SOREST株式会社が、映像AIによる熊検知システム「MIRAI-X KUMA」(みらいえっくす くま)を2026年6月22日に出荷開始します。監視カメラの映像をAIで分析し、ツキノワグマおよびヒグマを検知すると、パトライト、スマートフォンアプリによるSNS通知、Eメールで知らせる仕組みです。日本国内で撮影された映像データを中心に学習させており、生成AIサーバーへ接続するオプションも用意しました。パソコン接続時は最大30台、エッジデバイス接続時は最大2台のカメラ映像を分析できます。価格はオープン価格で、無料の試用キットも提供されます。本製品は韓国・ソウル市のMarkAny Co., Ltd.が開発し、日本拠点のSOREST株式会社が販売を担当します。
From: 【新製品】映像AIによる熊検知システム「MIRAI-X KUMA」(みらいえっくす くま)を提供開始。

【編集部解説】
熊の出没は、いまや「山の出来事」ではなくなりました。環境省の速報値によれば、2025年度の全国の熊による人的被害は238人、うち死亡13人にのぼり、過去最多だった2023年度の被害219人・死亡6人を大きく上回っています。2025年の「今年の漢字」が「熊」に選ばれたことは、この問題が社会の関心の中心へと移った象徴だといえるでしょう。
「MIRAI-X KUMA」は、こうした切迫した状況に対する一つの解答です。最大の特徴は、ツキノワグマとヒグマという日本に生息する2種を、国内で撮影した映像データを中心に学習している点にあります。熊の見え方は季節や天候、時間帯で大きく変わるため、海外の汎用データだけでは精度が出にくい。ここに「日本の現場に最適化する」という思想が込められています。
技術的に注目したいのは、生成AIサーバーとの接続オプションです。映像AIが一次判定を担い、生成AIが二次的な検証を分担することで、誤報を減らす狙いがあります。獣害検知では「いるはずのない熊を検知してしまう過検知」が運用の足かせになりがちで、この役割分担は実務的に理にかなった設計といえます。
もう一つの鍵は「既存設備への接続」という割り切りです。河川監視や交通監視のために設置済みのカメラ、自治体の広報無線、学校の放送設備──こうした既存インフラに乗せることで、導入コストを抑える。新規にゼロから整備するのではなく、すでにある社会基盤を再利用する発想は、予算の限られた自治体にとって現実的な選択肢になります。
この分野は、いま静かな開発競争の只中にあります。NTTドコモは2026年5月から北海道の基地局2局にAIカメラを設置する実証実験を始め、富山市はAIカメラと防災行政無線を連携させたシステムを2025年7月から実証し、同年10月から本格運用しています。NTT系はドローンやレーザーによる追い払いまで視野に入れています。「MIRAI-X KUMA」が参入するのは、こうした大手と地域事業者が競い合う市場です。
開発元のMarkAnyは、1999年創業の韓国・ソウルに本社を置く情報セキュリティ企業で、デジタル著作権管理(DRM)や電子透かし技術を強みとしてきました。映像の真正性を守る技術で培った知見が、監視カメラ映像の解析へと展開されている格好です。映像データを「守る」技術から「読み解く」技術への接続として捉えると、この製品の系譜が見えてきます。
一方で、冷静に見ておくべき点もあります。プレスリリースでは「長年にわたり蓄積した映像データ」による精度をうたっていますが、検知率や誤報率といった具体的な数値は示されていません。価格もオープン価格で、自治体が比較検討するうえで重要なコスト情報は現段階では不透明です。導入を判断する側は、無料の試用キットで自らの環境での性能を確かめる姿勢が欠かせないでしょう。
倫理面では、プレスリリースが「利用者の映像データが一般に公開されることはない」と明記している点を評価したいところです。監視カメラ網と生成AIの接続は、扱い方を誤ればプライバシー侵害につながりかねません。獣害対策という大義のもとでも、何をどこまで記録し、誰がアクセスするのかという議論は避けて通れません。
制度面でも風向きは変わりつつあります。2025年には改正鳥獣保護管理法が施行され、人の日常生活圏での緊急的な銃猟が一定の条件下で可能になりました。検知技術はこうした制度と組み合わさってこそ効果を発揮します。「早く知る」技術と「素早く動ける」制度が噛み合えば、被害低減のスピードは大きく変わるはずです。
長期的に見れば、この種の技術が向かう先は単なる「検知」にとどまらないと考えられます。出没データが蓄積されれば、いずれ「予測」へと進むでしょう。いつ、どこに、どんな個体が現れやすいか──蓄積された映像と位置情報は、人と野生動物の境界を再設計するための地図になりうる。「Tech for Human Evolution」を掲げる私たちが注目するのは、まさにこの「共生のインフラ」としての可能性です。
