世界最大の音楽企業Universal Music Group(UMG)は2024年10月28日、AI音楽生成企業KLAYとの戦略的パートナーシップを発表した。
このパートナーシップでは、UMGの音楽カタログと専門知識を活用して、「倫理的なAI音楽生成基盤モデル」の開発を進める。KLAYは2023年に設立されたスタートアップで、本社をロサンゼルスに置き、CEOはファティマ・アル・カディリが務めている。
UMGは、このパートナーシップを通じて以下の3つの目標を掲げている:
- アーティストの権利を保護する
- 創造的表現の新しい可能性を開拓する
- 音楽産業の持続可能な発展を支援する
UMGのエグゼクティブバイスプレジデント兼チーフデジタルオフィサーのマイケル・ナッシュは、このパートナーシップがアーティストの権利を守りながら、AIによる音楽創造の可能性を追求する重要な一歩になると述べている。
なお、UMGは2024年1月にすでにYouTubeと同様のパートナーシップを結んでおり、AIを活用した音楽制作の分野で積極的な展開を見せている。UMGの2023年の年間収益は106億ユーロ(約1兆7,000億円)で、世界の音楽市場の約32%のシェアを持っている。
from:Universal Music partners with AI company building an ‘ethical’ music generator
【編集部解説】
今回のUniversal Music Group(UMG)とKLAYのパートナーシップは、AI音楽生成技術の新たな転換点となる可能性を秘めています。
特筆すべきは、KLAYのチームメンバーの顔ぶれです。ByteDanceのSAMIイニシアチブでテックリードを務めたMatt Avent氏、DeepMindでLyriaの開発を主導したBjörn Winckler氏など、音声・音楽AI分野のトップ人材が集結しています。
Klayが開発中の「Large Music Model (KlayMM)」は、従来の音楽AIとは一線を画す特徴を持っています。既存のアーティストのカタログと競合しない形で、新しい音楽体験を提供することを目指しています[1]。これは、著作権侵害や既存アーティストの権利侵害という課題に対する、新しいアプローチと言えるでしょう。
実際、UMGは現在AnthropicやSunoなどのAI企業と著作権侵害を巡って法的な争いを続けています。そんな中でKlayとパートナーシップを結んだことは、UMGがAI技術の可能性を否定するのではなく、適切な形での活用を模索していることを示しています。
興味深いのは、KlayのCEOであるAry Attie氏が「次のビートルズはKlayと共に演奏するだろう」と述べている点です。これは単なるAIによる音楽生成ツールではなく、アーティストとAIの新しい協業の形を示唆しています。
また、UMGは既にYouTubeやBandLab、Endelなど、複数のAI企業とパートナーシップを結んでおり、音楽産業におけるAI活用の包括的な戦略を展開していることが分かります。
このパートナーシップは、著作権保護とAIイノベーションの両立という、音楽業界が直面する重要な課題に対する一つの解答となる可能性を持っています。今後の展開が注目されます。