DTMクリエイターにとって、夢のような選択肢が突然増えました。
英語も中国語もネイティブ品質で歌うAI歌声ライブラリが、2026年4月24日からゼロ円で使えます。
株式会社テクノスピーチは、歌声合成ソフトウェア「VoiSona」の英語ソングボイスライブラリ「Chis-A [tʃíːseɪ]」を、2026年4月24日より完全無償化した。同ライブラリは日本語・英語・中国語のクロスリンガル歌唱に対応する。
VoiSonaを国内外でより広く活用してもらうことが無償化の目的とされている。すでに「Chis-A [tʃíːseɪ]」の買い切りプランを購入していたユーザーに対しては、「Chis-A [tʃíːseɪ]ライセンス交換キャンペーン」を実施する予定である。引き換え用のクーポンは、2026年4月27日以降、順次メールにて送付される。
From:
「VoiSona」英語ソングボイスライブラリ「Chis-A [tʃíːseɪ]」無償化のお知らせ
※アイキャッチはTechno-Speech, Inc.公式ニュースより引用
【編集部解説】
歌声合成ソフトウェアの世界で、また一つ大きな地殻変動が起きています。株式会社テクノスピーチが、これまで月額880円(税抜800円)もしくは年額6,600円(税抜6,000円)、買い切り13,200円(税込)で提供してきた英語ソングボイスライブラリ「Chis-A [tʃíːseɪ]」を、2026年4月24日付で完全無償化しました。
「Chis-A [tʃíːseɪ]」は、VoiSonaのフラッグシップシンガー「知声(ちせい)」の英語アペンドライブラリとして、2023年2月にサブスクリプションでデビューしたものです。それから3年余りを経て、まさに有償の収益モデルから無償の普及モデルへと舵を切ったかたちです。
注目すべきは、現行の「Chis-A [tʃíːseɪ] 2.0」が、単なる英語特化ではなく、日本語・英語・中国語のクロスリンガル歌唱に対応している点です。ひとつの声質キャラクターが3言語を歌い分けることで、楽曲制作者は言語の壁を意識せずに国際的な配信を視野に入れた制作ができるようになります。
VoiSonaを開発する株式会社テクノスピーチは、国立大学法人名古屋工業大学発のベンチャーであり、CeVIO AIの音声エンジン開発元としても知られる、日本の音声合成研究の中核プレイヤーです。同社が看板製品の英語版を無償化するという判断は、単なるキャンペーンではなく、戦略の変更と読み解けます。
背景には、競合の存在を抜きにしては語れません。Dreamtonics社の「Synthesizer V Studio 2 Pro」は、英語・日本語・中国語・スペイン語・広東語・韓国語の6言語に対応する多言語歌唱機能を備え、AI歌声合成の世界で急速にシェアを拡大しています。VoiSonaが英語ライブラリで対価を取り続けるよりも、まずユーザーに触ってもらう、という選択は合理的なのです。
これは、ヤマハがVOCALOIDで切り拓き、テクノスピーチやDreamtonicsが磨き上げてきた「日本発の歌声合成文化」を世界へ拡張する布石とも捉えられます。日本語のボーカロイド・ボカロ文化はこれまで主にアジア圏で広がってきましたが、英語と中国語のネイティブ品質歌唱が無料で手に入ることで、欧米のクリエイターにとってもVoiSonaは現実的な選択肢に入ってきます。
一方で、潜在的なリスクも見据える必要があります。AI歌声合成は、人間と区別がつかないレベルへ近づきつつあり、声優や歌手の権利、声紋の同意取得、ディープフェイクボイスとの境界線といった倫理課題は、無償化によって裾野が広がるほど顕在化していきます。テクノスピーチは出力された音声波形データを商用利用可能としていますが、これを「誰でも、どこでも」使えるツールとして配ることは、業界全体の規範づくりを加速させる契機にもなりそうです。
なお、すでに買い切りプランを購入していた既存ユーザーへの配慮も用意されています。2026年4月27日以降に順次配布される「ソングボイスライブラリ引き換えクーポン」によって、Chis-A [tʃíːseɪ]の購入実績を他のボイスライブラリへ振り替えられる仕組みです。サブスク・買い切り購入者の信頼を損なわない丁寧な移行設計は、長期的なブランド価値の維持につながる判断と言えます。
長期的に見ると、今回の動きは「歌声合成は表現のインフラになる」という未来像を強く示唆します。プロのDTMクリエイターから個人の表現者まで、誰もが多言語で歌わせられる環境が無料で手に入る時代に、私たちは確実に踏み込もうとしています。
【用語解説】
歌声合成ソフトウェア
入力したメロディと歌詞を、人間の歌声のように出力するソフトウェアの総称。近年は深層学習(ディープラーニング)を用い、人間と区別がつきにくい自然な歌唱を生成できるレベルへ到達している。
ボイスライブラリ
歌声合成ソフトに組み込まれる「歌い手の声」のデータセットだ。ひとつのソフトに対して複数のボイスライブラリを差し替えて使えるのが一般的である。
アペンドライブラリ