熊との距離をどう取り直すか。それは気候変動、過疎化、森林の構造変化が重なって生まれた、私たちの社会そのものへの問いでもあります。一台のAIカメラは小さな一歩にすぎません。それでも、人と自然の関係を測り直す技術が現場から立ち上がっている──その事実のなかに、私たちは未来の輪郭を見たいと思います。
【用語解説】
エッジデバイス
データをクラウドに送らず、現場の機器側で直接処理する端末のこと。本製品では小型の解析装置にあたり、通信環境の乏しい山中でも、最大2台のカメラ映像をその場で分析できる。
生成AI
大量のデータから学習し、文章や画像などを自ら生成できるAIの総称。本製品では、映像AIの一次判定を二次的に検証し、誤報を減らす役割で接続される。
パトライト
回転灯・警告灯の総称(製品の通知手段の一つ)。光の点滅によって、その場にいる人へ視覚的に異常を知らせる。
ツキノワグマ/ヒグマ
日本に生息する熊の2種。ツキノワグマは本州・四国に、ヒグマは北海道に分布する。本製品は、この2種を国内撮影の映像データで学習している。
過検知(誤報)
検知対象でないものを誤って検知してしまう現象。獣害検知では運用負担の主因となるため、生成AIによる二次検証で抑制する設計が採られている。
改正鳥獣保護管理法(緊急銃猟)
2025年に施行された改正法。一定の条件下で、人の日常生活圏における緊急的な銃猟を可能にした。検知技術と組み合わさることで、迅速な対応を後押しする制度的基盤である。
OEM提供
他社ブランドの製品として製造・供給する事業形態。SOREST株式会社は創業以来、電機メーカー関連会社へのOEM提供を手がけてきた。
【参考リンク】
SOREST株式会社(公式サイト)(外部)
映像AI技術を扱う技術商社の公式サイト。AI・IoT・5Gを中心に海外IT製品を輸入販売する、本製品の販売元。
SOREST株式会社 AI映像分析(外部)
同社の映像AI分析ソリューション紹介ページ。火災検知や転倒検知など、リアルタイム検知と通知の仕組みを解説する。
MarkAny Co., Ltd.(英語公式サイト)(外部)
本製品の開発元。1999年創業の韓国の情報セキュリティ企業で、DRMや電子透かし技術を強みに事業を広げている。
環境省 クマに関する各種情報・取組(外部)
熊の出没状況や人身被害の分析レポート、対応マニュアルを発信する公的ページ。本記事の被害数値の一次情報源。
【参考動画】
【参考記事】
2025年度のクマ被害、全国238人で過去最多 うち13人死亡(日本経済新聞)(外部)
環境省の2025年度速報値を報じた記事。被害238人・死亡13人で、過去最多だった2023年度を上回ったと伝える。
ドコモ、北海道でクマ出没検知する実証実験 通信基地局にAIカメラ(日本経済新聞)(外部)
NTTドコモが基地局2局にAIカメラを設置し、5月22日から11月30日まで出没検知の実証実験を行うと報じる。
クマ被害、AIやドローンで防げるか NTT系はレーザー活用探る(日経クロステック)(外部)
AIカメラ・ドローン・レーザーなど各社の最新クマ対策技術を横断的に紹介。富山市や山梨県の実証も伝える。
MarkAny Unveils SaForus to Protect Digital Assets with Invisible Watermarking SaaS(SaForus/MarkAny)(外部)
開発元MarkAnyの技術的背景を裏付ける記事。1999年創業で世界3,600超の顧客を持つと示されている。
AIと通信が守る―クマ被害を防ぐ最前線の技術(京セラみらいエンビジョン)(外部)
自治体のAIカメラ・通信連携によるクマ検知事例を解説。富山市「Bアラート」などの実例を紹介している。
【関連記事】
くまアラート™発表、エッジAIで市街地のアーバンベア被害を初動防御─2026年4月実用化へ(内部)
エッジAIで熊を検知しアプリへ一斉通知する早期警告システム。本記事と最も近い検知・通知型のアプローチ。
国産ロボットでクマ被害ゼロへ。Highlanders「KUMAKARA MAMORU」プロジェクトが示す、人と野生動物の新たな共存(内部)
四足歩行ロボットが里山の境界で熊を威嚇・追い払う能動型対策。検知型の本記事と対照をなす一本。
【編集部後記】
熊の出没は、もはやニュースの向こう側の話ではなく、私たちの暮らしのすぐ隣まで来ています。AIカメラが熊を見つける時代に、みなさんはどんな未来を思い描くでしょうか。
便利さと安心が広がる一方で、私たちはどこまで野生動物と距離を取り、どこから記録し見守るべきなのか。技術が進むほど、その線引きは私たち自身に問われていきます。「人と自然の境界をどう引き直すか」を、ぜひ一緒に考えてみませんか。












