Cloudflare、判断モデル「Clef-omni」公開 音声・動画を1回で判断、重みもオープンに

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Clef-omniの土台になったQwen3-Omniは、聞いて、見て、声で答えるモデルです。Cloudflareはそこから判断モデルを作るにあたり、声で答える部分を使わないことにしました。残したのは目と耳だけです。文章を一文字も返さないAIに、音声と動画を渡すと何が変わるのでしょうか。


Cloudflareは2026年10月9日、判断特化型のAIモデル「Clef-omni」を公開した。テキストと画像に加え、音声(wav/mp3)と動画(mp4/webm)を1回のAPI呼び出しで受け取り、選択肢ごとの確率を返す。基盤はQwen3-Omni-30B-A3B-Instructで、重みはApache 2.0ライセンスでHugging Faceに公開した。Workers AIでの価格は入力100万トークンあたり0.15ドル。あわせて小型版Clef-flashを0.09ドルから0.038ドルに値下げし、ホスト版のコンテキスト窓を64kから24kに縮めた。上位版Clefは配信基盤の最適化により、公表した測定で中央値の応答時間を最大で約半分にした。

From: 文献リンクIntroducing Clef-omni with full multimodality, plus a faster Clef and a cheaper Clef-flash

【編集部解説】

公開から8日で、判断モデルに耳が付いた

文章を書かずに、選択肢ごとの確率だけを返す。この「判断モデル」という分類は、TypeSafe AIが9月15日に公開したJevから一気に広がりました。

CloudflareのWorkers AIチームが初めて自社で学習させたモデル「Clef」と「Clef-flash」を出したのは10月1日です。同社によれば、判断モデルに取り組むと決めたのが金曜の夜で、週末に学習し、木曜にローンチしたといいます。1週間足らずで作ったモデルに、8日後には音声と動画の入力を足してきた。今回のClef-omniは、その速度の延長線上にあります。

Jevが受け取れるのはテキストだけです。Clefは画像と動画のフレーム列を読めるようにしましたが、音声は扱えませんでした。Clef-omniで、テキスト・画像・音声・動画の4つが1回の呼び出しにそろいます。

文字起こしを別に組まなくていい

Jevのようなテキスト入力の判断モデルで音声を扱うには、段取りが要りました。まず音声認識モデルで文字に起こし、その結果を判断モデルに渡す。動画なら、音声と映像を分けてそれぞれ処理する。複数のモデルを直列につなげば処理の待ち時間が加わり、前段の誤りが後段の判断に影響することもあります。

Clef-omniなら、利用者が別のモデルで文字起こしや画像の説明文を作る工程を挟まず、音声や動画を1回のリクエストで判断にかけられます。内部ではメディアをデコードし、動画は毎秒2フレームで抽出したうえで、文章は生成せずにprefill(入力の読み込み)を1回だけ行います。同じリクエスト内のすべての動画に音声が入っている場合、その音声は映像のフレームと時間を合わせて処理されます。そのうえで、選択肢ごとに入力のどこに根拠があるかを集め、全問をまとめて採点する仕組みです。

Cloudflareが発表で示した例が分かりやすいでしょう。設置した機器について、写真と稼働音の録音とファンの動画を送り、3つを同時に聞きます。型番ラベルは写真に写っているか。異音やガタつきはなく、なめらかに動いている音か。動画の中でファンは回っているか。現場の点検で人が目と耳で確かめていたような問いを、1回のリクエストでまとめて送れるということです。

文字に起こすと抜け落ちる情報もあります。声の調子、背後の物音、機械のうなり。文字起こしを経由しない設計なら、そうした手がかりが判断の材料に残りうる、と考えることができます。

速度は、テキストだけの判断で中央値約130ミリ秒、画像で約150ミリ秒、音声は数百ミリ秒。音声付きの21秒の動画でも、約1.5秒で採点するとしています。

1回のリクエストに入る量

入力 上限(Workers AI) トークン換算の目安
画像 4枚(1枚4MiB・16メガピクセル、合計8MiB) 1枚64〜1,024トークン
音声 4本(1本300秒・8MiB) 約780トークン/分
動画 2本(1本60秒・16MiB) 480pで約8,600トークン/分(音声付きなら約780を加算)
出典:Cloudflare Workers AI「clef-omni」モデルページ(2026年10月12日確認)

音声と動画は、base64をデコードした後の合計で16MiBまでです。URLでは指定できません。1本60秒という動画の上限からすると、想定されているのは長い会議の録画より、短いクリップを大量に仕分ける使い方です。

メディア部分だけで換算すると、1分の音声は約780トークンで、Clef-omniの単価なら約0.0001ドル。480pの音声付き動画1分でも約9,400トークン、約0.0014ドルです。これに、状況の説明や質問のぶんのトークンが加わります。

