広告会社とデータ会社が、ひとつのプログラムに束ねられました。博報堂とインキュデータが始めた「AI Service Design Program」は、構想からPoC設計までの時間を最大で約50%短縮するとしています。ただ、この座組みで効いてくるのは、短縮された時間そのものではないように思います。
株式会社博報堂とインキュデータ株式会社は2026年8月24日、「AI Service Design Program」の提供を開始した。博報堂の生活者理解に基づくサービス企画と、インキュデータのデータ活用・AI技術の知見を組み合わせ、独自のAIエージェント「AI CXperts™」が構想段階から伴走する。公式資料が示す支援内容は4段階で、事業・顧客課題の整理、AI体験サービスの企画、ユーザー検証・実装判断、PoCと進む。企画の段階では、体験シナリオやUX/UI、プロトタイプを具体化する。役割は博報堂がサービス企画と体験設計、インキュデータがデータ解析とAI技術の実装を担う。両社は、サービス機会の構想からPoC設計に要する時間を従来に比べ最大で約50%短縮するとしている。価格は公表していない。
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博報堂とインキュデータ、AI時代の新たなサービス開発を支援する「AI Service Design Program」の提供を開始

【編集部解説】
「AIを入れる」から「AI時代に選ばれる」へ
両社が背景として挙げているのは、企業と生活者のあいだにある接点そのものの変化です。これまでの「検索・比較・選択」から、「AIによる相談・提案・実行支援」へ移りつつある、という整理になっています。
短い一文ですが、射程は広いところです。企業がこれまで整えてきた接点は、自社サイトであり、検索結果であり、アプリでした。そこに生活者が来ることを前提に、動線と画面が設計されてきました。AIが相談窓口の位置に入ると、企業が接点を設計する前提も変わっていきます。生活者はまずAIに相談し、AIが提示した選択肢の中から選ぶ。そうなると、自社の画面に来てもらう前の段階で選ばれる設計が要る。両社の言う「AI時代に選ばれるサービスを設計すること」を、私はそういう変化として受け取りました。
だからこのプログラムは、「AIをどう導入するか」ではなく「AI時代にどんなサービスなら選ばれるか」を問いに置いています。論点を一段ずらしたところに、本件の性格があります。
業務効率化に寄った現在地への、当事者からの診断
もうひとつ、両社が現状認識として書いているのが、多くの企業でAI活用が業務効率化やコンテンツ生成にとどまり、生活者との新しい関係づくりまでは届いていない、という見立てです。
これは支援する側の立場から書かれた文章ですから、割り引いて読む必要はあります。ただ、この見立て自体には頷けるところがあります。業務プロセスの自動化、資料生成、問い合わせ対応。効果が測りやすく、稟議も通りやすい領域から入るのは、順序として自然でした。
そのうえで、次の一歩をどこに置くか。両社はそれを「顧客接点」と名指しました。リリースに添えられた図では、この移行を「守りのAI(最適化・効率化)」から「攻めのAI(付加価値化・価値創造)」へと書き分けています。効率化の延長ではなく、生活者と企業の関係そのものを作り直す場所にAIを置く、という主張です。
広告会社とデータ会社が、同じ座組みに入る意味
役割分担は明快です。博報堂が生活者理解に基づくサービス企画と体験設計を、インキュデータがデータ解析とAI技術の実装を担います。
インキュデータは2019年10月に事業を開始した会社で、現在はソフトバンクと博報堂の出資による合弁企業です(2025年4月1日付でTreasure Data, Inc. が株主から外れ、2社体制になりました)。データ基盤の構築・運用から、生成AIによる業務のAI化までを手がけてきました。2026年7月には、ソフトバンクが実際に運用しているAIガバナンスの知見をもとにした支援サービスも始めています。今回のリリースは、インキュデータ側が持ち込む知見として「データ活用、AI技術およびAIガバナンス」の3つを挙げています。添えられた図でも、同社の担当は「AIガバナンス/データ活用」と書かれています。
この座組みを、私は「作れるか」と「選ばれるか」を一本に通す設計として読みました。構想は面白いが実装に落ちない、あるいは実装はできたが誰にも使われない。企画と実装を別の工程として進めれば、受け渡しのたびに擦り合わせが要ります。ひとつのプログラムに束ねるのは、その手間を工程の外に出さないための答えのひとつです。
「約50%短縮」は、どこを短くする話か
両社は、サービス機会の構想からPoC設計に要する時間を従来に比べ最大で約50%短縮するとしています。
ここで見ておきたいのは、数字の大きさよりもその数字がかかっている範囲です。短縮の対象は「構想からPoC設計まで」であり、PoCが本番サービスに育つ確率や、その先の実装期間ではありません。比較の基準となる「従来」が何を指すのか、対象とした案件や算定の方法も、両社が公表している範囲では特定できません。
もっとも、この範囲設定は的を外していません。構想からPoCへ進むには、やりたいことを具体的なユースケースに落とし、自社のどのデータとシステムで、どこまで実現できるのかを確かめる作業が要ります。公式資料でも、1段目の「事業・顧客課題の整理」に「データ・システム・AI環境の確認」が置かれ、両社は「自社におけるAI活用の実現可能性を明確化し、PoC設計までの意思決定を迅速に進める」としています。この手前の検討こそを支援対象に含めた設計と読めます。
AI CXperts™ という新しい看板
伴走するのは「AI CXperts™」という独自のAIエージェントです。探索・分析・生成を担い、両社のスペシャリストが持つ生活者視点・ブランド視点・事業視点と組み合わせる、と説明されています。
