入力4.00ドル、キャッシュ入力0.20ドル、出力20.00ドル。Metaの新モデル「Muse Wonder」に付いた値札は、AnthropicのClaude Opus 5.5と単価がそろっています。3か月前、価格の手頃さを掲げて有料APIを始めた会社が、なぜ最上位モデルにこの単価を選んだのでしょうか。
Metaは2026年10月12日、フロンティアモデル「Muse Wonder」と上位版「Muse Wonder Full」を発表した。Muse WonderはMeta Model APIとMuse Codeで提供され、料金は100万トークンあたり入力4.00ドル、出力20.00ドルである。FullはAPIでは提供されず、Muse Codeの月額50ドルと200ドルのプランで使える。
会話をまたいで文脈を保持する「Active Memory」と、作業を粘り強く続ける「Active Focus」を特徴とし、文脈長は100万トークンだ。Muse Wonderは今後、エージェント「Muse」にも有料会員から順次搭載される。
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Muse Wonder: A Frontier Model For Personal & Professional AI Agents
【編集部解説】
今回の発表でまず目を引くのは、性能表よりも値札です。
Muse Wonderの料金は、100万トークンあたり入力4.00ドル、キャッシュ入力0.20ドル、出力20.00ドルです。この3つの数字は、9月に公開されたClaude Opus 5.5の単価と同じ並びになっています。
Metaは7月、Muse Spark 1.1で有料APIを始めた際、価格の手頃さを前面に打ち出していました。現行のMuse Spark 1.3も入力1.25ドル、出力4.25ドルを維持しています。Wonderはその入力で3.2倍、出力で約4.7倍です。手頃なSparkを残したまま、その上に、Opus 5.5と同じ単価で性能を比べてもらうモデルを置いた。今回の価格設定は、Metaがフロンティアの土俵に自ら上がったという宣言として読めます。
なお、TechCrunchは価格を「GPT-6 SolやOpus 5.5とほぼ同等」と伝えていますが、GPT-6 Solは標準料金では、入力が27万2000トークン以下なら入力2ドル、出力10ドルで、Wonderの半額です。単価が重なるのはOpus 5.5の方です。
もう一つの特徴は、上位版のMuse Wonder FullをAPIで売らないことです。Fullが使えるのは、コーディングエージェントMuse Codeの月額50ドルと200ドルのプランだけです。最も強いモデルを自社の開発ツールの中に置き、APIには一段下のWonderを出す。この線引きからは、モデルを部品として卸すより、開発者を自社の道具に呼び込みたいという狙いが見えてきます。
性能はどうでしょうか。Metaが公開した14項目の比較表では、Wonder系が7項目、Opus 5.5が6項目、GPT-6 Astraが1項目で首位に立っています。ただし社内評価と外部評価が混在し、条件もそろっていないため、この個数がそのまま総合順位を示すわけではありません。
勝っている項目を見ると、長時間のソフトウェア開発を測るDeepSWE 1.1(Full 79.0)とSWE-Marathon(同57.5、xhigh設定)、法律業務の成果物を作るHarvey LAB-AA(同13.1)、業務の流れを最後までこなすAutomationBench-AA(同45.4)が並びます。答えを一つ返すより、任された仕事を成果物まで仕上げる力を問う評価が中心です。
一方、ゼロからプログラムを組み直すProgramBenchではOpus 5.5が70.5とFullの59.0を上回り、外部機関Artificial Analysisの総合指数でもOpus 5.5が58、Fullが56です。SWE-Marathonは競合をCodexやClaude Codeで測った数値で、Meta自身が同一条件の比較ではないと注記しています。
この表から読み取れるのは、全面的な首位ではなく、強みの在りかです。そしてその強みは、Metaが目指すパーソナルエージェントの用途と重なっています。
その中心にあるのが「Active Memory」です。会話をまたいで重要な文脈を持ち越し、必要な場面で取り出す機能を指します。
ここで一つ、言葉の整理が要ります。Metaが記憶力の根拠に挙げるMemoryBenchは、Meta社内のベンチマークです。6万4000〜10万トークンに及ぶ長い会話の中に、無関係なやり取りや、途中で事実を上書きする発言を混ぜ、正しい情報を答えられるかを測ります。TechCrunchの記事は、同じ名前を持つ清華大学の研究チームのベンチマーク(利用者のフィードバックから学び続ける力を測るもの)にリンクしていますが、両者は別物です。
この社内評価で、Wonderは85.6、Fullは85.5。Opus 5.5の81.5、GPT-6 Astraの81.4を上回っています。
「先週、予定が変わったと伝えた」ことを覚えているかどうかは、旅行の手配やスケジュール管理を任せるエージェントにとって大きな差になります。9月に米国で提供が始まった消費者向けエージェント「Muse」に、Wonderは有料会員から順次搭載される予定です。記憶力の数字が日々の使い心地にどう現れるか。評価は、そこで決まっていくはずです。
安全性の開示にも触れておきます。モデルカードによると、Metaは対策を施す前のFullについて、化学・生物の領域で「高リスク」の閾値に達する可能性を否定できないと判断し、安全性の追加学習とシステム側の分類器を適用しました。対策後は全領域で「中程度以下」と評価しています。
サイバー能力の評価では、ExploitGymで92個のフラグを獲得したものの、想定どおりの脆弱性を突いたのは21個で、公開ランキングと比べられるのは21の方だと、Meta自ら注記しています。大きな数字だけを掲げず、比べられる数字を並べて示す姿勢は心強いところです。追加の評価を含む完全な安全性レポートは「近日公開」とされており、これはMetaが自ら挙げている宿題です。
