未発表キャラクターの名前は、自分のGoogleドキュメントの中にしか書いていない。そう主張するインディー開発者が、Googleの検索AIがその名前を答えたとRedditに投稿しました。Googleは基盤モデルの学習のためにスキャンしていないと否定しましたが、質問したのは開発者本人ではなく、Discordにいた別のプレイヤーでした。
インディーゲーム『Operation Octo』のKlub Kofta Studioが、Googleの検索AIが未発表キャラクター名「Vantage Tripod」を出力したとRedditに投稿した。同作は2025年9月10日にSteamで発売されたタワーディフェンスである。開発者はDiscordのプレイヤーにAIへ質問させ、この名称が回答に含まれたとしている。
名称はゲームのシリアライズ済みデータには入っておらず、思い当たる所在は自身のGoogleドキュメントだけだと主張する。GoogleはPolygonに対し、非公開のWorkspaceコンテンツを基盤AIモデルの学習のためにスキャンしていないと回答した。
開発者が後日、関連する内容を検索した際に同じ情報は得られていない。
From:
Google’s AI Search seemingly leaked unreleased game content and no one knows how
【編集部解説】
この件が不気味なのは、AIが間違えたからではありません。小さなインディーゲームについて、AIが正確すぎたからです。
まず、Googleの回答を正確に読む必要があります。同社が答えたのは「非公開のWorkspaceコンテンツを、基盤モデルを学習するためにスキャンしていない」ということです。加えて、公開共有されたドキュメントのリンクが公開の場に投稿されれば、クローラーにインデックスされ得ることにも触れています。
触れていないのは、回答を作るその瞬間に、非公開のデータが参照されたのかどうかです。何が起きたのかという問いは、そのまま残っています。
「学習に使わない」というGoogleの言葉の射程
そしてここが肝心なのですが、この言葉は、素直に読んだときに想像される範囲より狭いものです。
Google検索のヘルプは、利用者がGmailなどのコンテンツアプリを検索に接続した場合について、こう説明しています。受信トレイやドライブそのものを直接、生成AIモデルの学習に使うことはない。ただし、回答を作る過程で生成された要約・抜粋・推論は、モデルの学習に使う。そして、メールやファイルが短い場合や、問い合わせに特に関連する場合には、その「要約」が本文そのものになることがあると、Google自身が書いています。データの一部は人間のレビュアーが確認するとも明記されています。
直接は学習しない。ただし、そこから作られたものは学習する。この構造を踏まえずに「Googleは学習に使っていない」と伝えると、読者は実際より広い安心を受け取ることになります。
本人のアカウントを前提とした設計
そのうえで、今回の件に戻ります。「やはり非公開ドキュメントが漏れた」と結論づけるのは早計です。質問したのは開発者本人ではなく、Discordにいた別のプレイヤーでした。
ここから先は、今回使われた検索AIがどの機能だったかが特定されていないことを踏まえたうえで、現在公開されている設計を確認するための比較として読んでください。開発者の投稿にあるのは「Googleの検索AI」までで、AI ModeなのかAI概要なのかは分かっていません。
Googleの個人化の仕組みは、いずれも本人のアカウントにログインしていることを前提に設計されています。検索側のPersonal Intelligenceを働かせるには、個人アカウントへのログイン、パーソナライズの有効化、コンテンツアプリの接続に加え、Workspaceのデータを使う場合はスマート機能の設定も関わるなど、複数の条件を満たす必要があります。そして、接続できるコンテンツアプリの一覧に、現在ドライブは含まれていません。ドキュメントやドライブの参照を明示しているのはGemini アプリのほうで、これも同一アカウントでのログインが条件です。
なお、接続対象の記述はGoogleのヘルプページ間で揃っていません。AI Modeの説明ではGmailとGoogleカレンダーから開始とされ、接続設定の説明ではGmailから開始で他のWorkspaceアプリは近日とされています。Google自身が設定を更新中と告知しているためですが、ドライブが現行の一覧にない点は両方に共通しています。
Googleが公開している仕様を確認した限り、本人の個人化設定をオンにしただけで、非公開かつ未共有の他人のドライブの内容が、無関係な第三者の検索セッションに現れる経路は見当たりません。未公開の仕様や不具合まで不存在を証明できるわけではありませんが、少なくともこの筋書きは、公表されている設計とかみ合いません。
残る2つの可能性
ひとつは、Googleが挙げたインデックスの経路です。共有設定がどこかの時点で緩み、リンクが公開の場に置かれていた可能性は、本人の記憶だけでは否定しきれません。この筋であれば、Googleの説明とも矛盾しません。
もうひとつは、AIが言い当てたという可能性です。開発者自身が、この生物が登場すること自体はDiscordで知られていたと書いています。「三脚のような魚」という手がかりが共有されていた以上、そこに有利な位置や見晴らしを連想させる語を組み合わせた名前を生成AIが提示し、それが手元のメモと一致した、という筋は排除できません。