博報堂はここ1年、AIエージェント系の看板を続けて掲げてきました。2025年9月には社内の体験変革と顧客体験を同時に扱う「CX AI STUDIO™」を、その後にはプロトタイプの高速な社会実装を掲げる「NEW CX READY」を発表しています。2025年11月には、グループ横断のAI専門家集団「HCAI Professionals」も新設されました。
今回は、その蓄積が企業の新規サービス開発という場面に向けられた形です。AI CXperts™ については、探索・分析・生成を担うところまでが公表されています。一方で、何を基盤に動き、どこまでを自動化するのかといった技術の詳細は、公表されている範囲では確認できません。価格と提供条件も同じです。
「生活者発想」がAI時代に効くかどうか
最後に、日本の読者にとっての意味を書いておきます。
「生活者」は博報堂が長く使ってきた言葉です。人を消費者としてではなく、生活を営む主体としてとらえる。市場調査の対象ではなく、暮らしの文脈を持った人として見る、という思想がこの一語に込められています。
AIが相談窓口に立つ場面では、この発想の使い道は広がるように思います。AIに何かを頼むとき、人は商品名ではなく状況を話します。「引っ越すのだが何から手をつければいいか」「親の介護が始まりそうだ」。そこにあるのは購買意図ではなく、生活の断面です。その断面を読んで、どんな役に立ち方があるかを構想する仕事は、まさに生活者を見てきた側の領域と重なります。
同時に、問いも生まれます。AIが提案する選択肢の並びを、誰がどう決めるのか。生活者の相談相手であるAIは、誰の代理人なのか。この問いは、AIを使ってサービスを作る全員に、これから共通の宿題として渡されていきます。
構想からPoCまでを半分の時間で通せるようになったとき、空いた時間で何を考えるか。そこがこのプログラムの、そしてAI時代のサービス設計そのものの、いちばん面白い部分になるはずです。
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【編集部後記】
インキュデータの設立発表を読み返すと、2019年の出資者はソフトバンク、博報堂、そしてArm Limitedの3社でした。当時インキュデータが使うとしていたCDPの名は「Arm Treasure Data enterprise CDP」。半導体の設計を担う会社が、生活者データを扱う合弁に出資していた時代です。
2025年に株主は2社となり、いま両社が語っているのは生活者との関係づくりです。技術の側から人の側へ、重心が動いた記録として読めます。次にこの座組みが動くとき、どこの誰が加わるのでしょうか。
【用語解説】
PoC(Proof of Concept)
本格的な開発や投資に進む前に、その構想が技術的・事業的に成り立つかを小さく作って確かめる検証。日本語では概念実証と訳す。
生活者
博報堂が長く用いてきた概念。人を購買の主体としてだけでなく、生活を営む主体としてとらえる考え方を指す。「消費者」と置き換えると、この語が含む視点が落ちる。
AIエージェント
厳密な定義はまだ定まっていない。一般には、与えられた目標や指示に基づいて、自律的または半自律的に問題解決やタスク実行を進めるAIシステムを指す。応答を返すだけでなく、調べる・分析する・作るといった作業を連続して進める点が、従来の対話型AIとの違いになる。
AIガバナンス
組織がAIを使ううえでのリスク管理の仕組み。社内ルールの整備、利用の審査フロー、従業員教育、運用体制の構築までを含む。
UX/UI
UXは利用者が得る体験の全体、UIは画面や操作といった接触面を指す。サービス設計ではこの2つを分けて検討する。
HCAI Professionals
博報堂DYグループが2025年11月18日に設置したAIの専門組織。正式名称は Human-Centered AI Professionals。グループ横断でAI人材・知見・データを集約する。
【参考リンク】
株式会社博報堂(外部)
生活者発想を掲げる総合広告会社の公式サイト。本プログラムではサービス企画と体験設計を担い、AI領域の取り組みも公開している。
インキュデータ株式会社(外部)
ソフトバンクと博報堂が出資するデータ×AIのコンサルティング会社。本プログラムではデータ解析とAI技術の実装を担っている。
「AI Service Design Program」ニュースリリース(PDF版)(外部)
本プログラムを告知した両社連名のニュースリリースのPDF版。全2ページで、提供背景から支援内容、今後の展望までを原文のまま読める。
博報堂「CX AI STUDIO™」ニュースリリース(外部)
2025年9月17日発表。従業員体験の向上を起点に顧客体験価値を高めるワークプレイス「CX AI STUDIO™」の公式リリース。
博報堂「NEW CX READY」ニュースリリース(外部)
2026年1月29日発表。博報堂、アイリッジ、HAKUHODO BRIDGEの3社による対話型の顧客体験実装ソリューション。
博報堂DYホールディングス「Human-Centered AI Professionals」設置リリース(外部)
2025年11月18日設置。博報堂DYグループが横断的にAI人材と知見を集約した専門組織の設置を伝える公式リリースである。
インキュデータ「AIガバナンス支援サービス」(外部)
2026年7月14日発表。ソフトバンクが実際に運用しているAIガバナンスの知見をもとにした支援サービスの公式リリースである。
インキュデータ「株主構成の変更に関するお知らせ」(外部)
2025年4月14日付。同年4月1日にTreasure Data, Inc. が株主から外れ、2社体制になったことを告知している。
【参考記事】
博報堂がAIチームメイトと共にブランド成長を支援する「CX AI STUDIO」を提供開始(外部)
2025年9月18日掲載。CX AI STUDIOがCX構想支援とEXプロセス変革・導入支援の2領域で提供されることを伝えている。
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