日本の開発者にとって、Wonderは選択肢が1つ増えたことを意味します。Meta Model APIはOpenAIのSDKと互換の形式で呼び出せるため、既存のコードからの切り替えは比較的軽く済みます。Opus 5.5と同じ値段で、長時間の作業に強いモデルを試せる。用途によって使い分ける余地が、また一つ広がりました。
組織の作り直しに着手してから14か月。次の焦点は、Wonderの記憶力が、数十億人が使うMetaのサービスの中でどう働くかです。AIの競争軸が「どれだけ賢いか」から「どれだけ覚えていてくれるか」へ広がっていく。Muse Wonderは、その流れを象徴する一手になりそうです。
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【編集部後記】
Metaのブログには、価格とは別の一文がありました。将来はMuse Wonderを使って専門特化のモデルを開発し、Museを使うすべての人に届けるというものです。
だとすると、4.00ドルと20.00ドルの値札に向き合うのは、APIを契約する開発者だけかもしれません。多くの利用者が日々話す相手は、Wonderを土台に作られた別のモデルになりそうです。
いちばん賢いモデルが、舞台裏で働く。そのとき手元のAIが何を土台にしているのか、私たちはどこまで知ることができるでしょうか。
【用語解説】
フロンティアモデル
その時点で最高水準の性能を持つ大規模AIモデルの総称。各社の最上位モデルを指して使われる。
トークン
AIが文章を処理するときの単位。API料金は100万トークンあたりの単価で示されることが多い。
キャッシュ入力
一度送った入力を再利用する際に適用される、割安な入力単価。
文脈長
モデルが1回の処理で扱える入力の長さ。Muse Wonderは100万トークンである。
Active Memory
会話をまたいで重要な文脈を持ち越し、必要な場面で取り出すとMetaが説明する機能。
Active Focus
障害に当たっても別の手を試し、重要な操作の前には確認を取りながら、目標に向けて作業を続けるとMetaが説明する性質。
Muse Code
Metaのコーディングエージェント。端末上で複数のエージェントを使って開発作業を進める。
Muse
Metaの消費者向けAIエージェント。2026年9月に米国で提供が始まった。
パーソナルエージェント
個人の代わりに、予定管理や手配などの作業をこなすAIエージェント。
ベンチマーク
AIモデルの性能を、決まった課題と採点方法で測る評価。
MemoryBench
Meta社内のベンチマーク。6万4000〜10万トークンの長い会話で、途中で更新された事実も含めて正しく思い出せるかを測る。清華大学の研究チームによる同名の評価とは別物である。
SWE-Marathon
大規模なソフトウェア開発プロジェクトをやり遂げられるかを、テストの実行で採点する長時間型のベンチマーク。
Harvey LAB-AA
法律AI企業Harveyの法律エージェント評価を、Artificial Analysisが運用する版。案件書類から法律の成果物を作らせ、基準を満たすかと誤情報の有無を判定する。
xhigh設定
推論にかける計算量の設定の一つ。Metaの比較表のほかの数値は、max設定で測られている。
ExploitGym
AIが脆弱性を突いて目標の情報(フラグ)を取得できるかを測る、サイバー能力の評価。
SDK
ソフトウェア開発キット。APIを呼び出すための部品一式。
【参考リンク】
Muse Wonder(Meta Model API)(外部)
Muse WonderとFullの料金、Muse Codeのプラン、5モデルを並べた14項目のベンチマーク比較表を掲載する公式ページ。
Muse Wonder Model Card(外部)
モデルの仕様、各ベンチマークの評価条件、化学・生物やサイバー領域のリスク評価と既知の制限事項をまとめたMetaの公式文書。
Muse Spark 1.3(Meta Model API)(外部)
手頃な価格帯を担うMuse Spark 1.3の公式ページ。通常版と、製品改善に使われる版の2種類の料金を並べて掲載している。
Meta Model API(外部)
Metaの開発者向けポータル。Muse系モデルのAPI、コーディングエージェントMuse Code、導入ガイドへの入口となる。
Claude API 料金(Anthropic)(外部)
Claude Opus 5.5を含むAnthropicのAPI料金表。入力・出力に加え、キャッシュの書き込みと読み取りの単価も示す。
GPT-6 Sol(OpenAI)(外部)
OpenAIのGPT-6 Solの仕様と料金。標準料金のほか、長い入力に適用される割増料金と処理モード別の料金を掲載する。
Artificial Analysis(外部)
AIモデルを独立して評価する第三者機関。複数の評価を束ねた総合指数Intelligence Indexを公開し、随時更新している。
【参考記事】
Meta releases its first frontier model, Muse Wonder(外部)
TechCrunchの速報。Muse Wonderの価格やMemoryBenchの成績を伝えた。本記事は価格の比較相手とリンク先を訂正した。
MemoryBench: A Benchmark for Memory and Continual Learning in LLM Systems(外部)
清華大学の研究チームの論文。利用者のフィードバックから学び続ける力を測る評価を提案する。Meta社内の同名評価とは別物。
GPT-6 Sol pricing: the $2/$10 tier and every ChatGPT plan in 2026(外部)
GPT-6 Solの料金の解説。標準料金は入力2ドル、出力10ドルで、入力が27万2000トークンを超えると割増になると説明する。
Claude Opus 5.5 pricing in 2026: API costs, plans, real bills(外部)
Claude Opus 5.5の料金の解説。入力4ドル、出力20ドル、キャッシュ読み取り0.20ドルで、Opus 5から下げたと説明する。


