「Jevより安い」の主語

今回の発表には価格改定が含まれ、Cloudflareは「Jevより安くなった」と書いています。ここは主語を取り違えやすいところです。

モデル 入力100万トークンあたり 円換算(1ドル約158円、10月7日午前の相場で概算)
Clef 0.24ドル(据え置き) 約38円
Clef-omni 0.15ドル(新規) 約24円
Clef-flash 0.09ドル → 0.038ドル 約14円 → 約6円
Jev(参考) 0.042ドル 約7円
出典:Cloudflare Workers AI「Pricing」(2026年10月9日更新)、TypeSafe Docs「Models」。円換算は1ドル約158円(10月7日午前の相場)による概算

いずれも出力トークンは無料です。Jevを下回ったのはClef-flashで、Clef-omniの単価はJevの約3.6倍にあたります。ただ、Jevはそもそも音声と動画を受け取れないため、比べる相手は「Jev単体」ではなく「音声認識+判断モデル」の組み合わせになります。

Clef-flashの値下げには、引き換えがはっきり書かれています。ホスト版のコンテキスト窓を64kから24kに縮めました。Cloudflareの利用データでは、24kを超えるリクエストは全体の0.24%だったといいます。Hugging Face上の重みは変えておらず、256kで学習されているため、自前で動かせば長い入力も扱えます。長い入力が必要なら64kのままのClefへ、という案内も添えられています。何を削って安くしたかを、数字ごと先に示しているのは、使う側にとって判断しやすい開示です。

上位版のClefは、主に配信基盤側の最適化で速くなりました。新しい重みは公開されていません。最適化の一つがSGLangへの移行で、Cloudflareは同プロジェクトにClef対応のプルリクエストを出しています。中央値は約800トークンの入力で262ミリ秒から152ミリ秒へ、約3,400トークンで616ミリ秒から305ミリ秒へ短縮しました。

MoEという構造と、数字に出た性格

Clef-omniは、総パラメータ300億のうち1トークンあたり約30億だけが動く混合専門家(MoE)モデルです。土台のQwen3-Omni-30B-A3B-Instructは、テキスト・画像・音声・動画を1本の流れで処理できる設計で、Cloudflareはその理解部分を使い、音声読み上げの出力部分は使っていません。学習はClefと同じく、本体を凍結して小さなアダプター(LoRA)を学ばせ、確率の較正を目標に加える手法です。

自前で動かす場合、本体にはbf16で約64GBのGPUメモリが要り、検証は単体のH200で行われています。コミュニティによる4bit版は配布サイズが約19.8GBで、そのモデルカードはApple Silicon搭載Macのメモリ32GB以上を目安にしています。

公開されたベンチマークには、得手と不得手が素直に出ています。

項目 Clef-omni Clef Clef-flash Jev
BANKING77(意図分類、macro-F1) 94.8 94.2 90.9 79.7
CLINC150+OOS(範囲外検出込みの意図分類) 97.7 97.4 66.8 89.3
RAGTruth(ハルシネーション検出F1) 42.0 79.4 35.6 76.5
GPQA Diamond(大学院レベルの科学問題) 47.4 48.0 51.0 78.3
出典:Hugging Face「Cloudflare/clef-omni」モデルカード(Decision Index 0.2.1、Cloudflareによる社内実行)。太字は各行の最高値

ここに挙げた2つの意図分類ベンチマークでは、4モデル中で最も高いスコアです。一方、根拠のない記述を見抜くRAGTruthや、多段の推論を要する問題では差が開いています。TypeSafeが公開する業務ワークフロー評価(4つの業務、5つの測定項目)でも、Clef-omniがJevを上回った項目はありません(4項目で下回り、1項目で同点)。この業務評価は、GPT-6 AstraとClaude Fable 5.1の回答の平均を参照ラベルにした比較です。いずれもCloudflareが自社で実行した評価です。

この表から読めるのは、入力形式だけでは決まらない使い分けです。Clef-omniは単価がClefより安く、意図分類ではClefを上回ります。ただ、ハルシネーション検出を測るRAGTruthでは、Clefが上回っています。コストを優先するならClef-flash、評価項目ごとの精度や入力条件に応じてClefとClef-omniを選び分ける。Clefも動画のフレーム列は読めますが、音声や音声付きの動画をそのまま渡したいならClef-omniが候補になります。公開資料には日本語での判断精度が示されていないため、使う前に自分のデータで一致率を測っておきたいところです。

なお、OpenRouter経由のClef-omniは現時点でテキストと画像のみに対応し、音声と動画は「近日対応」とされています。音声と動画を今すぐ試せるのは、Workers AIからの呼び出しです。

社内で動いている4つの判断

Cloudflareは、Clefを社内でどう使っているかも明かしています。公開しているGitHubのドキュメントリポジトリでは、スパムのissueを見つけて閉じる。CMS「EmDash」では、プラグインにフィッシングが紛れていないかを審査する。データ損失防止のチームは、政府発行の身分証番号のような個人情報を探す。脅威インテリジェンスのチームは、悪性ドメインの検出に使う。

並べてみると、どれも量が多く、選択肢が決まっていて、一つひとつは小さい判断です。EmDashは、Cloudflareが「WordPressの精神的後継」と位置づけ、プラグインを隔離して実行する設計を掲げたCMSでした。その審査の一部を、自社の判断モデルが担っています。

