。

The “whiplash” effect: How earthquakes arrest and how to stop them(Open Access Government)(外部)
本研究を耐震工学の視点から整理。むち打ち型地表変位が現行の耐震設計の新たな優先課題となると指摘している。

How earthquakes stop: Near-fault records uncover overlooked phase(phys.org)(外部)
強震動加速度記録の解析、衛星データによる検証、動的破壊モデルによる3段階の研究手法を整理している。

Stopping phase reveals abrupt arrest of large strike-slip earthquakes(Science)(外部)
本研究の原著論文。研究対象、手法、用語、数値の正確性を確認できる一次情報源として最重要。

New insights into how earthquakes stop(Kyoto University)(外部)
京都大学公式の英語版プレスリリース。日本語版より詳しい記述を含み、海外メディア報道の起点となっている。

【編集部後記】

地震の「始まり」は速報や解析でよく語られますが、「終わり方」に光が当たる機会は意外と多くありません。今回の研究は、地表が一瞬で逆方向に振り戻される「むち打ち型」の動きが、断層の急停止のサインだと示しました。

みなさんがお住まいの地域やよく訪れる場所の近くにも、横ずれ断層は走っているでしょうか。地震防災を考えるとき、揺れの「強さ」や「長さ」だけでなく、「どんな動き方をするのか」という視点を加えてみると、ハザードマップや耐震情報の見え方が少し変わるかもしれません。みなさんの身近な気づきがあれば、ぜひお聞かせください。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。