ただし開発者は、未発表のゲームメカニクスにもAIが言及したと述べており、偶然だけで全部を説明しようとすると、今度はそちらが苦しくなります。現時点で、どの説明にも決め手がありません。
日本の利用者にとっての前提
Redditでは「ドライブは既定でAIに提供される設定になっている」という指摘が広がりましたが、これをそのまま日本のユーザーに当てはめるのは正確ではありません。Googleは、欧州経済領域、日本、スイス、英国に居住する利用者について、スマート機能の設定が既定で無効であると明記しています。設定はGmailやドライブの画面から確認できますが、検索側の個人化にはさらに別の条件が絡む点は押さえておく必要があります。
【関連記事】
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今回とほぼ同型の構造を扱った記事。地域ごとの既定値の違いを整理している。
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検索AIが回答の主役になりつつある流れと、その論点を整理している。
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配布と同意の設計という論点で、本件と地続きの事例を扱っている。
【編集部後記】
Klub Kofta Studioが発売前に出した告知には、自分たちを「会社というよりクラブ」と表現した一節がありました。カナダを拠点に2022年夏に始まり、デビュー作を出したばかりの集まりです。
開発者自身は、作品が小規模でオンライン上の情報が少ないことが、AIの回答の具体性を際立たせたのではないかと推測しています。裏を返せば、情報の多いタイトルで同じことが起きたとき、それを誰かが見分けられるのかという話になります。
【用語解説】
検索AI
Google検索が提供する生成AIによる回答。代表的な機能にAI概要(AI Overviews)とAI Modeがあり、学習によって獲得したパターンと、検索で取得した情報の両方を用いて回答を組み立てる。今回どちらが使われたかは特定されていない。
基盤モデルの学習
AIモデルそのものを作る工程で、大量のデータを取り込ませること。回答を作る瞬間に外部の情報を読みに行く「参照」とは、別の段階を指す。
スマート機能とパーソナライズ設定
Workspaceのデータを、Workspace内外の体験の個人最適化に使うかどうかを定める設定。欧州経済領域、日本、スイス、英国に居住する利用者は既定で無効とされている。
シークレットモード
ブラウザーが閲覧履歴やCookieを通常のセッションと分けて扱い、Googleアカウントへ自動ログインしない状態。ただし、それ自体がサービス側の個人化を必ず無効にするものではない。
インデックス
検索エンジンがWeb上のページを巡回し、検索対象として登録すること。公開状態のドキュメントは、リンクが公開の場に置かれれば登録され得る。
タワーディフェンス
進行してくる敵に対し、防衛設備を配置して食い止めるゲームジャンル。『Operation Octo』は、これに被弾回避の要素を組み合わせている。
【参考リンク】
Operation Octo(Steam)(外部)
Klub Kofta Studioが2025年9月10日に発売した水中タワーディフェンス。今回話題となったキャラクターが登場する作品である。
Klub Kofta(itch.io)(外部)
開発元の公式ページ。デモ版の配布や作品情報を掲載しており、スタジオの活動が確認できる。
Gmailヘルプ|スマート機能と設定(外部)
Workspaceのデータをどこまでパーソナライズに使うかを定める設定の説明。地域ごとの既定値の違いも記載されている。
Google検索ヘルプ|コンテンツアプリの接続(外部)
検索に接続したコンテンツの扱いを説明。要約や推論が生成AIの学習に使われることも明記している。
Google検索ヘルプ|AI Mode(外部)
AI Modeの仕組みと提供地域、接続できるコンテンツアプリの範囲を説明した公式ページである。
【参考記事】
Polygon(Googleの声明を取得した報道)(外部)
Googleの広報担当者から直接コメントを得た媒体。学習の否定と共有設定に関する回答を伝えている。
Google’s AI somehow knew a game secret that existed only in a private Google Doc(外部)
発売時期と、開発者がPolygonに語った内容を伝えている。作品の情報量の少なさにも触れている。
Google denies Gemini is trained on private Docs, as indie game dev discovers AI Search leaking unreleased content(外部)
コミュニティが「tripod fish」という存在を把握していた経緯に触れた数少ない記事である。
Google Says Gemini Doesn’t Train on Private Docs After Claims of Unreleased Game Content Leak(外部)
質問したプレイヤーがシークレットモードを使っていた点と、未発表のメカニクスへの言及を伝える。
Google AI Somehow Leaked A Game Dev’s Content Plans Hidden Inside Their ‘Own Google Docs’(外部)
開発者の主張とGoogleの否定が両立し得るかを検討している。読者の反応もあわせて紹介している。


