Cloudflareは発表の中で、分野ごとの分類には専門の機械学習チームや学習データの収集が必要になる場合があったのに対し、今はモデルを呼び出すだけで始められる、と書いています。検出や分類という機能が、チームの仕事からモデル層の部品へ移りつつあるという見立てです。

届いたものを、そのまま判断にかける

コールセンターの通話、店舗の監視映像、工事現場の記録写真。こうしたメディアをテキスト入力の判断モデルにつなぐには、文字起こしや画像の説明文といった変換を挟む必要がありました。

Clef-omniが示しているのは、その変換を利用者が別のモデルで組み立てずに、届いたメディアから型の決まった判断を得るという道筋です。しかも重みと推論の実装が公開されているため、映像や音声を外部に出せない現場でも、自社の設備で判断の仕組みを構築できます。

Jevが判断を「分解」する設計を広めたとすれば、Clef-omniは判断の「入口」を広げようとしています。どの小さな判断なら、目と耳を持ったモデルに任せられるか。それを測り始める材料が、オープンな形でそろってきました。

【関連記事】

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【編集部後記】

Hugging Faceに置かれたClef-omniのファイルには、土台のQwen3-Omniが持っていた音声出力の部品、talkerとcode2wavの重みが、手を加えないまま同梱されています。公式の読み込み関数は、それを読み込みません。

話す力を持った部品を箱に入れたまま、使わずに出荷する。判断モデルという分類の性格が、このファイル構成に表れているように見えます。外して軽くする道もあったはずです。残した理由を、いつか開発者に聞いてみたいところです。


【用語解説】

判断モデル
文章を生成せず、状況と型の決まった質問を受け取って、選択肢ごとの確率を返すAIモデル。TypeSafe AIのJevが先行し、各社の呼び方は「System One」「decision model」などで分かれている。業界で定まった分類ではない。

混合専門家(MoE:Mixture of Experts)
モデル内部に複数の専門部品を持ち、入力ごとに一部だけを動かす構造。総パラメータに比べて、1回の計算で使う量を抑えられる。

prefill
モデルが入力全体を読み込む処理。文章を1語ずつ生成する工程を伴わないため、判断モデルではこの1回で採点まで済ませる。

LoRA(Low-Rank Adaptation)
大きなモデル本体を凍結したまま、小さな追加部品だけを学習させて特定の用途に適応させる手法。

コンテキスト窓
モデルが1回のリクエストで扱える入力の上限。トークン数で表す。Clef-omniでは、画像・音声・動画もトークンに換算されてこの上限に数えられる。

base64
画像や音声などのバイナリデータを、英数字と記号だけの文字列に変換する方式。Clef-omniのAPIでは、メディアをこの形式で埋め込んで送る。

較正(キャリブレーション)
モデルが示す確率と、実際の正解率が対応している状態。確率0.8と答えた判断のうち、約8割が当たる状態を指す。

macro-F1
分類の精度を測る指標の一つ。クラスごとに適合率と再現率の調和平均を求め、それを平均する。件数の少ないクラスの出来も均等に反映される。

RAGTruth
検索で取得した資料をもとにした生成文について、根拠のない記述(ハルシネーション)をどれだけ見抜けるかを測るベンチマーク。

SGLang
大規模なモデルを高速に動かすための、オープンソースの推論サーバー。CloudflareはClefの配信に採用し、Clef対応のコードをプロジェクトに提供した。

【参考リンク】

Cloudflare/clef-omni(Hugging Face)(外部)
Clef-omniの重みとモデルカード。構造、入力形式、41項目のベンチマーク、自前で動かす際のGPUメモリが載っている。

Workers AI:clef-omni(外部)
Workers AIでClef-omniを呼ぶための公式ページ。画像・音声・動画の上限と、メディアのトークン換算が確認できる。

Workers AI:Pricing(外部)
Workers AIのモデル別料金表。Clef、Clef-omni、Clef-flashの入力単価が並び、10月9日に更新されている。

Cloudflare Blog:Clef and Clef-flash(外部)
10月1日のClefとClef-flashの発表。Workers AIチームが初めて自社で学習させたモデルとして公開された経緯を記す。

TypeSafe Docs:Models(外部)
TypeSafeのJevの公式モデル一覧。価格、コンテキスト長、テキストのみという入力仕様、対応言語の注意書きを載せる。

OpenRouter:Clef Omni(外部)
OpenRouter経由のClef-omni提供ページ。10月12日時点では音声と動画の入力を「近日対応」と案内している。

mlx-community/clef-omni-4bit(外部)
コミュニティによるApple Silicon向け4bit版。配布サイズ、ピークメモリ、公式実装との確率の差を公開している。

【参考記事】

米クラウドフレア、音声・動画も判断するAI「Clef-omni」を公開 重みもオープンに(外部)
Clef-omniの公開を伝える日本語記事。価格、速度、Clef-flashのコンテキスト窓の変更、社内での利用例を簡潔にまとめている。

Cloudflare の Clef とは?Jev との違いをまとめてみた(外部)
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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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