Last Updated on 2024-11-12 07:42 by admin
Google DeepMindは2024年11月11日、タンパク質構造予測AI「AlphaFold 3」のソースコードとモデルウェイトを学術利用向けに公開した。この発表は、開発者のDemis HassabisとJohn Jumperが2024年ノーベル化学賞を受賞してから数週間後の予期せぬものとなった。
AlphaFold 3は、タンパク質、DNA、RNA、低分子間の複雑な相互作用をモデル化する能力を持ち、従来の物理ベースの手法を上回る予測精度を実現。原子座標を直接扱う拡散ベースのアプローチにより、分子モデリングにおける根本的な転換をもたらしている。
【編集部解説】
タンパク質構造予測の革新的なAIモデル「AlphaFold 3」のオープンソース化は、生命科学研究における大きな転換点となります。
当初、2024年5月の発表時には、DeepMindはコードを非公開とし、ウェブサーバーを通じた限定的なアクセスのみを提供していました。これは研究コミュニティから強い批判を受け、600人以上の研究者が署名した公開書簡が提出されるに至りました。
今回のオープンソース化により、学術機関の研究者たちは、より自由にAlphaFold 3を活用できるようになります。特に注目すべきは、タンパク質とDNA、RNA、リガンドなどの生体分子との相互作用を予測できる機能です。これは創薬プロセスを大きく加速させる可能性を秘めています。
技術面では、AlphaFold 3は「Pairformer」と呼ばれる新しいアーキテクチャを採用し、拡散モデルを組み込むことで予測精度を向上させています。従来のAlphaFold 2と比較して、タンパク質-リガンド相互作用の予測精度が76%まで向上したことは特筆に値します。
一方で、商業利用に関する制限は依然として存在します。これは、DeepMindの子会社であるIsomorphic Labsが創薬事業に注力していることが背景にあります。この制限は、アカデミアと産業界のバランスを取る試みとして理解できます。
興味深いのは、中国のBaiduやByteDance、米国のChai Discoveryなど、複数の企業が独自のAlphaFold 3互換モデルを開発していることです。これは、タンパク質構造予測技術の重要性と、その商業的価値の高さを示しています。
将来的には、この技術は創薬だけでなく、酵素設計や耐性作物の開発など、幅広い分野での応用が期待されます。特に、AIによる分子レベルでの生命現象の理解は、医療や農業に革新的な変化をもたらす可能性があります。
ただし、現時点でのAlphaFold 3には、無秩序領域での構造予測の不正確さや、分子の動的な動きを予測できないといった技術的な制限も存在します。これらの課題は、今後の研究開発によって克服されていくことでしょう。