既存のボイスライブラリに対して、別言語版や特殊な歌唱表現を追加する拡張データを指す。「Chis-A [tʃíːseɪ]」は日本語ボイスライブラリ「知声」の英語版アペンドライブラリとして登場した。
クロスリンガル歌唱
ひとつの声質モデルが、複数の言語で歌い分けられる機能のこと。本来その言語のネイティブ収録ではない声でも、他言語の発音と歌唱スタイルを再現できる技術である。
DTM(デスクトップミュージック)
パソコン上でDAWソフトウェアやプラグイン音源を用いて行う音楽制作の総称だ。歌声合成ソフトはDTM環境のボーカルパート生成手段として広く活用されている。
ディープフェイクボイス
本人の同意や認知のないまま、AIで特定人物の声を模倣・生成する技術および生成物のこと。歌声合成の高品質化に伴い、声の権利保護や本人性確認が重要な議論テーマとなっている。
【参考リンク】
VoiSona 公式サイト(外部)
株式会社テクノスピーチが運営する歌声合成ソフトVoiSonaの公式サイト。製品情報やボイスライブラリのダウンロードが可能。
Chis-A [tʃíːseɪ] 公式アーティストページ(外部)
今回無償化された英語ボイスライブラリの公式キャラクターページ。声質や対応言語、デモ楽曲などのスペック情報を確認できる。
株式会社テクノスピーチ 公式サイト(外部)
VoiSonaの開発元でCeVIO AIエンジンも手がける、名古屋工業大学発の音声合成ベンチャー企業の公式コーポレートサイト。
Dreamtonics Synthesizer V Studio 2 Pro 製品ページ(外部)
6言語クロスリンガル歌唱対応のAI歌声合成ソフトSynthesizer V Studio 2 Proを展開する開発元の公式ページ。
VOCALOID 公式サイト(ヤマハ)(外部)
ヤマハが2003年技術発表・2004年初製品投入の歌声合成ブランド。初音ミクが象徴する業界最古参の公式サイト。
CeVIO AI 公式サイト(外部)
株式会社フロンティアワークスがブランド運営する歌声・音声合成ソフト。VoiSonaの姉妹プロダクトに当たる。
国立大学法人 名古屋工業大学(外部)
テクノスピーチの母体大学。HMM音声合成オープンソース実装HTSも同大学発の著名プロジェクトとして知られる。
【参考動画】
【参考記事】
AI歌唱ソフト「VoiSona」搭載の英語ソングボイスライブラリ「Chis-A」が完全無償化決定(窓の杜)(外部)
今回の無償化を報じる日本語報道。買い切り13,200円・年額6,600円という従来価格や引き換えクーポンの仕組みを明示。
AI歌唱ソフト「VoiSona」の誕生1周年に合わせ初の英語ボイスライブラリ「Chis-A [tʃíːseɪ]」を発売開始(DTMステーション)(外部)
2023年Chis-A初リリース時の記事。月額880円・年額6,600円のサブスク設計と英語アペンドライブラリの位置づけを解説。
AI歌唱ソフト「VoiSona」の英語ボイスライブラリ「Chis-A [tʃíːseɪ] 2.0」の買い切りプランおよび特別パッケージ版が販売開始!(外部)
Chis-A 2.0発表時の公式アナウンス。新技術で音声品質が向上したバージョンと買い切り移行キャンペーンを告知。
Synthesizer V Studio 2 Pro 製品ページ(Dreamtonics)(外部)
競合Dreamtonics社の公式ページ。英・日・中・西・粤・韓の6言語クロスリンガル対応のスペックが本記事の比較基準となった。
【プレイバック2022】AI歌声合成が歌手を超えた’22年。「Synthesizer V」の進化に驚愕した(AV Watch)(外部)
AI歌声合成が人間と区別不能なレベルへ到達した転換点を整理。VOCALOID・CeVIO・VoiSona・Synthesizer V横断の分析記事。
AI歌唱ソフト「VoiSona」初の英語ボイスライブラリ、「Chis-A [tʃíːseɪ]」発売!(株式会社テクノスピーチ)(外部)
Chis-A初回ローンチ時の公式プレスリリース。次世代の英語歌声合成ボイスライブラリと位置づけた当初メッセージを確認できる。
進化し続ける歌声合成ソフトの世界!(サウンドハウス)(外部)
歌声合成ソフトの歴史を整理したコラム。VOCALOIDが2004年発売であることや各エンジンの違いを横断的に確認できる業界マップ。
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【編集部後記】
歌声合成は「未来の楽器」というより、すでに今、誰もが手に取れる表現の道具になりつつあります。Chis-A [tʃíːseɪ]の無償化は、日本語・英語・中国語の壁を越えて自分の音楽を届けられる入口が、私たちの目の前に開かれた瞬間ではないでしょうか。
DTM経験のある方も、これから一歩を踏み出したい方も、もし試されたら、ぜひその手応えを聞かせてください。AIの声で歌わせるとき、自分のなかにどんな感情が生まれるのか。その小さな気づきこそが、Tech for Human Evolutionに私たちが寄り添う出発点だと感じています。











